3日目、ハノイ新市街の「Pullman Hanoi Hotel(プルマン・ハノイ・ホテル)」をチェックアウトし、ツアーバスは一路、世界遺産「ハロン湾」を目指す。国立の土産店でのトイレ・ストップなどを挟み、片道3時間半の道のりだ。ハロン湾観光を日帰りツアーで堪能する旅行者も多いが、往復移動に8時間近くを費やして日帰りで戻ってしまうのはやはりもったいない。旅行日程が短い日本人旅行者であってもぜひとも宿泊を伴う「ハロン湾クルーズ」を体験していただきたく、今回は世界遺産たる奇景の中、ハロン湾内に宿泊するクルーズを紹介したい。
ツアーバスが目指すのはハロン湾クルーズの中でも屈指の豪華さとホスピタリティを誇る、パラダイスクルーズ社の船。正午をやや回った時刻、各社のクルーズ船が出航する港に到着すると、一行はレストランやバーが併設された広いラウンジでウェルカム・ドリンクのもてなしを受ける。
その間に乗船&チェックインの手続きが進み、バゲージはツアーバスから電動カートに移し替えられ、長距離移動で固まったカラダを解す間もなく、出航準備が整っていく。つづいてバゲージとともにカートに乗り込み、制限区域の港湾内を移動、乗客を待つクルーズ船へ横付けする形だ。
出迎えてくれた船体は「Paradise Elegance(パラダイス・エレガンス)」、大人数のグループや家族での利用に適したタイプのクルーズ船だ。その他、ハネムナーやシニア・カップルに適した「Paradise Luxury(パラダイス・ラクジュアリー)」、全客室スイートルーム設定という「Paradise Peak(パラダイス・ピーク)」と利用者層に合わせた3種の船体のバリエーションを有し、それぞれが1泊2日、2泊3日のクルーズ・コース設定を持っている。
美しいベルベットのアオザイに身を包んだスタッフに見送られ、桟橋からボーディング、船内スタッフの出迎えを受け、それぞれがキャビン(客室)へと向かう。
「パラダイス・エレガンス」の船内は3層構造、1階はフロントデスク、スパに加えキャビンが、2階部はキャビンがすべてを占め、3階はダイニング・ルームと生演奏も行われるバーカウンターとラウンジという造り、そして最上階、つまりはルーフトップにもバー・カウンターが設置されている。
渡されたカード・キーでキャビンの扉を開くとそこは船の中とは思えない質の高い造りの部屋が待ち受けている。ベッドサイドや内装、調度品はもちろん、シャワーボックスやトイレ、洗面所などの水回りまでもが市中のホテルをそのまま切り取ってきたかのような充実ぶりを見せる。船の中にありながら、バスルーブで寛げる市中高級ホテルと同等レベルのルーム・クオリティが用意されているのだ。さらにガラス戸の向こうには小ぶりながらバルコニーが用意され、客室からハロン湾の奇景を独り占めできる幸福も味わえてしまう。
部屋で荷物を解きはじめるとクルーズ船は動き出し、間もなく昼食の案内が船内放送で告げられる。3階のダイニング・ルームに歩みを進めるとブッフェ・スタイルのランチが用意されており、ベトナム料理に舌鼓を打ちつつ、船窓を流れていくハロン湾を眺めるもよし、食後のコーヒーを片手にルーフトップで全方位の世界遺産を味わうのもよし、それぞれが自分のペースで午餐のひと時を楽しむことができる。
クルーズと聞くと船上でゆったり過ごすイメージだろうか、人によっては退屈との戦いになりそうな不安も抱かせるが、「パラダイス・クルーズ」では乗客を退屈させず、ハロン湾を味わい尽くすアクティビティ・メニューがさまざま用意されている。
午後2時、ランチ(小型船)に乗り移り、ハロン湾内に5つある鍾乳洞の中で最大の「スンソット洞窟」を探訪、1時間弱の鍾乳洞散策へ。
船に戻り、シャワーでリフレッシュすると、午後4時には再びランチに乗り込み、「真珠養殖場」の見学と「シーカヤック(有料オプション)」体験へ。
日が傾きはじめる午後5時頃、ルーフトップではシェフによる「クッキング・デモンストレーション」が行われ、希望者はベトナム料理の手ほどきを受けることも。ハロン湾の美しい夕景をバックにデッキには涼やかな風が吹きはじめ、船上はさらなるリラックス・タイムに包まれていく。
これらバラエティに富んだアクティビティはいずれも自由参加、船に残り、景観を楽しむ人もいれば、ビールグラスを傾ける人も。さらには希望すれば船内のスパ・ルームにてマッサージ・サービス(時間帯予約制)を頼むことも可能。アクティブに楽しむのも世界遺産の風景に心癒されるのも船内スパで身体ごと癒されるのもあなた次第というわけだ。
船内ではスタッフも放送もすべてが英語での案内、日本人旅行者は一抹の不安を覚えるかもしれないが、ことクルーズ旅においては、カタコトの日本語がラグジュアリーな雰囲気を壊してしまう面も忘れてはならない。日本語の通じない環境であっても乗員スタッフの折り目正しいホスピタリティと質の高いサーバントは安心感に繋がり、海の上の滞在という非日常性を色濃くしてくれる役割を担ってくれている。
陽が落ちるとディナー・タイムの放送が船内に流れ、促されるように各々がダイニング・テーブルに集う。夕食は西洋料理とベトナム料理からチョイスできる「ア・ラ・カルト・メニュー」、こだわってメインだけベトナム料理になんてワガママも聞いてくれるのだ。あるいは夫婦や友達同士で異なるお皿を選べば写真を撮る手が止まらないなんて悩ましい状態に。食後はカクテルやワイン片手にバー・ラウンジでピアノとボーカリストが奏でる音楽に身を委ねるか、クルーに釣り竿を借り、イカ釣りに興じても楽しい、なにせハロン湾の夜はまだまだ長い。
4日目、ホテルと同等のベッドでたっぷり休んだ朝にもアクティビティの用意が。午前7時半にランチで小島に上陸、小高い丘を目指し、軽いトレッキングで汗を流す。湾内に吹き込む朝の新鮮な空気をカラダに取り込み、生まれ変わった気分で船に戻れば、ダイニング・ルームでのブランチが待ち受けている。ブランチでエネルギーを入れ、身繕いをするとクルーズ旅にもエンディングの時が。世界遺産ハロン湾のクルージングをラストまで楽しみながら、港に帰り着き、キーを戻すとクルーズ旅からもチェックアウトとなる。1泊2日の船旅の短かさを恨む瞬間とも言えよう。
午前11時頃、ツアーバスはふたたび3時間半の道のりをハノイに向け、ひた走る。国立ドライブインでのトイレストップを挟み、午後2時半に新市街の「プルマン・ハノイ」へ再度チェックイン。ツアー一行は夕食ピックアップまでの時間を地元スパ組、軽食組、地元スーパー組などそれぞれに分かれ、短い時間を有効利用する。
軽食組はタクシーに分乗し、在住経験のあるベトナム航空の方にオバマ大統領が訪れた「ブンチャー」のローカル食堂を案内してもらう。旧市街、ホアン・キエム湖の南側にある「フーンリエン」がそのお店、タクシーに「オバマ」というだけで連れていってもらえるほど有名な店だ。
ベトナムというと1にも2にも米の麺「フォー」があげられるが、同じように庶民の胃袋を満たす手軽な米の麺料理が「ブンチャー」、これは日本の「素麺」に似た形状の麺をつけ汁に浸して食べるスタイルだ。近年、値上がり傾向の「フォー」は敬遠されつつあり、「ブンチャー」が隠れ人気だという。店内にはあちらこちらにオバマ大統領の写真、メニューには彼が注文した「ブンチャー、揚げ春巻き、ビール」のセットが「オバマセット」(85,000VND、約425円)の名で人気を博している。「ブンチャー」単品は40,000VND(約200円)、大きな器に入ったつけ汁はシンガポールや香港で馴染みのある甘いポーク・ジャーキーの味にも似て日本人にも食べやすい、ぜひともハノイ訪問の際にはご賞味あれ。こうして普通の食堂に足を向け、地元の人と肩を並べローカルフードを頬張るというひと時を作るのも、行程が定められたツアーの楽しみ方のひとつでもあります。
夕食後の自由な時間にはふたたび足を伸ばし、旧市街を探訪。安宿が連なり、世界中のバジェット・トラベラーが集う旧市街エリアは旅行者ばかりでなく、地元の若者に人気のカフェ、バー、スイーツの店が目白押し、ハノイを訪れたなら足を踏み入れたいエリアだ。バーで音楽を楽しむ、未体験のローカルグルメを掘り当てる、路面店でベトナム・スイーツと出会う、踏み出せばあなただけの旅の思い出がそこに落ちているはず。
5日目、帰国便が翌日深夜0時過ぎ出発のため、最終日と捉えても違わない一日。ツアー一行は今回訪れるもう一つの世界遺産「タンロン皇城の中心区域」へ向かった。2010年、世界遺産に認定されるまでは重要な軍事拠点だったため、その広大な敷地は立入禁止区域として謎のベールに包まれていたが、現在は徐々にその公開エリアを広げつつある。この国が変貌しつつあることをこういった遺跡の公開からも汲み取ることができる。広大な城内を歩いて観て回ることになるが、液体物の持ち込みが禁止されているのが夏の観光にはつらいところ、日よけ代わりにベトナム扇子が配られるが辛抱と工夫が必要、宝物殿や地下壕などエアコンが効いたポイントもあるので体調を考慮しながら見学してほしい。
かつての王朝が築いた首都「タンロン」だが、旧王朝時代にロマンに思いを馳せるよりもベトナム戦争の遺品や地下壕といったものに印象を引きずられてしまう。やはり近代の戦争の持つインパクトは圧倒的、それも忘れてはならない「遺跡」であろう。
ツアーバスは「文廟」へ、いわゆる中国文化圏で見かけける「孔子廟」がここではこう呼ばれている。かつてはベトナムでも「科挙」が行われ、石碑には合格者の名が刻まれているため、今でも受験生が訪れ、ここで撮影会をするのが習わしとなっているとか。
ハノイ市内の観光を終えると午後はホテルのバンケット・ルームで地元観光局主催のワークショップが開催された。観光局はもちろん、現地手配会社、旅行会社と日本側の旅行会社とメディアの面々が情報交換と交流を兼ねたひと時、今後のハノイ観光への手がかり、足掛かりを探る大事な時間が持たれた。
その後、レイト・チェックアウト設定していた部屋をチェックアウト。深夜出発便においては遅い時間まで部屋を使える「レイト・チェックアウト」できるホテルをチョイスしておくのが旅のラストのキーポイントでもある。空港に向かう前にシャワーを浴びられれば、深夜便もなんのその、閉まらないスーツケースと部屋でゆっくり格闘できるのも女性には大きな大きな利点、空港ロビーでスーツケース広げるなんてシーンは回避したい。これもホテル相場がグンと安いベトナムならではのプラス面、レイト・チェックアウトの追加料金が大きな負担にならないで済む。
夕食を済ませ、ツアーバスはハノイ・ノイバイ空港へ。「龍が昇る土地」=「タンロン」のあるハノイに旅ははじまり、「竜が舞い降りた地」=「ハロン」で時を過ごし、王朝が栄えた「タンロン」城址で旅を終えた一行は関空、名古屋、福岡、そして成田とそれぞれがそれぞれの家路に飛んだ。
ベトナム航空は10月から、大阪/関西~ダナン線就航を正式発表、就航を記念したセールも開催する。(取材協力:ベトナム航空、ハノイ市観光局)