リニア中央新幹線の開業に向け、JR東海が山梨リニア線で走行試験を続けているL0系改良型試験車。9月28日、実際にその車内から、営業運転を想定した最高時速500キロの世界を体験した。


リニア中央新幹線は、品川〜名古屋駅間286キロを最速40分で結び、将来は大阪まで延伸する計画だ。ここに採用される超電導リニアの技術開発が始まったのは、今から60年以上前の1962年。まだ東海道新幹線すら開業していなかった時代から研究が続けられ、山梨では1997年から走行試験が行われてきた。



これまで「山梨リニア実験線」と呼ばれていた42.8キロの実験区間は、営業運転に向けた技術開発が完了したとして、7月に「山梨リニア線」へ改称。「山梨実験センター」も「山梨リニアセンター」に名称を変更した。


JR東海中央新幹線推進本部副本部長の重田洋常務執行役員は、「営業運転に関わる技術は完成済み。いつでも営業運転できる状態だ」と強調する。現在の山梨リニア線では、営業開始後を見据えた低コスト化や快適性の向上、保守作業の効率化などに開発の軸足を移している。



今回乗車した「M10」は、そのための試験車両だ。従来のL0系改良型試験車をさらにブラッシュアップした中間車で、2025年7月から走行試験を開始した。


無塗装のシルバーの車体には、高速で流れる光をイメージしたゴールドのラインをあしらった。車体表面にはサメ肌のような溝を持つ「リブレットフィルム」を採用し、台車周辺の形状も見直すことで、16両編成換算で空気抵抗を約1%低減。また、従来より高い温度で超電導状態を維持できる「高温超電導磁石」専用の設計とし、液体ヘリウムや磁石内の配管を不要とすることで、構造の簡素化や低コスト化につなげている。


時速500キロの世界を体験



空港の搭乗口を思わせるゲートを抜けて車内へ入り、M10が組み込まれた4号車へ向かう。白を基調とした客室には、オレンジ色の座席が2+2列で並ぶ。寒色系シートの従来車とは雰囲気が変わり、やや温かみのある空間だ。天井にはプロジェクターが設置されており、走行中は前面展望映像や現在の走行位置や速度などが映し出される。(従来の改良型L0系の試乗レポートはこちら)



リニアといえば浮上走行というイメージだが、発車した瞬間から浮いているわけではない。低速域ではゴムタイヤの車輪で走り、一定の速度に達すると車輪を格納して浮上。その後は地上側の推進コイルと車上の超電導磁石の作用によって速度を上げていく。


発車直後は車輪で走るため、走行音や足元から伝わる細かな振動はどことなく新幹線に似ている。速度が157キロに達したところで車体が浮上したが、「浮いた」とはっきり分かるような感覚はない。ただ、車輪から伝わっていた音や振動がすっと小さくなったことで、浮上したことに気付く。



天井に映し出された速度表示は300キロを超え、400キロを超え、それでも数字は上がり続ける。東海道新幹線ならとっくに最高速度に達している領域だが、リニアはまだまだ加速する。「ゴーッ」という風切り音も徐々に大きくなっていく。


浮上から約1分51秒。約10.5キロ走ったところで、「時速500キロに到達しました」と自動放送が流れた。


最高速度で走ったのは約1分間。身構えるような大きな揺れもなく、車内を歩いてみても不安定さは感じない。天井に速度が表示されていなければ、時速500キロで移動していることを忘れてしまいそうになる。



むしろ、浮いていることを意識させられたのは減速時だった。時速136キロ前後まで減速したところで車輪走行に戻ると、「ガクッ」という振動が伝わってきた。飛行機の着陸時に比べればわずかなものだが、体が前につんのめるような感覚もあり、この瞬間だけは座席に腰掛けていたほうがよさそうだと感じた。


「技術は完成」、次に待つのは開業



リニア中央新幹線には、単に東京〜名古屋駅間を短時間で結ぶ以上の役割もある。JR東海が掲げる大きな目的は、東海道新幹線に並ぶもう一つの高速鉄道ルートを整備する「大動脈の二重系化」だ。


開業から60年以上が経過した東海道新幹線の将来的な大規模改修への備えに加え、南海トラフ巨大地震などの大規模災害時にも東名阪の三大都市圏を結ぶ交通網を維持する狙いがある。


今すぐにでも営業運転できる段階まで技術開発が成熟した一方、営業線の整備はまだ道半ばで、具体的な開業時期はまだ示されていない。JR東海によると、品川〜名古屋駅間では工事契約済みの区間が全体の9割強となり、用地取得も約85%まで進んだ。工事の大きな焦点となってきた静岡工区を巡る状況も動き始め、現在は着工に向けた取り組みが進められている。



品川〜名古屋間をわずか40分で結ぶという構想は長く「未来の鉄道」として語られてきた。しかし、重田常務が「いつでも営業運転できる」と話すように、その技術はすでに実用化できる段階まで来ている。時速500キロで駆け抜ける車内にいると、「未来の乗り物」という呼び方は、そろそろ似合わなくなってきたように思えた。

情報提供元: Traicy
記事名:「 「品川〜名古屋40分」の未来、どこまで来た? 最新型リニアに乗って見えた中央新幹線の現在地 」