東京V対鹿島 後半、先制ゴールを決めチームメートと喜び合う東京V山見(左から2人目)(撮影・垰建太)

練習は嘘をつかない。

よく聞く言葉だが、それを目の当たりにした。

8月25日の明治安田J1第28節。東京ヴェルディが「下馬評」を覆し、2位に付けていた鹿島アントラーズを2-1と下した。

その下馬評はこうだ。totoの投票率はホーム東京Vの勝利予想が15・35%なのに対し、アウェーの鹿島は63・27%だった。無理もない。鹿島からレンタルしているFW染野唯月、MF松村優太、DF林尚樹という先発組3人が契約上で使えない。そんな台所事情に加え、ビッグネームもいない。しかし蓋を開けてみれば、攻守に互角以上の戦いを展開し、FW山見大登の2ゴールで勝利した。

まさしく大きな1勝。誰かに頼らないチーム作りが奏功したといえる。

■所属元で壁にぶつかり再起を懸け

「J1で20番目のチーム」と城福監督は言い切る。今季の目標はJ1残留。若いメンバーが多く「期限付き移籍」の選手が顔をそろえる。J1で生き残るためには、選手の「成長」が唯一の方法。所属元で壁にぶつかった男たちは再起の思いを秘め、真摯(しんし)に自分の課題と向き合ってきた。それが後半戦以降、結果につながっている。

「(鹿島戦の)2得点目なんかは相手の前にいたので、ドフリーとなってこぼれた球を拾えた。普段から(練習で)やっていることが生きた」

こう話す山見は今季、練習を通して大きく成長した1人だろう。前半戦は出場機会にも恵まれなかった。苦手とした守備の課題に取り組みチームプレーができるようになると同時に、出場機会を得られるようになった。すると本来の攻撃力にも輝きが増した。今季はキャリアハイの6ゴールと開花している。

■守備任務、0・5秒早い動き出し

鹿島戦後の会見で、城福監督に山見について問うと、こう回答した。

「彼の才能というか、持っているものは我々はガンバにいる時から注目していました。ただJ1で長くプレー時間を確保するというのはどういうことか、このチームに来た時からずっと言い続けてきました。彼がそれを頭で理解できても、体で表現するまでにはしばらく時間がかかりました」

「彼の辞書にはなかったプレー」。守備の小さな役割を全うすること、連続してプレーに関わり続けること。より具体的に言えば、靴半足分のアプローチ、0・(コンマ)5秒早い動き出しなど、その要求は細かい。それらを表現し続けることでビッグチャンスにつながるとの考えを口酸っぱく伝えた。日々意識することで習慣化され、見過ごされがちだったオフザボールのプレーは飛躍的に改善された。

山見は東京Vに来てから筋力トレーニングに励み、最近になってから大好きな炭酸飲料を断つなど食生活の改善にも乗り出したという。もっと体重を増やし、それでいて重く感じない体作りに余念がない。プロとしての欲がどんどん大きくなっている。

「最初のところで守備のことを言われて、チームが負けている時しか(試合に)出られなかったですし、チームが勝っている時はベンチで出られなかったり。そういうところで自分の意識を変えていかないと、上にもつながっていかない。意識を変えるためにヴェルディに来たので、それが今につながっている」

■「エクストラ」練習で課題を克服

鹿島戦からオフを挟み、次節31日の柏レイソル戦に向けてチームは始動した。全体練習が終われば、それぞれが練習場に残り「エクストラ」と呼ばれる課題克服トレーニングに励む。向上心をむき出しに、もっとうまくなろうと自らにベクトルを向け続けている。

鹿島から1カ月前に期限付き移籍してきた松村が、こう話してくれた。

「鹿島に勝ったというのはすごく大きなことだと思います。ヴェルディだけじゃなく、どこのチームも鹿島に勝つと乗ったりする。それはなんでかというと、鹿島が歴史あるクラブだから。いつでも強いというイメージがある。3人(鹿島組の染野、松村、林)が出なかった中で、代わった選手も活躍した。競争が激しくなる中で相乗効果になっていると思う。すごく大きな試合だった」

■現在9勝11分け8敗で10位と健闘

記事の冒頭に記した「練習は嘘をつかない」だが、本当のところは「噓もつく」。課題に向き合えていなければ、いくら練習したところで何の成果にも結びつかない。自らの課題を知り、それを突き詰め、どう練習に取り組んでいるかどうかが重要になる。

J1も残り10節と佳境に入る。東京Vは現在9勝11分け8敗の勝ち点38の10位と大健闘。J1残留というゴールも視界に入ってきた。

この夏の補強は松村だけだった。それがヴェルディの在り方を示している。ビッグクラブのような資金力はない。連れてくるより育てて強化する。スタッフ陣は根気強く選手たちと向き合い、チーム内の競争を促した。結果、真摯(しんし)に取り組む個々の成長曲線、その右肩上がりの度合いはグッと伸びた。

「ランド」で流す汗は嘘をつかない。選手はみな、知っている。だから今日も人一倍、走る。【佐藤隆志】

情報提供元: 日刊スポーツ
記事名:「 【東京V】「練習は嘘をつかない」は本当か?「彼の辞書にはなかった」山見大登が示した成長曲線