【イケオジ対談】吉井理人✕武豊、出会って30年の豪華共演が実現「おっさんになったな」/前編
豪華な“イケオジ”対談が実現した。今年、プロ野球12球団の監督で最年長となった千葉ロッテマリーンズの吉井理人監督(59)と、ジョッキー生活39年目を迎えたJRAのレジェンド武豊騎手(55)、お互いをリスペクトする2人が6年ぶりに再会した。
野球界、競馬界の第一線を走り続ける秘訣(ひけつ)を明かし、世界へ挑戦する若者にエールを送った豪華対談を、前後編の2回にわたり掲載する。【取材・構成=下村琴葉、星夏穂】
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先に到着した吉井監督が「久しぶりやなあ」と笑顔を見せると、武豊騎手も「お久しぶりです」と固い握手を交わした。初対面から30年、互いに「おっさんになったな」と笑う。黒い水玉のネクタイをシックに着こなす武豊騎手と、現役時代さながらの体形に白髪もダンディーな吉井監督。朗らかな雰囲気の中でも、厳然たる芯を感じた。
-2人とも各界のかっこいいおじさん、いわゆるイケオジと言われる。若さを保つ秘訣(ひけつ)は?
武豊騎手(以下、武) 僕らはたぶん、若い子といるからかな。
吉井監督(以下、吉井) 豊君は現役なので若くて当たり前。
武 若い選手とのコミュニケーションはどうしてるんですか?
吉井 トレーニングを一緒にやってる。若い子たちはどう思ってるかわからんけど(笑い)。最近、ほんま空気のように思ってるみたいで、それ、監督の前で言うたらあかんやろみたいな話もしてるから、逆にどうなんだろうと。だいたい今までの監督さんは、選手が気を使うから食堂で一緒に食べなかったりするんですけど、普通にいます。リラックスする場面で大事なことを言ったりとか、そういうこともしてます。
-若い人と接する時に気をつけていることは
武 「俺たちの頃は」といったことを言わないようにしてますよ。あと「最近の若いやつは」とか。その2つは言わないように気をつけています。
吉井 それはありますね。自慢話はしないようにしてますね。
武 思えば、自分が若い時は、それが嫌でしたもんね。
-若い人たちから吸収できることも?
吉井 今、自分の立場としては指導者なんで、選手に気づかせるのが仕事だと思ってるんですけど、こういう時にこんなことを言ったら、この選手たちはこうなるんやみたいな、そういう気づきはたくさんあります。難しいです。
武 勉強になることも多いですよ。最近はこういう言葉遣いなんや、とか(笑い)。この間、後輩がちょっと大きいレースで人気になってたから「チャンスなんだから、頑張れよ」と連絡したんです。結果は負けてしまったけど、終わってから「がっかり侍レベル100」と返ってきた(笑い)。かわいい(笑い)。でも、レースでは敵になる立場でもあるし、何かを教えるっていうことはあんまりないかも。レースのこととか、聞かれたら言うかもしれないですけど。
-互いに、現状維持にとどまらないモチベーションはどう保っている?
吉井 (野球が)好きだから、っていうのが一番だと思いますね。プロに入った頃は早く辞めたいなと思っていた。実力として絶対無理やろ、って入った時に思ったんで。3、4年目ぐらいからちょっと好きになってきて。それこそ大リーグに行きたいっていう気持ちが強くなって、そこから向上心やいろんな好奇心が出てきた。その頃はルールを破って行くか、FAしかなかったので、こじ開けていきましたけどね。
-野球が好き、という感情が芽生えたのは
吉井 自分が(やって)いけるかもって思ったのと、オフシーズンに日米野球でアメリカのスターチームが日本に来てたんですけど、その試合を見て「やっつけたい」って思ったんですよね。それが始まりですね。
武 僕は最初から別に嫌ではなかったですけど、海外とかに行き出して、余計にスイッチが入った、っていうのはわかります。悔しい思いもいろいろありましたしね。でも、やれるなっていうのもあったり。今でも若い頃と同じ感覚。もちろん仕事が好きだし、負ければへこむし、勝ったらうれしいし、それが一番のモチベーションというか。1週、2週、未勝利で終わったら、もう俺、無理かな…と。本気ではないけどね。それで翌週、ポンポンと3つぐらい勝ったら、全然大丈夫。それの繰り返しですから。面白いですね、競馬は。
-昨年、武豊騎手はドウデュースを、吉井監督は佐々木朗希投手を送り出した。寂しい気持ちは?
武 今年の春の、G1レースのパートナーは…となった時に「あ、そういやいないわ」というのは思うようになりました。
吉井 朗希の場合は、いつかメジャーに行ってほしいと思う選手だったんで。もうちょっと成長したところを見たいなとは思ったけど、今度はテレビでしっかり見ていきたいと思います。
-海外で戦う魅力は
吉井 違うところがたくさんあるし、レベルが高い選手もたくさんいるんで、それを見るだけでも楽しい。野球だけじゃなくて、人生観も変わったりするんで。いろんな意味でいいとは思いますけどね。これは個人的な意見です。
武 「なんで?」と思うことがいっぱいあったり、うまくいかなかったり、鍛えられたなって感じはします。
-人生の価値観がそこで変わった実感は?
吉井 ありますよ。アメリカに行く前の自分はほんとに悪いやつだったんで。帰ってきてからは、少しだけ大人になったと思ってます。
武 若い時から結構勝って、日本で注目されて、成績も良くて、やっぱりちやほやされていた。それに気が付いたのはよかったと思うんです。自由にできる楽しさも味わえたし、いろいろな経験ができて、すごい時間だったな、って。
-挑戦する上で怖さは?
武 ありますけどね。それ以上にワクワクとか、楽しそうとか、どんなことになるやろうとか、全然やれるんちゃうかなとか。そっちの方が上回ってるから行ったんだと思う。
吉井 あんまり失敗した時のことは考えてない。(自分は)お調子者なんで(笑い)。みんな、そうじゃないかな。
-挑戦する若者へ
吉井 「やりなはれ」しかないですよ。
武 あとは自分ですもんね。
吉井 そうやね。(後編につづく)
◆吉井理人(よしい・まさと)1965年(昭40)4月20日、和歌山県生まれ。箕島から83年ドラフト2位で近鉄入団。88年最優秀救援投手。95年トレードでヤクルト移籍。97年オフにFAでメッツ入団。ロッキーズ、エクスポズを経て、03年オリックスで日本球界復帰。07年途中ロッテに移籍し同年引退。日米通算121勝129敗62セーブ、防御率4・14。08年から日本ハム投手コーチ。ソフトバンク、日本ハム、ロッテ、日本代表でコーチ、23年からロッテの監督を務め、ダルビッシュ有や大谷翔平、佐々木朗希らを育てる。187センチ、89キロ。右投げ右打ち。
◆武豊(たけ・ゆたか)1969年(昭44)3月15日、京都府生まれ。87年に騎手デビュー。88年菊花賞(スーパークリーク)でG1初制覇。22年にはドウデュースで史上最多6度目の日本ダービー制覇を果たした。JRAリーディングは史上最多の18回。最多勝利・最高勝率・最多賞金獲得の騎手大賞は9回受賞。JRA通算4559勝(28日現在)は歴代最多を更新中。うちG1・83勝。
◆2人の出会い 95年に共通の知人を通じて親交が始まった。吉井監督は「そんなん、もうスーパースターやから。ドキドキしていたよね」と振り返り、武豊騎手も「関西の方なんで、なんか話しやすいなと。僕の後輩とかもすごくかわいがっていただいたので」と懐かしむ。00年に吉井監督(当時投手)が東海岸のニューヨーク・メッツから、ナショナルリーグ西地区のコロラド・ロッキーズへ移籍。同年に武豊騎手が米西海岸に拠点を置き、米国で会う機会が増えたことでさらに仲を深めた。19年1月には、馬主である吉井監督の所有馬マゼに武豊騎手が騎乗し、勝利を挙げている。
◆ドウデュース 21年9月に武豊騎手とのコンビでデビュー。無傷3連勝で朝日杯FSを勝ってG1初制覇。翌年、3歳馬の頂点を決める日本ダービーでは、のちに“世界最強馬”となるイクイノックスを破って優勝した。23年には有馬記念、24年には天皇賞・秋、ジャパンCを制し、4年連続でJRA・G1・5勝を挙げた。引退レースの予定だった昨年の有馬記念は出走取り消しとなったが、24年度のJRA賞年度代表馬に輝いた。現在は種牡馬となり、初年度産駒は28年にデビュー予定。