坂本誠志郎と言葉を交わす伊藤将司(2025年6月11日撮影)

やはり、あの“剛速球”には意味があったらしい。

少し前の話になるが、11日西武戦(ベルーナドーム)で何げないワンシーンが妙に引っかかった。

白熱した投手戦が続く中、坂本誠志郎がマウンド上の伊藤将司に突然、強いボールを投げ返したのだ。興味深い1球だったので後日、坂本に尋ねてみた。すると頭脳派捕手はニヤリと笑った。

「『ストライクになったらラッキー』みたいなところがあったので。120キロぐらいの球速で投げ返したら、マサシ、『えっ!?』みたいな感じになっていましたね」

要約すると、こんな感じだろう。坂本が要求したボールが来なかったが、判定はストライク。伊藤将に結果オーライの雰囲気を感じ取った女房役は、強いボールを返すことで「しっかり投げろ」とメッセージを送った-。捕手は1試合に3回(延長戦突入後は1回)しかマウンドに向かえない。貴重な3回を温存しつつ意図を伝えるために、1回の返球を利用したわけだ。

普段の坂本は特に走者がいない場合、捕球した後は素早く返球するタイプだ。

「相手に考えさせたくないというか…相手が『さあ、いらっしゃい』という状況を作りたくないので。それにテンポを速くした方が守りやすくなりますしね」

ただ、そんな間合いも時と場合による。ビハインドの場面で流れを引き寄せたいタイミングでは、一気にテンポを速める。逆に勝負どころだったり、投手がストライクやアウトを欲しがり焦っている時は、あえて時間をかけて返球する。そして、投手にメッセージを伝えたい時は、突然フォームを大きくして強いボールを投げ返すこともある。

「野球は打つ打たない、抑える抑えない、だけじゃない。捕手はちょっとしたきっかけからゲームを動かすこともできるポジションなので」

ちなみに2人のやりとりには後日談がある。西武戦後のある日、坂本は伊藤将と食事を共にした。後輩左腕はその席で“剛速球”について「『うわっ、怒ってる』ってビビッたっす」と振り返ったらしい。先輩捕手の思いはしっかり届いていたのだ。

伊藤将は今季初先発した11日西武戦で7回2/3を無失点。続く18日ロッテ戦は6回1失点で自身347日ぶりの白星を手にした。常日頃から投手を立てながら、叱咤(しった)激励もいとわない。頼れる捕手、坂本誠志郎の存在感が今季も際立っている。【野球デスク=佐井陽介】

情報提供元: 日刊スポーツ
記事名:「 【阪神】なぜ坂本誠志郎は突然、マウンド上の伊藤将司に120キロの“剛速球“を投げ返したのか