先発ローテーションでフル回転するオリオールズ菅野

世界最高峰の舞台で世界一を目指す、日本の侍たち。日刊スポーツでは今季、ドジャース大谷翔平投手はもちろん、日本人メジャーリーガーと彼らにまつわるストーリーを「SAMURAI MLB」と題して紹介する。海を渡って戦う日本人選手たちに、多角的に迫っていく。

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オリオールズ菅野智之投手(35)が、目標だったメジャーリーグでのプレーを実現させ、先発ローテーションの軸の1人として活躍する。球界ではベテランの域に入った年齢での新たな挑戦。35歳のオールドルーキーは今、全てを受け入れる覚悟で異国の地へと渡り、マウンドで腕を振る。【取材・構成=久保賢吾】

■今が全盛期

4月下旬、ワシントンでの登板翌日のロッカールーム。少しの雑談の後、本題に入るはずだった。菅野がふと振り返った瞬間、米メディアの記者と目が合った。「オッケー」と合図を送ると、取材を受け始めた。数分後、また1人、別の記者が菅野のもとへ。米メディアからの注目度の高さが表れていた。

紆余(うよ)曲折を経て、35歳でたどり着いたメジャーリーグのマウンド。ただ、周囲からも聞こえる「ポスティングシステムでのメジャー移籍を目指した20年オフに海を渡っていたら」との問いには、はっきりと自分の思いを語った。

「僕はそこに後悔はないです。もっと早くに行ってたら、もっと活躍できてたとかって、わからないじゃないですか。僕は今、この年齢で来たことが良かったと思っていますし、常に今が全盛期だと思っています。だって、いつが全盛期なんかわからないですし、その答えも、見る人によって違いますから」

21年以降の4年間は、ケガや不調に苦しんだ時期もあり、順風満帆なわけではなかった。「でもね」と言い、続けた。

■「受け入れる」

「1つだけ確実に言えることは、人生は豊かになったと思います。もし、あの時に行ってたら(復活を支えてくれた)久保コーチ(巨人巡回投手コーチ)とも出会ってないですし、たくさんの出会いと心に残る出来事もあったので」

日本では沢村賞を2度、MVPを3度受賞するなど、数々のタイトルを獲得した。それでも35歳のオールドルーキーは「誰も僕のことなんか知らないだろうし、また一から積み上げていかないといけないです」と語る。余計なプライドや雑念は捨て、この地に立っている。

「つらいことや打たれることもあるし、自分の思い通りにいかないこともあるけど、何が起きても全部受け入れる覚悟で来ています。食事でもトレーニングでもやってみろと言われたら、とりあえず1回はやってみようと。自分からアクションを起こすことは、大事にしています」

■「挑戦できる」

チームメートからゴルフや食事に誘われれば、積極的に参加し、仲間の輪に加わる。チームでは41歳のモートン、37歳のギブソンに次ぐ年長者だが、先輩、後輩は意識せず、グラウンド内外でコミュニケーションを図る。

「わがままを言おうと思えば言えますけど、それは違うなと。困難なことも含めてこっちに来たし、この年齢でこうやって挑戦できること自体が素晴らしいことだし、そこは唯一誇っていいことだと思ってるので、しっかり感謝の気持ちを持ってやっていけば1年間戦えると思っています」

巨人で1学年先輩だった坂本ら周囲の人からは、35歳での新たな挑戦をたたえられ、見ている人たちに勇気や刺激を与えている。多くの温かい言葉に感謝しながら、シーズン開幕前には坂本に共闘への熱い思いを込めたメッセージをLINE(ライン)で送った。

「勇人さん、まだまだ若手と競ってる場合じゃないですよ。僕はまだ、スーパースターの坂本勇人が見たいです」

35歳を迎えても、進化できることは身をもって体験した。巨人時代、シーズン中はコンディション調整を最優先し、負荷の大きなウエートトレーニングは自重気味だったが、メジャー移籍後は頻度が増加。日本での中6日から、メジャーでは中4~5日での登板が続くが、コーチと話し合いながら取り組む。

「中5日の時は3回、中4日の時は2回。ブルペンの日に上半身、投げた次の日に下半身、中5日の時は体幹の日が入ります。日本の時は試合が始まると、コンディション優先でちょっと消極的な部分もあったんですけど、今はいろいろ話して、正直やりたくないなって時もありますけど、体はすごく元気だし、1年間それでやってみようと」

周りを見渡せば、それが当たり前の環境にある。正捕手のラッチマンは試合に出続けながら、試合前にもトレーニングし、試合後もウエートトレで体をみっちりと追い込む。菅野自身、オフやキャンプ中はテーマを設定し、体を追い込む時期を作ったが、メジャーの選手のトレーニングに衝撃を受けた。

「驚いたのは、ラッチマンが24-2で負けた試合後も、捕手でフル出場した後にトレーニングをガンガンやってて。本当にこっちの選手はタフだし、よく練習するなと。ガナー(ヘンダーソン)もオニールもセドリク(ムリンス)とかもだし、ホリデーとか若い選手はもっと」

菅野がプレーする映像を見て、元巨人の中島宏之氏からは「めっちゃ、いい体してるやんか。体もメジャーリーガーに負けてへんね」と絶賛された。巨人時代から「変わらない信念 変われる勇気」がモットーだった男は、メジャーの舞台で、心身ともに進化する。

◆菅野のポスティングシステム

20年オフにポスティングシステムでのメジャー挑戦を表明した。ブルージェイズ、パドレス、ジャイアンツ、メッツ、レッドソックス、エンゼルスなど複数球団が調査し、パドレスと最終交渉に臨んだが、交渉期限2分前に巨人残留を決断した。金額よりも「世界一を狙えるチーム」と環境、思いを重視したが、新型コロナウイルスの影響などで交渉が難航した。

情報提供元: 日刊スポーツ
記事名:「 【SAMURAI MLB】「20年オフに後悔はない」35歳オールドルーキー菅野智之の境地