元JFA副会長が異例の小説家デビュー「銀鼠髪のオデュッセウス」を発表した岩上和道氏に、聞く
日本サッカー協会(JFA)副会長を2022年まで務めた岩上和道氏(72)が、小説家デビューした。
第1作の長編恋愛小説「銀鼠髪(ぎんねずがみ)のオデュッセウス」をコールサック社から発表。東大卒業後の1978年に電通へ入社。38年間の勤務後、JFAで2016年から事務総長、副会長を歴任し発展に尽力した末に、夢だった文筆業へ異例の転身を遂げた思いを聞いた。【盧載鎭】
功労者によるサッカー関連出版は多々あるが、小説家になるケースは珍しい。
岩上氏 大学時代に読んだジェイムズ・ジョイスの「ユリシーズ」が大きなヒントとなりました。
ユリシーズは、ホメロスの長編叙事詩「オデュッセイア」の物語性を下敷きにアイルランドの首都ダブリンで、1904年(明37)6月16日の1日で起きたことが書かれていて、岩上氏は「その1日に特別に大きなことが起こったわけではないですが、ダブリンを東京背景に描きたかった」という。
ユリシーズの主人公は広告の営業マンで、銀鼠髪のオデュッセウスの主人公・野原一馬も広告会社に勤務していた。電通マンとして38年勤務した岩上氏の経験を絶妙な具合に織り交ぜていて、ユーミンやビートルズらミュージシャン、ジーコらサッカーに関わる人々の名前も登場する。
電通社員だった岩上氏は93年から4年間、サッカーを担当した。初めての仕事は93年に日本で開催されたU-17(17歳以下)世界選手権(現U-17W杯)だった。当時、日本代表は小嶺忠敏監督が指揮を執り、MF中田英寿、DFの松田直樹、宮本恒靖ら豪華メンバーが出場した。その縁があってか、JFA会長になった宮本氏からは「小説、読みますよ」との連絡も届いている。
岩上氏 当時、FIFA(国際サッカー連盟)からは「いつか日本でW杯を開催したいのだろう? そのためには、この大会を成功させないといけないよ」と言われました。大変だったのはお客さんをたくさん呼んで、日本のサッカー熱を世界中に知らせることでした。
当時、アンダーカテゴリーはサッカーファンからの関心が低く、岩上氏はJFAの協力を仰ぎながら、開幕戦の日本-ガーナ戦に2万人以上を集めた。
本人は「キャパ(収容数)が5万人を超える国立競技場に2万人ですから、ガラガラでした」と言うが、当時、世代別の代表戦に2万人を超える観客が集まったことは大盛況と言える。大会終了後、FIFAから絶賛され、のちに02年W杯日韓大会の開催に大きな影響をもたらした。
この先も、作家活動は続けていく予定だ。
「いずれかのタイミングで、サッカーの小説を書きたいと思っています。今、サッカーがこれだけ人気なのに、実は日本にはサッカーを題材にした小説が少ないと思います。内容は明かせませんが、構想はあります」
最初の作品は元広告マンのラブストーリーがメインで、岩上氏の人生における経験も生かされているのかもしれない。次は日本サッカーに献身した功労者の、サッカー小説。深い味わいに仕上がることは間違いない。