バス運転手が安全向上のため雪上訓練していた!? 極寒の猛特訓に密着!
皆さんは、バス運転手が安全のために様々な取り組みをしているのをご存知でしょうか。今回は、桜交通の行う雪上訓練に同行し、あまり知られていないバス運転手の特訓の模様を紹介します。そもそも雪上で訓練をしていること自体が意外ですが、その目的や内容も含めて密着レポでお届けしたいと思います。
朝6時から始動
まだ夜も明けきらない1月下旬の朝6時。足立区鹿浜にある桜交通の東京営業所には灯りがついています。
今回、同社で初めて雪上訓練を行うとあって、東京営業所から運転手など15人が集合していました。参加者は、千葉、神奈川の営業所も含めて総勢81人。それぞれは現地で合流するようです。
ここからバスで訓練場所の群馬県たんばらスキーパークの駐車場に向かいます。皆さん当然顔見知りとあって、バスの車内は賑やかで、冗談を言いあってました。ちなみに、バスの話題が多いです。さすが!
鹿浜から首都高速に乗り、圏央道から関越自動車道に入って目的地に向かいます。上里で一度休憩し、沼田で高速を降りました。積雪も多いため、赤城高原ではチェーン確認がありました。
高速を降りてからスキー場までの山道は交互通行とは思えないほど狭く、雪道の運転の難しさを感じました。スキー場に着く頃には、本当にやるの?と心配になる程の吹雪が…。10時少し前にスキー場の駐車場に到着です。
到着後すぐに全員集合し、この日のスケジュールと目的を説明。早速、訓練に入ります。
極寒のなかで訓練スタート
訓練の内容は「スリップ訓練」と「タイヤチェーンの装着」です。実際の訓練の様子を見てみましょう。
スリップ訓練
スリップ体験は、パイロンをスラロームしたり、大回りで通るなどした後に、直線でスピードをあげてアイスバーン上でブレーキをかけます。
それをABS(※)がオンとオフの状態で、どのくらい違いがあるのかを全員が実際に運転します。乗ってみるとABSがオフの状態だと、ブレーキをかけても明らかに滑っていました。
これだけ大雪が降るなかの運転とあって、スラロームではエンストするドライバーも少なくありませんでした。乗客がいるときでは許されないことだからこそ、経験しておくことが重要で、非常に貴重な体験だと思います。
体験後のドライバーに聞くと「雪道だとハンドルが重く、すごく運転しにくかった」「思っていた以上にハンドルを切る判断が難しかった」「ABSをきることは普段ないので、体験できて違いがわかった」などの意見がありました。
スリップ時の状況、雪上での挙動や感覚を肌で感じ、予測にも繋がる訓練といえますね。ちなみに、雪道に慣れた人ほど、強引な運転が多くなりがちだそうです。
1時間半ほどかけて全員が体験。次は猛吹雪のなか、チェーンの取り付けです。
※ABS:アンチロック・ブレーキ・システムの略。急ブレーキなどによって車輪がロックした際に、自動でブレーキを緩める制御を行うことでタイヤロックによる空走を押さえる装置。
▼バス車内から撮影したスリップ訓練の模様
▼雪上でスリップ訓練を行う様子
激しい吹雪のなかでチェーンの脱着
チェーン装着
チェーンは、二手に分かれて後輪タイヤにシングルチェーンを装着します。取り付けの目安は両側で15分以内に確実な装着を目指し、お客様を待たせないようなるべく早く巻くことが大事とのこと。
実際には1人で巻くことがあるので、皆さん真剣そのものでした。
チェーンをつけた後は、実際に少し前後に移動して問題ないかを確認し、最終的に固定します。皆さん慣れていると思っていましたが、吹雪の中という悪条件に苦戦している人もいました。ちなみに、バスは乗用車よりも重いので、スタッドレスタイヤであれば乗用車よりは滑りにくいそうです。
担当を変えながら、何度も脱着を繰り返します。手のかじかみがひどく、通常よりも明らかに大変そうでした。装着を終えたドライバーは「悪天候で大変でしたが、逆に実践の際に活きると思う」と自信をつけていました。
運転技術以外の向上も!
雪上訓練は運転技術の向上が一番の目的でしたが、実際に同行してみるとそれだけではないように思えました。
スリップすることを体感し回避措置を経験することで、各運転手の安全意識の向上も高められます。また、チェーン装着では連携や連絡の大事さを再確認できるとあって、コミュニケーションの向上もできていたように思います。
片付けや最後のあいさつなども踏まえて、全てが終わったのは15時過ぎ。終わる頃にはだいぶ雪も積もっていました。
とにかく寒い上に吹雪で視界も悪く悪天候そのもの。とはいえ、この状況での訓練だからこそ、今後の安全に役立つと感じました。安全のためにバス運転手がここまで努力をしていることを改めて知りました。
※取材協力/桜交通
(バスとりっぷ編集部)