夏の県大会ベンチ入り20名の背番号渡しを終え、保護者の前で涙ながらにスピーチをする(写真中央)主将の阿部葉(撮影・保坂淑子)

第107回、神奈川大会は7日、開会式が行われ幕を開けた。センバツ優勝の横浜(神奈川)は、春夏連覇へ向け、準備が整った。

6月28日に行われた「背番号渡し」に、夏の横浜「全員野球」の思いが込められていた。保護者が見守る中、高山大輝部長(34)から1人1人、名前を読み上げられ、村田浩明監督(38)から背番号を受けとる。その後、ベンチ入り選手、そして惜しくもベンチを外れた3年生が1人1人、保護者の前であいさつした。最後に、阿部葉太主将(3年)が、保護者の前に立った。(以下、全文)

「昨年、夏まで甲子園というものを3度、逃してきて…何のためにここに来たのかわからなくなったときもあったんですが、この仲間に支えられ、主将という立場を確立することができました。新チームになってから…もう負けたくない…ただそれだけの思いで…監督さんと『横浜1強』というスローガンを立て、戦ってきました。そして、この3年生がチームのためにプレーをしてくれて…秋、神宮大会優勝、センバツ大会優勝と素晴らしい結果をキャプテンとして経験することができました。

春の関東大会では自分がケガをしてチームに迷惑をかけたんですが、この夏は何としても自分のプレーというか、バットでこの大好きな3年生を甲子園という舞台に戻りたいと思います。今のメンバーを外れた3年生の言葉を聞いてわかるとおり、我が強い部分はあるんですが、本当に仲間のためを思って行動ができるメンバーがそろっていると、自分は思っています。選ばれた20人が、この107回大会、全力で戦い抜き、甲子園という舞台に戻りたいと思います。

マネジャーの林田(大翼)。先週の大阪桐蔭戦で負けた時に、泣きながら『もう1度日本一のマネジャーにしてくれ』、と言われました。林田も選手として入ってきたんですが、仲間のためを思って、マネジャーという仕事についてくれて。林田がマネジャーになってくれたからこそ、自分たちはこうして秋、春と2冠を達成できたと思います。そういう仲間がいることを忘れずに、どんな状況であれ、どんな劣勢であれ。勝ち抜き、未来の横浜のためにもこの夏をしっかり戦い抜きたいと思います。

そしてスタッフの皆さん、保護者の皆さん。最高に楽しく長い。そしてどこよりも熱い夏にすることを誓います。センバツのような全力の応援、よろしくお願いします」

時折、声を詰まらせながら、この2年半の思いを込めた言葉を紡いだ。

ベンチを外れた3年生9人の言葉に、横浜の全員野球が象徴されていた。頑張ってきた2年半の集大成の夏。悔しいだろう、悲しいだろう。しかし、選手たちは涙ひとつなくマイクの前で、しっかりとした口調で素直な思いを言葉にした。「誰よりも大きな声を出し、元気を出し、与えられた役割を全力でまっとうします」(吉野良平)「春夏連覇をしたい。自分にできることは何でもしてメンバーに貢献します」(伊藤大和)センバツに背番号12で出場した三島瑛真捕手(3年)も、直前のケガでベンチを外れた。「これで野球人生が終わったわけではないし。悔しいという気持ちよりも、このメンバーならやってくれると心底思っているので」と、笑顔を見せた。思い出すのはセンバツ優勝の時のベンチからの声援。「今度は僕がベンチからみんなを応援します。あ、でも早くケガを治して、甲子園でのメンバー入りを狙いますけどね(笑い)」。与えられた場所は違っても、横浜のチームの一員として、最後まで力を尽くすつもりだ。

村田浩明監督(38)は「毎年、この背番号渡しではいつもみんな泣くんですが、今年は違った。ベンチを外れた選手が、誰1人として涙をこぼさなかった。本当にしっかりしていてビックリしました。悔しいけど泣かない。こういうこともあるんですね。たいしたもんです」と、胸を熱くした。

感動で終わるだけの「背番号渡し」ではなく、チーム全員が優勝に向け、覚悟を示した。「本当にいい代です。この子たちにはまだ先がある」と、村田監督。そして、ベンチ入りを逃した選手たちの覚悟を聞き、涙をこぼした阿部葉。チーム全員の思いを胸に、夏の戦いへ挑む。【保坂淑子】

情報提供元: 日刊スポーツ
記事名:「 【高校野球】センバツV横浜、春夏連覇へ 背番号渡しで見せた阿部葉太主将涙のスピーチ/神奈川