大谷翔平、待望の二刀流復帰「1歩前進」さらに進化した投球に観客総立ち/Nobu’s Eye
<ドジャース6-3パドレス>◇16日(日本時間17日)◇ドジャースタジアム
【ロサンゼルス(米カリフォルニア州)16日(日本時間17日)=斎藤庸裕】ドジャース大谷翔平投手(30)が、待望の二刀流復帰を飾った。パドレス戦に「1番投手兼DH」で出場し、663日ぶりの先発登板。1回を28球、復帰初戦でいきなり最速100・2マイル(約161キロ)をマーク。2安打と犠飛で失点も、打者では同点適時二塁打で失点を取り返すなど4打数2安打2打点で取り返した。ドジャースタジアム初のリアル二刀流でチームの3連勝に貢献。満員5万30203人のファンを沸かせた。そんな大谷の復活劇を、20年の1度目の復活登板などMLBでの大谷に密着取材歴8年目の斎藤庸裕記者が、コラム「Nobu’s Eye」で迫った。
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大谷がさらに強くなって帰ってきた。声を出し、思い切り右腕を振った。暴投しても、天を仰ぐことはない。視線は常に強く、前へ。揺るがない自信があった。試合後の囲み取材。表情は終始、明るかった。
「今日投げ終えて、また次も投げられそうな雰囲気があることがまず、1歩前進かなと思います」
少しでも不安があればここまで前向きなコメントは出ない。汗をしたたらせ、充実感を漂わせる空気感は“あの時”と全く違った。
2度、米国で大谷の投手復帰を目撃した。コロナ禍の20年7月26日。アスレチックス戦は目を覆いたくなるような姿だった。制球が乱れ、腕が振れない。1死もとれず降板。受け入れがたい現実に試合後の表情は固かった。当時はキャッチボールですら違和感を拭えない様子が目立っていた。短い距離の壁当てで感覚を確かめ、再度、やり直しのキャッチボールをする時も。首をかしげ、天を仰いだ。苦しんでいた。大好きな野球を楽しんでいるようには、とても見えなかった。
今回はリハビリ過程から違った。笑顔が増え、ライブBP(実戦形式の投球練習)でも躍動感があった。キャッチボール中にピリピリ感はない。他球団の選手らと談笑し、途中で調整を中断する“余裕”もあった。常勝を求められる伝統球団で、二刀流復活のスタートでつまずく訳にはいかない。一方、過去と同じ失敗を繰り返すような男ではない。大谷なら必ず失敗を生かす-。そう思っていたが、さらに進化していた。
パ軍の3番マチャドへの5球目。大谷の気合の声はバックネット裏上部の記者席まで聞こえた。99・9マイル(約161キロ)。手術前と同様、それ以上とも思える力強さがあった。「95~96(マイル)ぐらいで投げたいと思ってたんですけど。やっぱり試合のレベルでマウンドに行くと上がってしまう」。抑えるつもりが、最速は100・2マイル。故障再発を心配する声も挙がるが、それほどの状態にまで仕上げてきたのは予想以上で、またも大谷に驚かされた。
マウンドに向かう前、白線をぴょんと左足からまたいだ。それは以前と変わらないが、そこから先の景色は静寂に包まれていた前回の復活劇と異なっていた。ボールを手に取ると、5万30207人のファンが総立ちとなった。「バッターに集中していたので、あんまり気にする余裕がなかったというか(試合に)入りすぎてたぐらいの感じだった」。歓喜の渦に気付かないほど、がむしゃらに腕を振る表情に、悲哀の色はなかった。「執刀医の方、トレーナーの方もそうですし、ずっとサポートしてもらってここまで来られたので。今日は結果うんぬん関係なく、本当に感謝の気持ちというか、それをマウンドで出せたのが良かった」。
大好きな野球での恩返しは、この先も続く。徐々に段階を上げ、最終目的地は投げて、打って、走って、ワールドシリーズ連覇へ。ドジャースで描く大谷翔平の二刀流・新章。その1ページ目がめくられた。
◆大谷の右肘手術からの1度目の復活登板 エンゼルス時代の20年7月26日、無観客試合で行われた敵地アスレチックス戦で、18年10月の右肘の内側側副靱帯(じんたい)再建術(トミー・ジョン手術)から693日ぶりの復活登板。0/3回を打者6人、3安打5失点3四球で、1死も奪えずKO。次回登板となった同8月2日の本拠地アスレチックス戦では、右腕に異変が生じて1回2/3を5四球2失点で降板。この年の登板はこれが最後となった。