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今回乗車する岩手県北バスの全輪駆動ボンネットバスが走っているのは、岩手県八幡平市の八幡平マウンテンホテルと松川温泉の峡雲荘を結ぶ約7kmの区間。
旅の起点となる盛岡駅からは、東口バスターミナルの3番のりばから松川温泉行きの乗り合いバスに乗車します。
A:盛岡駅東口バスターミナル3番のりば(岩手県盛岡市盛岡駅前通1)
↓ 乗り合いバス
↓
B:八幡平マウンテンホテル(岩手県八幡平市松尾寄木第1地割)
↓ ボンネットバス
↓
C:松川温泉 峡雲荘(岩手県八幡平市松尾寄木松川温泉)
冬季限定で、路線バスとして定期運行している岩手県北バスのボンネットバスは1日3往復。
まずは盛岡駅で「松川温泉行き」の乗り合いバスに乗車し、途中の八幡平マウンテンホテルでボンネットバスに乗り換えるという流れです。
運行スケジュールは次の通り。
《盛岡駅東口バスターミナル → 松川温泉》
※ボンネットバス運行区間は、八幡平マウンテンホテル→松川温泉間
盛岡駅 | 八幡平 マウンテンホテル | 松川温泉 | |
---|---|---|---|
1 | 6:54発 | 8:31発 | 8:51着 |
2 | 12:12発 | 13:42発 | 14:02着 |
3 | 13:42発 | 16:20発 | 16:40着 |
《松川温泉 → 盛岡駅東口バスターミナル》
※ボンネットバス運行区間は、松川温泉→八幡平マウンテンホテル間
松川温泉 | 八幡平 マウンテンホテル | 盛岡駅 | |
---|---|---|---|
1 | 9:45発 | 10:05発 | 11:29着 |
2 | 14:45発 | 15:05発 | 16:29着 |
3 | 16:20発 | 16:40発 | 18:09着 |
ボンネットバス運行期間:2017年11月25日~2018年3月31日予定(2017年度)
※ただし積雪の状況によっては変更となる場合あり
ただでさえ寒い2月初旬の岩手。さらにこの日は地元の人も「数年ぶり」というような大雪に見舞われ、最低気温がマイナス6度を下回るほどの極寒。
市街を出ると車窓の外はまさに白銀の世界で、ところどころの家の屋根には真っ白な雪がこんもりと積もっていました。
八幡平市は、日本百名山の八幡平(標高1,614m)と岩手山(標高2,038m)を望んで広がる山岳リゾート地。夏は登山客やドライブ客でにぎわい、冬もスノースポーツを楽しむ人が訪れますが、リゾートエリアからさらに山奥の松川温泉まで行くとなるとさすがに秘境感が漂います。
盛岡駅から約1時間半かけて八幡平マウンテンホテルに到着。ホテルの前で待っているボンネットバスに乗り換えます。
外は5分も立っていれば雪だるまになれそうなドカ雪。
そして、ついにボンネットバスとご対面です!
岩手県北バスのボンネットバスは、いすゞ自動車製の1968年式TSD40改型。今からちょうど50年前に製造された40人乗りの4速MT車です。
かつては営林署(国有林の管理・育成を行なっていた官庁)の職員を運ぶバスとして活躍していたといいます。ちなみに「ひよっこ」のオープニングに出てくるミニチュアのボンネットバスもこれとほぼ同じ形。
現代のバスの主流は、車体の最後部にエンジンがあるリアエンジン型。それに比べて運転席の前にエンジンが置かれているのがボンネットバスの特徴です。
そのためボンネットバスは車両の先端が犬の顔のように飛び出していて、横から見ると車体に対して前後の車輪の位置がややアンバランスに感じます。
クリーム色のボディに雪の中でもビシッと映える赤の三本線をあしらった塗装と、右書きで書かれた「岩手県北自動車株式会社」の横文字が何ともクラシカル!
決して洗練されたデザインではないけれど、アーチを描く屋根のラインや窓の形など、ところどころ丸みを帯びた形は、現代のバスにはないかわいらしさを醸し出しています。
前日の夜に夜行バスで東京を出てから既に16時間。コレに会うためにはるばる八幡平までやって来たんです!(←川平○英風)
……ということでバシャバシャとバスの外観を撮っていると、先に乗っていたご夫婦のお父さんがやや苦笑いの表情で「もう出発の時間だよ(笑)」と手招き。
頭や肩に積もった雪の冷たさをじわりと感じながら、「すんません、すっかり時間を忘れてました」と反省を述べつつ車内に乗り込みます。
昭和初期に製造が開始された国産ボンネットバスは1940〜50年代に生産の最盛期を迎えましたが、1970年頃にはリアエンジン型などに移り変わって徐々に姿を消していきました。
昭和の終わり頃に生まれ、ボンネットバスの現役時代を知らない僕にとっては正直懐かしい気持ちはないのですが、板張りの床やゆったりとした革製シートからは、記憶の中にかすかにある昭和の情景や人情味のようなものが甦ってくるかのようです。
「『ひよっこ』に出てきたバスもこんな感じだったなぁ〜。あ〜、あの茨城弁の有村架純ちゃんかわいかったっぺ〜♪」と余計なことも頭をよぎって、シャッターを押す指がちょっと緩みがち。
八幡平マウンテンホテルを出てわずか20分、約7kmの貴重な道のり。
この間、バスは標高530mほどの地点から標高850mの松川温泉まで約320mの標高差を登っていきます。出発して間もなく、八幡平ロイヤルホテル近くのきれいな並木道を越えると進路は登り坂に変わります。
それまでも運転士さんのアナウンスが聞こえないほど大きかったエンジン音が、「ジ〜」とさらに車内に響き渡ります。それに比例して座席に伝わる振動もアップ。それでもギアは2速なんだそうですが、過酷な雪の登り道でエンジンが焼けてしまわないかとちょっと心配な気分になります。
「がんばれ、負けるな」と 心の中でエールを送ります。
バスの外は真ーーーーっ白な世界。でも、車内はヒーターの熱であったか。ボンネットバスはゆっくりと、それでいて力強く雪の地面に轍(わだち)を作りながら、じりじりと登り道を上がっていきます。
道は除雪されていますが、車窓に映るのはカーブミラーが埋まってしまうほど高く積もった豪雪。静岡生まれの私からするとここまでの大雪は綺麗を越えて壮絶な感じさえします。
やがて松川温泉に到着し、それぞれの宿の近くでお客さんを降ろしながら終点の「峡雲荘」へ。
今日はこの宿で一泊。温泉三昧の一夜を過ごします!
折り返しの出発を待ってバスが峡雲荘に待機する間、運転士の古川さんとしばし談笑。古川さんによれば、ボンネットバスの運転に特別な免許は必要なく、大型2種免許を持っている運転士なら誰でも運転できるとのこと。
ただ、先端が細くお尻が太い車体のため現代のバスと比べると車両感覚が掴みづらく、パワステのない“生ハンドル”なので切り返しが難しいと言います。
昔は今より除雪車が小さく道幅が狭かったため、乗用車とすれ違うだけでもスリリングだったそう。
かつて岩手県北バスでは4台のボンネットバスを所有していましたが、現在残るのはこの1台のみ。これだけ古い車体だけに整備のことも気になりますが、部品が壊れたら今のバスのパーツを加工して使っているとのこと。
コンピュータで制御された現代のバスのように機械的な構造が少ない分、故障してもどこが壊れたのかはわかりやすいそうです。
ツアー客が来た時などは定員ギリギリの40人を乗せて走ることも。それでも「いろいろ大変なこともありますが、ほとんど運休せずにがんばっていますよ」と古川さん。
「冬の間に雪で埋まったバス停を除雪車が倒してしまって、雪解けの時季になって『あれ、バス停がない』なんてこともあります」と雪国ならではの“バスあるある”も。
「やっぱりこのバスは、雪がある風景にこそ似合います」と、運転士さんのボンネットバスへの愛着も感じることができました。
峡雲荘に一泊しながら翌日の朝もボンネットバスを撮影に出かけて、走行シーンもたくさん撮れました! 訪れた日は驚くほどの豪雪でしたが、その中をたくましく走るボンネットバスは旅情感たっぷり。
2018年のボンネットバスは3月31日(積雪の状況によっては4月上旬までになる場合あり)まで運行中。映画やドラマで観た古き良き昭和の世界を体験してみたい人、もしくは昔乗ったボンネットバスに再び出逢いたいという人は、ぜひ八幡平まで出かけてみてはいかがでしょう。