【阪神】西勇輝、プロ初勝利の甲子園で「引退試合」
<ニッカンスポーツ・コム/プロ野球番記者コラム>
<阪神2-1広島>◇7日◇甲子園
甲子園の1階通路まで、カサブランカの香りがあふれていた。7日の広島戦で、阪神西勇輝投手(35)が引退試合を迎えた。ロッカーからグラウンドへと続く通路に、西勇をねぎらう他球団の選手らからの「花道」ができていた。
2013年の年明け、メジャーから復帰し、阪神入団が決まった福留孝介がプロ入り前の所属先、日本生命グラウンドで始動。同社OBの海田智行に連れられ、当時オリックスの西勇も練習に来ていた。2人で福留にあいさつ。西勇の顔を見た福留は「おれの引退試合で、ノーヒットノーランはやめてくれよ」と言って破顔した。なんともいえない表情を浮かべ、西勇は言葉を詰まらせた。
前年10月8日のソフトバンク戦(福岡ヤフードーム=当時)で史上76人目、平成生まれでは初のノーヒットノーランを達成。その日は小久保裕紀内野手の引退試合だった。ホークスの顔の好打者を含めて最強打線を無安打無得点に抑え込み、主役の座をさらったのが当時22歳の西勇だった。
海の向こうにも、その話題は届いていたのだろう。「おれのときは、やめてくれよ」の軽口は、オリックスの先発で足場を固めようとしていた右腕への何よりの激励だったと思う。
13年は9勝し、14年から3年連続2桁勝利。オリックスを代表する投手の1人になった。19年にFAで阪神に移籍し、新天地でも一時代を築いた。
活躍の裏で、いろんな葛藤もあったと思う。海外FA権を取得し、去就が注目された22年オフ。自主トレで甲子園を訪れた西勇は、自分の真意が伝わらないと強い口調で担当記者にやるせなさを吐露したことがあった。取材でその場に居合わせ、本人に、11年4月17日楽天戦(甲子園)のプロ初勝利の報道を思い出してほしい、と伝えた。
前年の夏に突発性顔面神経まひを発症。顔の右半分がしびれ、これからどうなるのだろうという恐怖にうちのめされながら懸命に病魔を克服した姿を書いた社があった。我が社のエピソードは、実家で飼っていた愛犬がネズミ捕りの餌を誤って食べて命を落とし、大泣きしたというもの。どの担当も温めてきた逸話を通じて西勇の繊細な人柄を伝え、21歳の船出への期待感を書き込んでいた。
長い航海が終わった。ファンの西コール、球場に駆けつけたオリックス、阪神時代の仲間。野球人生で得たものが、そこにあった。【堀まどか】