東大渡辺の投球フォーム

<潜入>

幕張の「ミスターサブマリン」としてロッテで活躍した下手投げ右腕、渡辺俊介氏(48)を父に持つ東大の渡辺向輝投手(3年=海城)が、父と同じ下手投げに至った経緯を探るため、東京・文京区の東大球場に“潜入”した。

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今秋法大2回戦で、悲願のリーグ戦初勝利。渡辺は「すごく長かったですね」としみじみと振り返り、2年半でつかみ取った白星までの軌跡をたどった。

入学時点から同級生で1番の速球派。上手投げ、横手投げを織り交ぜて練習も、1年生では公式戦未登板に終わった。ある日3学年上の当時主将だった松岡泰希捕手に練習を見てもらっていた際、「普通に投げたら普通のピッチャーで終わるよ」と伝えられた。「それが一番大きかったですね」。下手投げへの転換点となった。

167センチ、61キロ。自身を「スポーツに向いている体ではない」と分析する右腕は、生き残りをかけて1年冬に下手投げへ完全転向。当時は周囲も驚いていたが、この道を信じることを決意した。

父親は下手投げで活躍した元NPBの名投手。最強のお手本が身近にいるにもかかわらず「2世で、父親の劣化版みたいな感じになってしまうのが嫌で」と絶対に助言は求めなかった。ロールモデルは立大のエースだった現DeNAの中川颯。「投げないと覚えられない」と、軸足を曲げて体重移動する独特な投球フォームと改めて向き合った。速球を投じない分、制球力が生命線。週に600~300球ほど同じポイントに複数球種を投げ込んで制球力を磨きあげた。

2年春にリーグ戦デビューし、3年春には中継ぎで8試合に登板して防御率2・45をマーク。9月にエスコンフィールドで開催された東京6大学オールスターにも選出された。「父親が現役の頃なかった球場で、投げる権利を得られた。まず1つ。ちょっと勝てたな」。殻を破れた気がした。

今秋は東大のエースに成長。120キロに満たない直球に、110キロ台のスライダー、110キロ台後半のシンカーを軸に、時折90キロ台のカーブを使った。1勝にとどまったが、6試合を投げて防御率3・72と、甲子園経験者の並ぶ強力打線相手に奮闘した。

「こんなに話題だけ先行して、結果がともなっていない選手はいないなって感覚がずっとあって」。2世ならではの苦悩もあった。最終学年の来季は、より厳しいマークが予想されるが「下手投げをどう研究するのか、自分でもわかっていないところはあるので、研究されたら研究し返す」と強気だ。

伸び代は慶大2回戦で清原正吾に被弾したカーブだ。85キロ台のカーブを持っているが実戦では自信を持って使えず、この秋は封印してきた。「下手投げで遅い球を投げないピッチャーはなかなかいないと思うので、投げられるようにならないと」。8年ぶり勝ち点獲得のキーマンへ。東京6大学リーグをおもしろくしてみせる。【佐瀬百合子】

情報提供元: 日刊スポーツ
記事名:「 元ロッテ渡辺俊介氏の長男、東大・渡辺向輝が父と同じ下手投げに至った言葉とは…