レイズ国際スカウトの内堀立城氏(25年3月撮影)

<ブレーブス3-10ドジャース>◇3日(日本時間4日)◇トゥルイスト・パーク

ドジャース佐々木朗希投手(23)がメジャー初勝利を挙げた。大半の球団が参加の大争奪戦。涙をのんだ球団も力尽くした。レイズは編成幹部が佐々木の故郷にまで足を運んだ。ササキを知るために。同行したレイズの国際スカウト、内堀立城氏(52)が回想する。

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内堀氏は担当スカウトとして佐々木を獲得できなかった。「残念のひと言です。あれほど天井が高い選手はいません」と話す。

23年9月のある朝、東京駅から東北新幹線に乗った。来日した球団幹部3人と前日に佐々木の登板を視察。翌朝、シニアアドバイザーのジョン・ダニエルズ氏(47)と2人で日帰り旅に出た。「ササキが育った場所を見たい」。

仙台駅で車を借り、佐々木の実家がある大船渡を目指す。「どんな空気を吸ってたのか、どんな気持ちで上京したのかとか、想像を駆り立てるためですね」。ダニエルズ氏も、佐々木が東日本大震災の被災者ということは知っていた。

スカウト職の最終目標は選手の獲得だ。でも母校や関係者は訪問しなかった。「彼に対するリスペクトを持ちたかった。彼には彼のスペースがあって、時間があって」。大事なペナントレース終盤に、メジャー球団が地元を訪れることが“雑音”になると感じて。

市役所や高校、町並みを車窓でのぞくだけ。帰りに道を間違え、たまたま立ち寄ったのが佐々木の故郷、陸前高田市の「東日本大震災津波伝承館」だった。

「30分くらいと思っていたのが結局、3時間いました。ダニエルズもじっと写真や説明を眺めて。感傷的になっていた様子でした。お昼にうどんを食べた時も無言で、帰りも仙台駅までずっと無言で」

訪問の事実は佐々木側へのプレゼンでも明かしていない。でもレイズにとっては大事な時間だった。

「恋に落ちたと一緒だと思うんです。好きな人がどんなところでどんな時間を過ごしてきて、を感じて。自分のところに来たらどう成長してくれるかと。原点を知ることで、性格的なものも含めて、本人のステップアップを想像していきやすくなるかなって」

他に負けないくらい解像度は高めた。でも恋に破れた。ジェラシーは。「振り向いてくれるために全て準備したつもりでしたが…きっと僕らに何か足りないものがあったんです」。投手育成には定評ある球団。本拠地がハリケーン被害の直後だったのもレイズには悔やまれる。

「本当はレイズのユニホームで見たいです。でもそれを度外視してもずっと見ていきたいです。あんな投手、いないですから」

佐々木朗希はメジャーリーグにそこまで言わせる存在になった。【金子真仁】

情報提供元: 日刊スポーツ
記事名:「 佐々木朗希と縁がなかったレイズの敬意 恋に落ち、空気を吸いにだけ行った「原点」で感極まる