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「いすゞプラザ」を訪れる前に忘れてはならないのが入館予約を入れておくこと。
「いすゞプラザ」は社会科見学など平日でも団体見学が多い施設。入館は無料ですが、土曜・祝日の自由見学日以外は2日前までにホームページから見学予約しておかなければなりません。
見学希望日時、氏名など簡単な情報を入力して2、3分で予約完了。しばらくして「ご来館予約確定のご案内」というメールが届きます。
公共交通で「いすゞプラザ」へ行くには、神奈川県藤沢市の湘南台駅が起点となります。湘南台駅には横浜市営地下鉄ブルーライン、小田急江ノ島線、相鉄いずみ野線の3線が乗り入れています。
湘南台駅東口から無料送迎バスが運行しており、行き(湘南台駅発)は午前9時50分から午後3時50分まで、帰り(いすゞプラザ発)は午前10時50分から午後5時5分までほぼ30分おきの出発(16〜17時台の帰りの便は湘南台駅西口着)。
東口の3番のりばで待っていると、ピカピカのバスがやってきました。運転士さんに予約の有無を確認されてバスに乗り、ここから「いすゞプラザ」までは約10分の道のりです。
「いすゞプラザ」は、いすゞ自動車(以下、いすゞ)の藤沢工場に隣接しています。敷地面積はおよそ100ヘクタールと東京ドーム21個分の広さで、現在は6,000人以上がこの工場で働いています。
バスに乗ってしばらくすると、車窓には「ISUZU」の赤いロゴを冠した大きな建物が。
創業80周年を記念して去年オープンしたばかりの真新しい建物は、日本建築界の巨匠・坂倉準三が創設した坂倉建築研究所による設計。
世界的建築家ル・コルビュジエに学んだ坂倉準三は、世界遺産になった国立西洋美術館の建設にも関わった人物。彼のイズムを継ぐデザインはミュージアムでありながら、開放的な趣を感じさせます。
エントランスで受付を済ませると、入館証のステッカーをもらいます。
そのステッカーを服の見えるところに貼ってミュージアムの中へ。
いすゞの歴史を彩った車たちが描かれた通路を抜けると、まずは大きなジオラマが展示された「いすゞミニチュアワールド」のコーナーに辿り着きます。
「いすゞ市」という空想の街をミニチュアで表現。その中にはバスターミナルもあり、いろんな場所で路線バスや高速バスが登場しています。
映像やナレーションに併せてジオラマを見ながら、改めて私たちの生活のいたるところでいすゞの車やエンジンが働いていることを実感させられます。
さらに毎時15分にはジオラマショーも行われます。いすゞ市の一日を追いながら、いすゞの歴史を彩ってきた車が街の中を走っていくというプログラム。
普段のジオラマの中には置かれていないボンネットバスもどこかで登場するので、絶対見逃がすことのないように。
次のコーナーでは、現在活躍しているいすゞの“はたらく車”に触れながら見学ができます。大型トラックの「ギガ」、中型トラックの「フォワード」と並んで、大型バスの「エルガ」も展示。
現在のいすゞの大型バスは、先ほど乗ってきた高速バス・貸切バス向けの「ガーラ」と路線バス向けの「エルガ」が主力です。「エルガ」は都営バスでも活躍しているので、東京の人には見慣れた車種。
車椅子の方の乗車にもやさしい乗降口の反転式スロープ板や、オレンジ色の伝い歩き棒など、誰でも乗りやすい造りが大きな特長です。
また、ちょっとバスから浮気をしてしまいますが、エルガの横には普段は滅多に見られない自衛隊のトラック「SKW(3 1/2tトラック)」が展示されています。この車は災害時の隊員派遣や物資輸送などで活躍している大型トラックで、荷台や運転席を見ることができます。
さらに展示を見ていると、いすゞのディーゼルエンジンもありました。ディーゼルエンジンは、南極観測でも長い間活躍しているんだそう。
「やっぱ、いすゞってスゴい!」と心の中でうなずきます。
ここまででまだ全体の3分の1。ちょっと休憩を取って次に向かいます。
エスカレーターを昇ると、続いては「いすゞの技術」のコーナーです。
いすゞの大型トラックの「開発」「生産ライン」「販売準備」「アフターサービス」が、時系列順に15項目に分かれて紹介されています。バスもトラックと同じ大型車両なので共通する部分が多そう。
映像やイラストを交えた展示解説は、小学校高学年くらいの子どもたちでもわかるような内容。「開発」の項目では、企画・デザイン・設計・実験といった一連の工程を「どんなくるまにしようかな?」「どこでつくっているの?」といった具合にやさしく説明してくれます。
また、どの項目にも“触れて感じる”仕組みがあるのが、このコーナーのポイント。
例えば、デザインの展示ではトラックのCGデータに色付けしてオリジナルカラーの車両を作ることができたり、設計・購買の展示ではCADデータ上でトラックのパーツを分解できたり、楽しみながら学べるので親に連れられて来ていた小さな子どもたちも大はしゃぎの様子でした。
トラックの運転席を再現したドライブシミュレーターにも挑戦。「ゴールド免許所持者の実力を見よ!」と意気込み十分で臨みましたが、やはり乗用車に比べると車両感覚を掴むのが難しい。
交差点の左折右折だけでだいぶ苦戦して恥ずかしい気持ちに(泣)。
ラストは歴代の車たちとともに「いすゞの歴史」を辿るコーナーを見学。ここでは、1916年(大正5)に東京石川島造船所と東京瓦斯電気工業が自動車製造を計画したことから始まった、いすゞの歴史が紹介されています。
実は“バスびいき”の私が今回最も楽しみにしていたのはこのコーナー。なぜなら、この展示室では1929年(昭和4)に今のいすゞが初めて製造を開始した国産ボンネットバス「スミダ号」の実物が見られるのです。
エンジンが運転席の前にあるのがボンネットバスの特徴。1960年代までは街で普通に見られたボンネットバスですが、1970年頃にはリアエンジン型のバスに移り変わって徐々に姿を消し、今やバス会社のイベントや一部の観光路線などでしか見られなくなった昭和の思い出に。
記憶に新しいところでは、昭和の高度成長期が描かれた朝ドラ『ひよっこ』のオープニングでもボンネットバスが登場していましたね。
展示室の入り口に置かれている「スミダM型」は、1932年(昭和7)に製造されたもの。現存する国産バスの中でも最も古い車体で、ややずんぐりとしている丸みを帯びたデザインには昭和の面影が漂います。
案内スタッフの女性から話を聞いて何より驚いたのは、このバスが動態保存だということ。つまり製造から80年以上たった今でも走行可能なのです。実際に地域のイベントで走らせることもあるそうです。
また、警察で使われていたこの車体には特別にドアが付いていますが、通常のスミダM型にはドアがなかったそう。もちろん回数券や運賃箱もなく、乗降口に「バスガール」と呼ばれた女性がいて車掌的な役割をしていたといいます。
当時、このバスガールは女性たちの憧れで、今でいえば航空会社のキャビンアテンダントのような花形職業だったとか。もはや整理券で運賃を計算する時代を越えて、ICカードでワンタッチが当たり前になった私たちには驚きの話です。
同じ部屋には、いすゞの歴史を彩った名車の数々や、歴代のいすゞ車のミニチュアが勢ぞろいで展示されています。さらには2017年の東京モーターショーに出品されたコンセプトカー「FD-SI」も見ることができます。
バスをはじめ、いすゞ自動車が造る”はたらく車”の歴史と技術力を知ることができる「いすゞプラザ」。
正直「バスはどれに乗っても同じ」と感じている人も、ここを訪れてみると自然といすゞのバスに愛着が湧いてくるはず。すべてをしっかり見ると半日以上はかかるので、できれば午前中から訪れることをおすすめします!