与論島で自主トレした巨人今村(撮影・久保賢吾)

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巨人今村信貴投手(30)が、自主トレを鹿児島・与論島で実施した。当初はマウンドもなかった島で、なぜ実現したのか。島の関係者の強力なサポート、熱い思いが込められた「プロジェクト・ノブ」に迫った。【取材・構成=久保賢吾】

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昨年10月、今村の自主トレに同行する保田トレーナーは、全国の島など約15カ所の役所に自主トレが可能かどうか電話をかけた。次々と断られる中、唯一、反応があったのが与論島だった。ただ、野球場はなく、マウンドもなかった。あきらめかけた時、島の関係者から連絡が入った。

「マウンドを作るので、来てください」

伝え聞いた今村は、与論島関係者の熱い思いに心を揺さぶられた。昨年まで内海1軍投手コーチから引き継いだ鹿児島・奄美大島で自主トレを行ったが、近年、同地を訪れる選手が増加。練習に集中し、自身を追い込める新たな場所を模索する中、マウンドから作り上げる環境は自身の思いと重なった。

今村 年を取ってきて、新しいことを取り入れていかないと結果も出ないし、同じことを繰り返しても今の中途半端な感じやと思ったので、新しいことに取り組もうと。保田さんとも話をして、何もないところから挑戦して、切り開いていこうと思った。

昨年11月中旬、保田トレーナーとともに同行する石賀トレーナーが現地の視察に訪れた。島の関係者から要望を聞かれ、いくつか伝えたが、限られた予算の中では難しく、マウンドを最優先に進められた。「硬くしてください」。要望は1点だったが、島の関係者には未知の作業だった。

昨年12月20日に奄美大島から土が到着し、複数の有志の手で急ピッチで行われた。最後の仕上げは、沖縄セルラースタジアム那覇のグラウンドキーパーの真栄城氏にお願いし、今村が与論島に到着する前日の1月4日に完成。安堵(あんど)と喜びで保田トレーナーの目は潤んだ。

自主トレ初日の6日、今村はそのマウンドでボールを投げ込んだ。「NPBのマウンドと同じくらい良くて、すごく投げやすかった」。島の関係者1人1人の思いが詰まったオンリーワンのマウンドをかみしめ、心に誓った。

今村 これだけ応援してくれる人がいる。1軍で活躍することが一番の恩返しだと思うので、1軍で投げてる姿を見せて、いつか東京ドームに招待できるように頑張りたいです。

マウンド以外にも、ソフトテニスなどでも使用する室内練習場の芝の上にたまった土を取り除き、ウエート場もきれいに清掃した。「日々、やりきったと思える練習ができています」と充実するのは、「プロジェクト・ノブ」に携わった島の関係者の情熱とサポートのたまものだった。

◆巨人今村の自主トレ 1年目は先輩の福田と埼玉・大宮で実施し、翌年の14年は巨人村田(現DeNAコーチ)らとの沖縄自主トレに同行した。15年から巨人内海(現巨人コーチ)に弟子入りし、グアム(16年からは沖縄・那覇)で汗を流した。20年は「内海組」から独立し、横川らと神奈川・茅ケ崎で合同トレし、21年は田口(現ヤクルト)、高橋(現ミキハウス)と香川で実施。22年からは再び西武内海の鹿児島・奄美大島での自主トレに同行し、22年限りで内海が引退した後も24年まで続けた。

◆与論島 サンゴ礁に囲まれた鹿児島・奄美群島の最南端にある島。人口は約5000人で、潮の満ち引きによって限られた時間に出現する幻の砂浜「百合ケ浜」は絶景のスポット。豊かな自然、星空もきれいで、海ではウミガメやカラフルな熱帯魚が戯れ、ダイビングなども楽しめる。

情報提供元: 日刊スポーツ
記事名:「 【巨人】今村信貴「プロジェクト・ノブ」に潜入、マウンドもなかった与論島で自主トレの熱い思い