阪神対広島 初先発で初勝利を上げた阪神伊原はウイニングボールを手に笑顔を見せる(撮影・上山淳一)

<阪神8-1広島>◇20日◇甲子園

最高の孝行息子や! 阪神のドラフト1位左腕、伊原陵人投手(24)がプロ初先発初勝利を飾った。好調広島打線を相手に5回無失点。12球団新人最速で白星をゲットし、これで中継ぎデビューから7試合13回1/3連続無失点だ。チームは試合前時点でホーム1勝7敗1分けと苦しんでいたが、ルーキー左腕がカード3連敗&借金突入を阻止。救援デビューしたドラフト最上位ルーキーのプロ初先発白星は球団史上初の快挙だ。チームは2位に浮上した。

   ◇   ◇   ◇

この日最大のピンチ。伊原はニヤリと笑った。2点リードの3回1死一、三塁。広島二俣に9球粘られながら、少しだけ口角を上げた。10球目、122キロスライダーで空振り三振。「粘られることは分かっていた」。プロ初先発の新人とは思えない余裕を見せた。

立ち上がりからキレ味抜群の直球で空振り三振を奪った。3回無死一、三塁から無失点で耐えた。4回2死一、二塁で7番菊池から見逃し三振を奪うと、ほえた。5回を5奪三振4安打無四球で無失点。12球団新人最速のウイニングボールに「うれしいです」と喜びをかみしめた。

2年前の涙は、覚悟の表れだった。大商大4年時のドラフト会議。伊原の名前は呼ばれなかった。まだ育成選手の指名が続く中、同大学の富山監督から促された。「伊原、もうええよ」。張り詰めた表情で両親と兄のもとへ。顔を合わせた途端、涙があふれ出た。「さすがにキツかった。みんなが残念そうにしていたのを見ると申し訳なかった」。伊原が、家族の前で唯一泣いた瞬間だった。

八木中時代は最初、柔道部に入部。智弁学園に進学時も強豪の名前に押され「ご飯をいっぱい食べないといけないかも…」と迷った。1年冬はセンバツメンバー入りを逃し、母に「どうしたらいいか分からない」と連絡。野球から何度も離れかけた左腕だが、あの大学4年の秋、プロ入りに懸ける覚悟が芽生えた。

「正直、漏れて良かった。さらに自分を磨きたい、試合でもっと勝ちたいと思えるようになった」

NTT西日本入社前、同社の河本監督に「残念やったな。うちで頑張って」と声をかけられた。「はい!」。緊張した表情に決意がにじんだ。グラウンド外では仲間の輪の中心にいたが、気づけば1人で黙々とランニング。先発も中継ぎもガムシャラに請け負った。「全てでレベルアップできた」。入団後も先発、中継ぎの両にらみで調整。社会人野球を経験したからこそ今がある。

開幕後はリリーフとして6試合連続無失点。救援デビューしたドラフト最上位ルーキーがプロ初先発で勝利するのは球団史上初の快挙だ。計13回1/3連続無失点でカード3連敗、借金生活突入を阻止。「とにかく負けない投手になりたい。粘り強く、ずっと同じ投球ができればいい」。V奪回へ、頼もしいピースが加わった。【塚本光】

○…伊原の父伸さんは息子の投球のように強気に応援した。母優子さん、兄拓人さんらと甲子園の観客席から観戦。3回のピンチを振り返り「ヒヤヒヤしましたね。1点は仕方ないと思ったんですけど、ゼロが続いていたので、ここは強気でゼロやろ、ゼロで抑えろ、と思っていました」と明かした。無失点での降板後は「ホッとしました。プロは投げて抑えなあかん。ハラハラしましたけど、なんとか乗り越えてくれた」と満面の笑みを浮かべた。

情報提供元: 日刊スポーツ
記事名:「 【阪神】伊原陵人、涙の指名漏れから2年…「全てでレベルアップ」12球団新人最速プロ初勝利