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全国各地で毎日数多くの便が運行されている夜行高速バス。
しかし、運行距離が1,000kmもしくは移動時間が14時間を超える路線ともなると数が限られてきます。
これらの条件を満たす例としては、 西日本鉄道(西鉄バス)の「はかた号」(新宿~福岡) やオリオンバスの「東京~福岡線」 などが挙げられますが、今回は東京と山口県萩市を結ぶ運行距離約1,010km、移動時間は約14時間半の日本屈指の長時間運行夜行バス「萩エクスプレス」をご紹介。
乗車の模様もレポートします。
「萩エクスプレス」の旅の始まりは、JR東京駅八重洲南口のJR高速バスターミナルから。常磐道方面や成田空港、東名ハイウェイバス、「ドリーム号」をはじめとする夜行バスなどが発着する東京都内有数の高速バスターミナルです。
またきっぷ売り場の北隣には売店や弁当屋も。ご飯や東京みやげもこちらで購入できます。
東京駅八重洲南口JR高速バスターミナルへのアクセス方法はこちらの記事を参考するとよいでしょう。
山口・萩行き「萩エクスプレス」はバスターミナルの8番乗り場から発車します。乗り場およびその周辺には、発車時刻と乗り場を案内するデジタルサイネージがありますので事前に確認しておくと便利です。
発車前に近くで食事をしようかと思い、店を探しますが、私好みの店はなかなか見つかりません。結局、発車までの時間があまりなかったので、八重洲南口改札そばのマクドナルドで軽く済ませ、軽食類を売店で購入して車内に持ち込むことにしました。
「萩エクスプレス」の東京駅八重洲南口発車時刻は19:30。発車時刻の10分前に入線し乗車改札が行われます。
「萩エクスプレス」は山口県周南市に本社を置く近鉄グループの防長交通が運行します。夜行バスの運行歴が25年以上なので、安心して利用できます。
では、早速乗車してみましょう。
車内は幅広で座り心地の良い3列シートが並び、最後部までひとり掛けになっているのが特長のひとつです。
また武家屋敷の夏みかんをイメージした橙色のヘッドカバーが車内に華を添えています。座席と通路を仕切るカーテンは窓側座席にのみ装備されています。
シートはレッグレスト・フットレスト(足置き台)を装備。リクライニングの角度も深く、ゆったりと休むことが出来ます。
すべての座席にコンセントが設けてあります。携帯電話やスマートフォンの充電に便利です。
さらにWi-Fiに接続することもできます。シートポケットに入っている手順書に従って設定することで車内でインターネットが楽しめます。
車内中央部にはトイレが。サービスエリアでの休憩停車はありますが、万が一という時に嬉しい設備です。
車内中央部のトイレ前には、お茶・コーヒーが飲めるセルフサービス式のコーナーが設置されています。座席へ運ぶ際は、熱湯でやけどをしないよう備え付けの蓋を利用しましょう。車内の揺れには注意が必要です。
アメニティも充実しています。各座席に萩・笠山の椿をイメージした椿色のブランケットが備えられているほか、シートポケットには使い捨てスリッパと紙おしぼり(サービスコーナーにもあり)が入っています。
夜行バスに必要な装備はひと通りそろっており、東京~萩間約1,000kmの道のりを快適に過ごせられるよう配慮されています。
19:30定刻に東京駅八重洲南口を発車した「萩エクスプレス」は、日比谷を通り、霞が関ランプから首都高速道路3号線へ。さらに東京インターから東名高速道路へ入り、山口県へ向けてひた走ります。
私が乗車した日は平日ということもあり、乗車定員(28名)の約半分程度の乗客しか乗車していませんでしたが、聞くところによると、週末や繁忙期には満席になることも少なくないとのこと。車内を見回してみると、10代~50代と幅広い年齢層の方に利用されていることがわかりました。
同路線が東京と山口県東部・北部を直通する唯一の夜行交通機関であること、そして地元山口県の有名バス会社が運行していることへの安心感で選んでいる乗客が多いのではと考えています。
発車後、自動放送にて各種案内が行われたあと、乗務員から簡単な補足説明がありました。それが終わると、交代乗務員が車内を回ってポイントカードの配布及び捺印を行います。このポイントカードは、ポイントを6個貯めると片道1回無料で乗車できるリピーターには嬉しいサービスです。
東京インターから東名高速道路へ入ったバスは、1時間半ほどで御殿場ジャンクションから新東名高速道路へ。さらに西へと進みます。
このバスにはトイレが付いているため、途中の休憩は消灯前と起床後の2回のみとなっています。
消灯前の休憩場所は、東京駅から2時間ほど走行した静岡県の駿河湾沼津サービスエリア。こちらでは21:13から15分間停車しました。
トイレや売店、コンビニ、フードコートを完備している大きなサービスエリアです。停車時間は短いですので、トイレや洗顔、買い物は早めに済ませましょう。
駿河湾サービスエリアを発車したバスは約30分後の22:00に消灯。消灯後、乗客は下車できませんが乗務員交代と車両点検のために、数カ所のサービスエリアで停車しました。
起床後の休憩は、乗車後約10時間経過した広島県の山陽自動車道宮島サービスエリアで。
停車は15分間。定刻では5:30頃に到着します。
折しもこの日の広島地方は、未曽有の大災害をもたらした積乱雲による雨が降り始めた頃。
雨も次第に強くなってきたことから、手早く撮影を済ませバス車内に戻りました。
宮島サービスエリアを発車したバスは、広島県西部から山口県東部、中部、北部にかけて多くのバス停に停車していきます。その数はなんと11カ所。
この日は降車客がいないため、大竹インター入口、岩国駅前、玖珂インター、熊毛インターの各バス停を通過するとのアナウンスが。渋滞に巻き込まれなければ、定刻よりも早く到着しそうです。
6:08に大竹インターを通過したバスは国道2号を西へ。小瀬川に架かる橋を渡り山口県に入ります。さらに西へ進み岩国インターから再度山陽自動車道へ。7:02に徳山東インターを出発し、防長交通のお膝元である周南市へと向かいます。
若干渋滞に巻き込まれつつも、バスは定刻よりも若干早い7:21に徳山駅前へ到着。こちらでほぼ半数の乗客が下車していきました。
この地域はかつて「徳山市」と呼ばれていましたが、2003年(平成15年)の市町村合併で「周南市」になりました。重化学工業企業が多数立地していることで有名な地域です。
駅から徒歩5分圏内にある徳山港からは、大分県の竹田津(国東半島)行きのフェリー「スオーナダフェリー」が就航しています。これを利用する際は、徳山駅前で下車すると便利です。
徳山駅前を発車したバスは、国道2号~国道262号を防府・山口へと向かいます。防府駅前では、京都から来た近鉄バスの萩行き「カルスト号」が降車扱いをしており、その先の山口市内の手前まで一緒に走行するかたちになりました。
左手にJR山口線の線路が見えると山口市内はもうすぐです。
8:46にバスは防長交通山口営業所がある山口宮野に到着。ここで、ハンドルを握っていた乗務員が下車し、ここから先は仮眠室にて休息をとっていた交代乗務員が一人で終点の萩バスセンターまでハンドルを握ります。
その先の山口西京橋は降車客がおらず通過。東京を発って13時間半経過した9:04に、バスは山口湯田温泉に到着しました。こちらでは4名が下車します。
山口湯田温泉からは、国道435号~県道28号~国道490号~県道32号~萩道路を経由して萩へと向かいます。途中で山間の地域を走行するため、晴れていれば車窓から中国山地の景色を楽しむことができます。
JR山陰本線の跨線橋からJR萩駅が見えると、萩市中心部はすぐそこです。
定刻に遅れること数分。10:07に、バスは終点の萩バスセンターに到着しました。
萩市の中心部に位置する萩バスセンターは、萩地区の交通の要所として機能しており、萩市内と周辺市町村を結ぶ路線バスはもとより、新山口駅行き新幹線接続高速バス「スーパーはぎ号」「萩エクスプレス」「カルスト号」といった夜行バスも発着しています。
バスセンターの向かいにあるスーパーマーケット「Sunlive(サンリブ)萩店」で買い物をしてから、バスに乗車する乗客を多く見かけます。
バスセンターの付近にコンビニはありません。バスセンター内には売店もありますが、夜行バスの萩発車時刻が早いためしまっていることも。萩発の夜行バスを利用する場合はここで飲食物を購入するのがおすすめです。
「山陰の小京都」と呼ばれる山口県萩市は、江戸時代に毛利氏が治める長州藩の本拠地となった都市(萩城下町)として有名。
また、「松下村塾」を主宰した吉田松陰や、幕末の風雲児と呼ばれた高杉晋作、初代内閣総理大臣となった伊藤博文など、近代日本を揺り動かした人物を多く輩出したことから、「明治維新胎動之地」とも呼ばれています。
江戸時代のたたずまいが残る萩市は見どころがたくさん。しかし、いざ回るとなるとどこから見て回ればよいのか分からないですよね。そこでおすすめしたいのが、萩市内循環バス「萩循環まぁーるバス」です。
この循環バスには、東回りと西回りのルートが異なる2系統があります。東回り「松陰先生」は東光寺や松陰神社方面に、西回り「晋作くん」は城下町を中心に、30分間隔で萩市内をぐるっと回ります。
運賃はどこまで乗っても1乗車100円。このほか1日乗車券(500円)、2日乗車券(700円)もあり、こちらは萩市内の主要観光地をじっくり回りたい方におすすめです。
萩循環まぁーるバス(路線図・時刻表)のご案内(萩市公式サイト)
萩を観光する上で是非とも訪れておきたいのが、萩市役所の向かいにある「萩・明倫学舎」です。
この施設は、国の有形文化財に登録された旧明倫小学校の木造校舎群を改修整備し、新たな観光施設として2017年(平成29年)3月4日にオープンしたものです。木造校舎群としては日本最大だそうです。
館内には、「明治日本の産業革命遺産」を紹介する「世界遺産ビジターセンター」や、幕末の歴史をひもとく貴重な資料が展示されている「幕末ミュージアム」、旧萩藩校明倫館展示室、レストラン、お土産を取り揃えたショップなどがあります。
萩バスセンターからも徒歩で移動が可能。まずはこちらで萩に関する基礎知識を得た上で、「萩循環まぁーるバス」やレンタサイクルなどで萩市内を観光してみてはいかがでしょうか。
東京~山口間をJR新幹線で移動する場合の料金は、新幹線「のぞみ」の東京~徳山間片道が19,220円(普通運賃+新幹線特急料金)、東京~新山口間片道が20,100円(普通運賃+新幹線特急料金)となります。
さらに、東京~萩間の移動の場合、東京~新山口間を新幹線で移動し、新山口から高速バス「スーパーはぎ号」に乗り換える必要があるため、新幹線の片道運賃20,100円と高速バスの片道運賃1,550円を加えた21,650円となります。
※新山口~萩間は2019年3月31日まで割引運賃
一方、東京~山口・萩線「萩エクスプレス」は、繁忙日と閑散日とで料金に差がありますが、おおよそ東京~徳山・山口間が片道10,400円~14,000円、東京~萩間が片道11,400円~15,000円となっています。
さらに、この路線には早期購入割引運賃「早売7」および「学割運賃」が設定されており、東京~徳山・山口間が片道最安8,400円で、東京~萩間が片道最安9,400円で利用できます。繁忙期であっても、通常運賃が新幹線の約7割で、「早売7」「学割運賃」を適用すれば4割台で移動できることを考えると、コストパフォーマンスは相当高いといえるでしょう。
なお、週末や繁忙期は大変混み合いますので、利用する際は早めのご予約・ご購入をおすすめします。
今回は東京駅から萩バスセンターまでの全区間を利用しましたが、平日に利用したということもあり片道11,400円(閑散日C運賃)で移動できました。
一人掛けのゆったりとしたシートと充実した車内設備のおかげで、ぐっすり眠ることができます。また起きてからの時間が長く感じるかと思いましたが、変化に富んだ車窓のおかげで飽きることはありませんでした。
かつては寝台特急列車や他社運行の夜行バスなど、東京と山口県を結ぶ夜行交通機関は複数ありましたが、相次いで廃止された結果、 現在3列シート車で運行される東京~山口間の夜行交通機関はこの「萩エクスプレス」だけです。
「乗り換えなしで、ゆったり寝ながら移動したい」「新幹線や飛行機よりも出来るだけ安く移動したい」という方には最適なバスではないでしょうか。
(須田浩司)