先日Twitterで、現役のバス運転手の方が”路線バス運転手の仕事のヤバさ”について解説したツイートが多く拡散され、話題になっていました。














今回はこの内容もふまえて、バス運転手の待遇や問題の改善方法について考えてみたいと思います。






路線バス運転手の働き方はどれだけヤバい?



上記のツイート内でまとめられていた内容をざっくり言うと、以下のようなポイントがあげられます。





・路線バス運転手は仕事内容のわりに給料が低い



・拘束時間が長いが、実際の乗務時間しか賃金が発生しない(給料にならない休憩時間が多い)



・現状の法律では、1日16時間までの拘束が認められており、また最大13連勤まで可能。人手不足のため、この法律のラインぎりぎりの働き方を強いられ、休みは月3~4日程度



・ダイヤの遅れの積み重ねなどにより、休憩時間が削られることもしばしば。トイレに行く暇もなく運転しっぱなしの日も



・運転手が足りないため、ダイヤ改正で運行本数を減らす→仕事が減り給料が安くなり、さらに運転手が辞める→人手不足の中で、運転手の休憩時間を確保するためさらに減便…という負のスパイラル



・多くの人の命を預かる責任の大きい仕事でありながら、しっかり休むことができず、かつ給料は平均程度。好きな仕事に就いたはずの多くのバス運転手が仕事を辞めている




この内容を見ると、たしかに過酷な労働環境といえそうです。



しかし、そもそもまずここで紹介されている状況は一般的なものなのでしょうか?

また、この状況を改善していくにはどんな方法があるのでしょうか?



高速バスマーケティング研究所の成定(なりさだ)さんに意見を聞いてみました。






実情はどうなのか? 専門家に聞いてみた









結論から言えば、会社や働き方によって待遇は大きく変わります。これはバス運転手に限らずどの業界・職種でも同様だと思います。


路線バスの運転手について言えば、給与面では世の中の平均と比べて決して悪いとまでは言えないと思いますが、労働時間については改善が必要なケースは多いと思います。


また、人手が不足しているのはたしかですが、これはバス業界に限った問題ではありません。







   




平均年収は約400万円。バス運転手の給与は適正?



   

給与に関しても、公営(都バス、市バスなど)や大手私鉄系などに勤務しているのか、小規模な個人経営企業に勤務しているのかによって変わってきます。



しかし、私も監修として参加しているバス運転手専門の求人サイト「バスドライバーnavi(どらなび)」のデータでは、バス業界の平均年収は約400万円。世の中の平均年収と大きく変わらない数字です。



バスドライバーnavi(どらなび)



「どらなび」社長・中嶋美恵さんインタビュー



くわえて、公営事業者の場合はそもそも公務員ですし、民間であっても大手私鉄は公益的な企業なので倒産などはあまり考えられず、かつ労働組合の力が強いためリストラにあう可能性も低い、ということで安定性の高い仕事といえるでしょう。






一方で、もともと人の生命を預かるという責任の大きい仕事であるうえに、勤務時間は長く、また接客面で求められるレベルが高くなり運転手の業務も増えてきています。

その中で、今の給与で十分とは言えないというのも理解できます。






残業、休日出勤などによる労働時間の長さは改善が必要



   



路線バスの場合、朝ラッシュと夕方ラッシュに需要が集中します。そして両方を運行する場合、昼間に数時間の「中間開放(中抜け)」を設定し、その間は勤務時間外だとする会社が増えています。



※乗合バス事業者(路線・高速バス)の場合、この「中間開放」以外では1分単位や10分単位で細かく残業手当がつきます。また休日出勤時には休日手当が支給されます。



この間は家に帰っても休憩室で寝ていても問題ないのですが、結果的に拘束時間が長くなるというのはたしかだと思います。






バス運転に関わる法令(例「バス運転者の労働時間等の改善基準」)は、「安全のために、これ以上運転してはいけない時間」について定められたものです。



これは安全上の上限値であり、所定労働時間については各事業者でもっと短く決められています。しかし、残業や休日出勤を頼まれることが多く、繁忙日や繁忙期には法令ギリギリまで乗務することもあるのが実情でしょう。



本人も合意の上、休日出勤手当をもらって乗務するとはいえ、会社から休日出勤を頼まれれば断りづらいという事情はあるでしょうし、休日が月3~4日だとすると過酷ですね。






人手不足は事実。でも不人気職種というわけではない



   

人手不足については、どの業界でも問題になっていることで、バス業界に限ったものではありません。

特に大きな要因としては、団塊世代の定年退職があげられます。



あわせて、「若年層へのアピールや育成を怠ってきた」「(男社会という思い込みもあり)女性運転手が少ない」など、バス業界固有の理由もあって運転手不足が進んでいます。






しかし、例えば某大手私鉄系の乗合バス事業者の採用担当者によると、同社の運転手採用の倍率は現在12~13倍。100人の応募者のうち内定が出るのが7~8人、という狭き門です。



これも会社によって状況は異なるでしょうが、決して人気がなくて応募者が集まらない業界とはいえないでしょう。






好待遇のバス会社もある





実際に、バス運転手専門の求人サイト「どらなび」をチェックしてみると、好待遇といっても良さそうな求人情報を見つけることができました。



例えば以下のような求人が掲載されています↓



【遠州鉄道】

・拘束手当支給

・月7~9日の休日

・保育園や社宅を完備

・独身寮は光熱費込で月1万円台



【琴平バス】

・月給25万円~35万円スタート

・賞与年2回

・勤務時間は週平均40時間以内

・男性社員の育児休暇取得実績あり






路線バスだけでなく高速バスの運転手なども含まれていますが、特に福利厚生や設備など待遇面を充実させたバス会社も増えてきているようです。






運転手不足を改善する方法は大きく2つ





とはいえ、業界全体でいえば人手不足であることは事実。

どうすれば運転手が増え、またそれによって働き方を改善していけるのでしょうか。












現在、国や自治体から補助金が投入されていますが、財政状況を考えると補助金の大幅な増額は期待薄。

改善策として有効だと考えられるのは、「若者」と「女性」の活躍推進です。
現在まだ数が少ないこの層から運転手になる人が増えてくれば、状況は少しずつ変わっていくでしょう。すでに取り組みを始めている企業もあります。










若者採用には教育・支援が大事



  

バスの運転に必要な大型二種免許は、普通免許取得後3年経過している必要があるため、高卒時点(18歳)では取得できません。



また、バス運転手を育てる専門学校のようなものもなく、これまでは「自身で大型二種免許を取得し、中途入社の試験を受けに来る」のが一般的でした。






そんな中、最近導入され始めているのが以下のような制度です。





・「大型二種免許取得支援制度」…二種を持っていない人にも内々定を出し、教習所費用を事業者が負担して大型二種を取得させる。取得後に入社となる。





・「養成制度」…まずは運転手見習いとして入社し、事務や整備工場を経験しながら会社の費用で大型二種を取得。取得後に運転手に配置転換。





・「新卒採用」…高校や大学の新卒者を、運転手見習いとして採用。会社の費用で免許を取得。



個人的には、バスに興味がある若者が、車両技術や基本的な接客(初歩的な英会話などを含む)、バスや旅行の規制・制度などを学びつつ、大型二種免許も取得してバス事業者に就職できるような教育機関が生まれればベストだと考えています。






女性を積極的に採用する企業も



   

バス運転手の世界は、昔から男中心だったため、例えば「運転手用の休憩室、仮眠室、シャワールームなどが男性用しかない」「ユニフォームが男性用しかない」というような事業者も多く、女性運転手の数はいまだ少ないまま。比率は1%台です。



しかし、最近では女性運転手の採用を増やすために、女性向けの配慮をしている事業者も増えてきています。



例えば、「京浜急行バス」「相鉄バス」などでは、女性専用の休憩設備を作ったり時短勤務を可能にしたり、環境を整備することにより未経験の女性運転手の採用を積極的に進めています。






バス運転手の将来は?









高齢化社会では、バスの役割はさらに重要になっていくと思います。

また、たとえ自動運転化が進んでも、バス運転手の仕事は必要とされ続けるでしょう。










高齢化が進む中、特に地方部において公共交通網を維持するためにバスの役割はより重要になっていくと思います。



一方、自動運転技術の進展により、「無人運転バス(運転手が乗務しないバスが自動走行)」「自動運転バス(運転手が同乗するが、運転動作の多くが自動化)」が増えることは間違いなさそうです。



おそらく自動運転化に向けては、高速バスや貸切バスよりも路線バスが先行するのではないかと思います。






ただし、路線バスの運転手の仕事は運転だけではありません。

バリアフリー対応(例:車いすのお客様の乗降の手伝い)や、災害や事故があった場合のお客様の安全確保や誘導など接客的要素も多いため、日本中のバスが一気に無人化するようなことは考えづらいです。



そのため、自動運転化が進んでも、バス運転手の仕事は必要とされるでしょう。






ひとくちにバス運転手といっても、会社によって、また路線・高速・貸切などバスの種類によって働き方も様々なので、自分に合った会社を選ぶことが重要ですね。これはバス運転手に限らず、すべての仕事に言えることだと思いますが。






情報提供元: バスとりっぷ
記事名:「 バス運転手は不人気職種ではない! 倍率12倍の会社もあるって本当? 運転手の現状を専門家に聞いてみた