賛成多数、セ・リーグDHの行方は? MLBは両リーグ採用済み 大学も全リーグ導入…
<深掘り。>
どうなるセ・リーグ-。大学野球では来春からDH(指名打者)制が加盟全リーグで導入される。これにより、国内でDH制を採用していない主要団体は、セ・リーグと高校野球だけとなる。野球の国際化が進む中、プロ、アマ、MLBの現状を「深掘り。」する。
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パ・リーグが75年にDH制を導入して以降、セは「9人野球の伝統」を理由に導入に慎重な姿勢を貫いてきた。だが、国際大会やMLBではすでに一般的となり、来年から大学球界も全リーグで採用される。世界の主流は変わりつつある。
広島の鈴木清明球団本部長(セ理事長)は「何年も議論を重ねてきた。周囲の状況も変わってきている。引き続きしっかり話し合っていく」と、制度導入の可能性に含みを持たせた。
今年1月20日に都内で開かれたプロ野球12球団監督会議で、セ・リーグのDH制導入について意見が交わされた。ソフトバンク小久保監督は、野球の魅力向上や発展を念頭に、交流戦での導入を訴えた。確かに、DH制は「打撃戦の演出」だけでなく、「投手の負担軽減」「野手の出場機会増加」といった利点を備えている。専門分化の流れは加速している。
一方、反対意見も根強い。阪神を日本一へ導いた岡田彰布前監督は「DHを入れると監督が楽になりすぎる」と、采配面のゲーム性が失われることを懸念していた。セ関係者からは「9人制の伝統が消えることで、アマ選手の選択肢が狭まり、大谷翔平のような“エースで4番”の芽がつぶれる恐れもある」との声がある。アマ球界への影響を考慮し、「あえて変えない選択」もある。
プロ野球の榊原定征コミッショナー(82)は22年12月の就任以来「国際化の推進」を課題に掲げており、DH制についても「セとパでルールが違うのはノーマルな状態ではない」「打撃が活発な試合の方が面白い」と述べ、前向きな考えをにじませている。制度そのものの即時導入は否定する一方で、「議論は続いている」と語り、歩み寄りへの可能性を残した。
コロナ禍にあった20年12月には、巨人がセ・リーグ理事会で暫定的導入を提案するなど、議論はくすぶり続けている。国際化、ファンのニーズ、そしてアマチュアへの影響。変革のタイミングを見極める局面に差しかかっている。【鳥谷越直子】
■セ・リーグの現場は…
セ・リーグの現場からはDH制歓迎の声が聞かれた。中日井上監督は「60、70%、賛成かな」。理由は「采配が楽。セ・リーグだとピッチャー(の打順)が次の回に回ってくるから、ここで代えたらあれやなあとか、打順の絡みがある」と、継投がしやすくなる点を挙げた。また、野手が増えることで「エンジョイスリリングな感じにはなれる」と魅力向上も指摘。投手の負担が減る点も挙げた。
DeNA靍岡オフェンスチーフコーチも「大賛成」。理由は「野手の寿命を延ばすこと、投手も投げることに専念できることを考えたらメリットしかないのかなと思います。打撃だけで活躍できる選手もいる。輝ける選手が1人でも生まれればいい」と話した。
一方で、ヤクルト高津監督は「相手ブルペンが見える球場」を本拠地とする立場から「神宮で野球の面白さを感じるならば、DHがない方だと思う」と話した。相手ブルペンの準備を見ながら代打などの起用法、作戦、心理戦等の駆け引きがあり「神宮球場で観戦しているファンも楽しめる部分」と指摘。その上で、将来的にセ・リーグにもDH制を導入するなら「編成面もある。数年後など時間をかけて変わる方がいいのではないか」と話した。
DeNA颯(昨季は本塁打を含む3安打、打率2割5分)「打撃が好きなので名残惜しいですが…真面目に答えると、DH制には賛成です。投手として投球に専念できますし、けがのリスクも軽減できる。さらに身体の負担など、トータルで考えると、DH制の導入には賛成かなと思います」
DeNA三浦監督 ファンがどう思うのかだと思います。賛成、反対というよりファンがどういうものを見たいのか、どういうものを望むのか。セ・リーグがこうなって欲しいとファンが思う方向にいくのが大事かなと思います。
◆DHの記録 パ・リーグで採用された元年の75年は打率が前年から8厘、本塁打は23本アップ。投手も完投数が197→302と1・5倍になったが、近年は投手分業制もあり、完投数はセ、パで差は出なくなった。DHで出場する選手も、リー(ロッテ)デストラーデ(西武)ら外国人の強打者や、門田(南海)石嶺(オリックス)山崎武(楽天)などDH専門の選手が多かったが、最近は負担軽減のためにレギュラーが併用しているケースが増え、パの方が打撃で大きくリードすることもなくなった。現在もリーグ間で特に異なるのは代打起用数。今季はセが1081回に対し、パは569回。昨季もセが1729回で、パは910回と倍近く差がある。
■X上のアンケートは
X(旧ツイッター)上のアンケートでは、セ・リーグへの将来的なDH制導入は「賛成」が大多数を占めた。日刊スポーツ野球部の公式アカウント「日刊スポーツ野球取材基地」(@nikkan_yakyuude)で、24日午後4時30分から25日正午まで実施。セへの導入への賛否を2択で尋ねた。6万4825票のうち「賛成」80・7%、「反対」19・3%だった。
返信コメントに書かれた「賛成」の理由で目立ったのは「投手で分断される攻撃は見たくない」「やる気のない投手の打席はつまらない」といった興行面。他には「(投手の)けがのリスク(が減る)」「選手の息も長くなり、投高打低も変わる」といったものも。「反対」の理由は「駆け引きが見られなくなる」「野球は守って打つが基本」「投手は9人目の野手」「リーグの違いを楽しみたい」など。編成面から「金をかけられる球団が有利になる」という意見もあった。
第3案として「ホームチームによる選択制」「シーズン前後半やシーズンごとに変更」という声も。X上のアンケートのため対象者が限られ、実際の割合とは異なるとしても、ファンの多くはセのDH制に賛成、ただし一定数、現状を支持する人もいるとうかがえる。また、1日足らずで6万超の回答数と200超の返信コメントから、ファンの関心は高いと言える。
■東京6大学と関西学生は来春
大学球界は、東京6大学と関西学生が来春からのDH制の導入を発表した。これで全日本大学野球連盟に加盟する全27連盟でDH制導入が決まった。東京6大学の内藤雅之事務局長は「メジャーもDH制。時代に合わせた対応」と説明した。関西学生の村山嘉男理事長は「選手起用の幅を広げたいという要望が多かった」と語った。全国大会では全日本大学選手権でDH制を採用しているが、明治神宮大会では未導入。今後は神宮大会でも議論が進む可能性がある。
■高野連「検討中」
日本高野連は「7回制等高校野球の諸課題検討会議」で、投手の負担軽減の観点からDH制の導入を検討している。関係者や指導者の間で意見が割れており、選手の出場機会を広げることを歓迎する声がある一方で、戦力格差の拡大を懸念する声も根強い。日本高野連関係者は「いろんな意見を鑑みて、検討中です」としている。制度の導入が目指す「選手の可能性を広げる」方向と、「高校野球の公平性をどう保つか」という課題。その両立に向けて、今後の議論の行方が注目される。
■DH制がなければ「ド軍大谷」誕生せず
MLBでは1973年からア・リーグでDH制が採用された。当時は「投高打低」が顕著で、観客動員が大幅に低迷したこともあり、アスレチックスのオーナーらが主導し、得点増の目的で導入された。その後、両リーグは異なる制度でプレーを続け、オールスター、ワールドシリーズなどではア・リーグ球団の本拠地のみで採用されるなど、幾多の変遷をたどってきた。
大きな転機となったのが、20年のコロナ禍だった。公式戦の開幕が7月下旬まで見送られ、60試合に短縮された際、投手の身体的負担を軽減するとの名目でナ・リーグもDH制を採用した。翌21年はこれまで同様、再びDHなしとなったが、22年の新労使協定で「ユニバーサルDH制」が可決され、両リーグでのDH制が導入された。
導入の際に、現場レベルでは賛否両論の声が上がった。野球本来の「9人」を重視する批判もあれば、打者が1人増えることで、選手の出場機会が拡大するプラス面を主張する意見も聞かれた。16年のメジャーデビュー戦で本塁打を放つなど、打撃に定評のある前田健太は「もうMLBで本塁打を打てなくなった」と嘆き節を漏らした。その一方で、ダルビッシュ有は、導入以前から「33歳、34歳以上は、DHが使えるみたいなのがないかな」と冗談交じりに話すなど、「それくらい打つのが好きじゃない」と、歓迎の姿勢を明かしていた。
ただ、導入後は大きな問題もなく、スムーズに定着した。両リーグDHの最大の恩恵を受けたのは、間違いなくドジャース。もしナ・リーグにDHがなければ、「ドジャース大谷」は誕生しなかった。「二刀流」の大谷は特殊ケースだが、守備に不安があっても打力のある選手にとって選択肢が広がったのも事実。また、73年当時と同様に、得点増を観客動員、視聴率アップにつなげようとする興行的側面があることも見逃せない。各チームに「4番級」が1人増えるため、投手には災難だが、MLB経営陣の「投高打低」を好まない姿勢が、現状につながったことは間違いない。【MLB担当=四竈衛】
◆プロ球界のDH制変遷◆
【MLB】
▼73年 ア・リーグが導入。
▼20年 コロナ禍で、この年のみナ・リーグも導入。
▼22年 ナ・リーグも導入し、全体で制度が統一された。
【NPB】
▼75年 パ・リーグが正式に導入。「打撃の弱さ」や「観客動員の低迷」への対策として採用。
▼76年 オールスターゲームで一部試験的に採用開始。
▼80年 日本シリーズでパ主催のみ採用。現在まで継続。
▼05年 交流戦で「主催球団ルール」採用が決定。セ主催試合はDHなし、パ主催はDHあり。
▼10年~ セ・リーグ内で巨人、DeNAなどが「DH制導入検討」を公表も、本格導入には至らず。「伝統」や「投手の打撃も野球の魅力」との声で議論停滞。
▼20年 新型コロナ特例として、セ・リーグ主催の交流戦でも一時的にDHを採用も、継続に至らず、翌年から元に戻る。
▼21年~ ファームでのDH制拡大や大学での導入拡大を受け、議論を継続中。