首都圏で練習を行う今秋ドラフト候補の根岸

銃撃戦で試合中止。大学の入学式初日に銃口を向けられる。「さすがにそこまでは想像していなかった」。壮絶な環境を乗り越えて今秋ドラフト候補へ成長したのはノースカロライナA&T州立大の根岸辰昇内野手(24)だ。

慶応(神奈川)では18年夏に甲子園に出場。1学年下の現ソフトバンク広瀬隆太内野手(23)とともに主軸を担った。卒業後は3つの米大学を渡り歩いた。勉学では「慶応の方が難しかった」と授業と野球を両立して無事4年間で卒業資格を得た。

コロナ禍の20年にシーズン全休となって失った1年を取り戻すべく、恩師の勧めで23年8月に3大学目となるノースカロライナA&T州立大へ転入。ラストイヤーでは、51試合に出場して打率3割7分1厘、8本塁打、37打点と全部門で自己最高を更新した。一塁と外野を守る左打ちの中距離タイプ。ついに才能が開花したが「特に最後の1年が大変でした」と危険と隣り合わせだった日々を振り返る。

生徒の9割が黒人の同大はアメリカ東部に位置する。日本人の少ない地域で、入学初日から衝撃を覚えた。視線の約30メートル先の学校周辺で銃撃戦が始まった。「銃口が僕にも向いて、走って逃げました。結構タフな、大変な環境ではありました」。球場周辺で銃撃事件が発生し、試合が中止になることもたびたびあった。借り上げアパートで生活を送っていたが、眠りにつこうとすると、隣の部屋で物騒な物音が聞こえる日もあった。それでも「寝るしかない。もうそこは慣れです」と腹をくくっていた。

不思議と日本に帰りたいと思ったことはなかった。「野球がなかったら厳しかったかもしれないんですけど、それ以外のことは気にならなかった」。適応能力が武器となった。

NPB複数球団から調査書が届き、西武の入団テストにも参加。独自の経歴をたどった24歳が、吉報を待つ。【佐瀬百合子】

情報提供元: 日刊スポーツ
記事名:「 入学初日に銃撃戦「走って逃げた」生徒の9割黒人の米大で武者修行 今秋ドラフト候補・根岸辰昇