札幌市優位とみられてきた2030年冬季五輪招致の行方は、今夏に表面化した東京五輪をめぐる汚職事件の影響で不透明感が増している。国際オリンピック委員会(IOC)は開催地を決める総会を当初予定していた来年5~6月から秋に延期。札幌にとっては、候補地が一本化され事実上の内定となる可能性が高いとされる来春に向け、国内の支持を高められるかどうかが重要になる。 札幌以外は、ソルトレークシティー(米国)が次の34年大会を優先したい意向で、バンクーバー(カナダ)はブリティッシュコロンビア州政府が27日に招致不支持を表明。渡辺守成IOC委員は「相変わらず札幌が最有力だと思うが、東京の問題を片付けないといけない。バッハ会長が札幌でやりたがったとしても、支持されていない国でやっていいのかと(受け止められる)」と指摘する。 渡辺氏は「札幌がスイスに負けないリゾート地になる可能性はある。日本が新しい時代を迎えるチャンス」だととらえ、招致に賛同する立場。一方で「いくらプロモーションをしても、根本の不信感を払拭(ふっしょく)しない限り無理」とも言う。東京五輪の問題点を検証し、札幌開催が決まった場合の対策を早急に示すべきだと訴える。 この秋になって、札幌市と日本オリンピック委員会(JOC)は大会運営の透明性や公正性の確保に向けて検討する姿勢を示したが、対応にスピード感がない。小売業界での勤務経験が長い渡辺氏は「万引きを例にすると、監視カメラや万引きGメンが予防になる。そういうものを見せずに『もう万引きはない』と言われても」と述べ、求められるのは納得できる具体策だと強調する。 東京五輪招致では、スポーツの力が東日本大震災の被災地に希望をもたらすと訴えた。それに比べ、札幌の招致理念や開催意義について説得力のある言葉が届いていないとの声も少なくない。東京五輪直前に大会組織委員会副会長を務めた荒木田裕子氏は「札幌から発信されることにはインパクトがない」と感じてきたという。五輪への信頼が回復できていない状況も踏まえ、「一度、立ち止まる勇気も必要なのではないか。次の34年に夢を託すのも一つの選択肢」と踏み込んだ。 (了) 【時事通信社】 〔写真説明〕札幌オリンピックミュージアム前に設置されている五輪シンボルマーク。奥は大倉山ジャンプ台=2021年11月30日、札幌市中央区