今夏の第104回全国高校野球選手権大会を制した仙台育英(宮城)。優勝旗の「白河の関越え」という東北勢の悲願を成就させる原動力となったのは、須江航監督(39)が「育成と勝利の獲得」を目指して貫いた継投策だ。 宮城大会1回戦から甲子園の決勝までの10試合で、1人が投げ切った試合はなし。斎藤蓉、高橋、古川を軸に、5投手による盤石のリレーで頂点へ駆け上がった。 徹底したやり方の根底にある考えが、投手の負担軽減だ。「肩肘は消耗品だという感覚で育ててあげるのがいいと思っている」。約1カ月先の練習試合までローテーションを組んで登板機会を管理。連投はさせないようにしている。 「エースにおんぶに抱っこというよりも、投手の質は上がるんじゃないか」。個々の負担を抑えて全員にチャンスを与えることが、チーム力の底上げにつながる。タイプの異なる投手がそろうと相手打線も狙いを絞りづらくなり、結果的に育成と勝利の二兎(にと)を追うことが可能となった。 系列校の秀光中でも監督を務めた須江氏。育成を重視する以外にも、教育者としての姿勢が際立つ。選手権初戦の2回戦では「コロナのことを考えれば一つでも多くの思い出をつくってあげたかった」との思いから、ベンチ入り18人全員を出場させた。話題になった優勝インタビューでの「青春ってすごく密なので」という言葉も、日々生徒と身近に接してきたからこそだろう。 「今後、うちを卒業した子たちが大学などでどれくらい活躍できるかで、この取り組みが正しいかが見えてくると思う」。歴史の壁に風穴を開けたチームづくりは、高校野球界の新しいスタンダードになるか。 (了) 【時事通信社】 〔写真説明〕全国高校野球選手権大会の表彰式で、優勝旗を手にする仙台育英の佐藤悠斗主将(右端)=8月22日、甲子園 〔写真説明〕全国高校野球選手権大会で仙台育英を優勝に導き、インタビューに答える須江航監督=8月22日、甲子園