なぜ今、五輪を招致するのか―。札幌市長や日本オリンピック委員会(JOC)会長ら推進側から説得力のある発言は聞こえてこない。東京五輪を巡る汚職・談合事件の影響が懸念される2030年冬季五輪招致。機運は高まっていないが「乗りかかった船が動きだしている」(JOC関係者)。コロナ禍で世論を二分しながら開催ありきで突き進んだ東京五輪と、状況はどこか似ている。 東京五輪のレガシー継承を唱える札幌招致。携わる関係者も重なるが、今夏に東京五輪を巡る事件が表面化すると、招致関係者は「札幌と直接関係ない」と強調した。札幌市は3月に住民意向調査を実施したものの、その後は民意の把握に消極的。招致を推進するプロモーション委員会内からも「逃げている。3~4カ月でメディアも静かになるだろうとしか思っていないんじゃないか。国民は見透かしている」と不満が漏れた。 今秋になって示された大会開催意義には、降雪量の多い札幌ならではの自然環境保全や気候変動対策への啓発など目を引く部分もある。しかし一方で、中京大の來田享子教授(オリンピック史、スポーツとジェンダー)は「都市や国際社会のビジョンをより確実なものにする場として大会を位置付ける必要がある。『イベント』を成功させることに終始し、開幕直前にいまさら意義を問うことになった東京大会を反省し、それを生かすべきだ」と警鐘を鳴らす。 夏冬合わせて五輪を4度開催。国内における五輪人気は根強いが「それほどオリンピックに依存して何がしたかったのか。日本の社会は問わなくては」と來田氏は言う。 多額の公金を投じ、選手が感動のドラマを紡ぐ背後で、一部の関係者が不正な形で利益を得る構図が東京五輪を巡る事件であらわになった。その中で進む札幌招致。「突き進む理由は何なのか。社会の信頼を回復させてから、次のステップに行ってもいいのでは」と言う五輪関係者もいる。 (了) 【時事通信社】 〔写真説明〕札幌オリンピックミュージアム前に設置されている五輪のシンボルマーク。奥は大倉山ジャンプ台=2021年11月、札幌市中央区