【阪神】岩貞祐太の静かなもがき ベテラン待遇なく帰阪も「ひがむことなく」前を向ける理由
傷口に塩を塗るのは承知の上で聞きたかった。「先に帰阪する心境は…?」。阪神岩貞祐太投手(33)は25日、若手とともに具志川キャンプを終え、沖縄を離れることになった。嫌な顔をせず、質問に答えた。
「もちろん悔しさはあります。でも、先に帰阪して、自分がファームで動くことになるのは当然のこと。自分の立ち位置は分かっているつもりですから」
実績がある選手は具志川で自由な調整を任されても、時期を見て宜野座(主力組)に移るのが慣例。今年も原口文仁、糸原健斗、岩崎優や島本浩也がそうだった。岩貞も宜野座に移る流れに見えた。だが特別扱いはされず、ガチンコ競争のただ中に置かれた。
オープン戦の22日楽天戦(金武)で1回3失点。意外にも、さっぱりと振り返る。「ファウルを取りにいった球が結果球(フェア)になった。今やっている通りの投球になったというか。球速、ストライク率、打者の反応。こんなもんかなと思いました」。村林に右越え3ランされた理由も明確。球威のなさだ。一方、16球で失投はわずか。ゾーンに投げ込むという目標をクリアした分、打者には打ちやすい投球となった。
直球はまだ140キロに満たない。理想はもう10キロ以上のアップ。1月に、ぎっくり腰のような症状が2度出た。フィジカル強化は想定の1カ月遅れ。体が仕上がってくれば、ある程度やれると感じているのだろう。過信しているわけでは決してない。特有の表現でキャンプを振り返った。
「自分がのぼった分だけの段数かな、と。きっかけとかをカチッとつかむ年は1回で3~4段上がったりするけど、それはなくて。本当に10段分、しっかり上がったという感じ」。正しい目的地に向けて、ゆっくりと歩んでいる途中だ。
打ち上げ前日の24日。ブルペンで今春最多の100球を投げた。捕手・藤田に時間をもらい、スタッフを打者に見立てて全球、カウントを設定。藤田の出すサインは生もの。実際に投じられた球を踏まえて、配球を組み立ててもらった。
「今日は奥行きを意識しました」とチェンジアップを多投した。活躍した23年は投げていない球種。中継ぎでは快速球とスライダーで押した。先発していたころは緩急をつける投球が得意だった。その引き出しがある。昨年の今ごろは理想のフォームと左肘痛のジレンマに悩んでいた。それに比べれば、希望は多い。
「去年からずっと悔しい思いをしてきた。悔しさを何に結びつけるかで、進む方向が決まってくる。ひがむのではなく、練習に直結させたい。上(1軍)で投げるために何をすべきか、分かっているつもり。一喜一憂せずにやります」
実力がすべての世界で、どう生きるか。「2軍」を自覚する男の静かなるもがきに注目したい。【遊軍=柏原誠】