地域ごとに独自の言語や文化が存在するスペインには、サッカーでも各地域に独特の選手を育む土壌がある。カタルーニャは優秀なパサー、アンダルシアは突破力に優れたドリブラーが多く、バスクのFWやDFは肉弾戦に強い。半面、地域主義の強さはスペイン代表への関心の薄さも招いていた。「ティキタカ」の愛称で親しまれる華麗なパスサッカーの誕生は、多様な価値観を持つスペインの人々を一つにしたという点でも意義があった。 2008、12年の欧州選手権連覇と10年ワールドカップ(W杯)初優勝を遂げた後も、スペインでは優れた技術と戦術眼を持つ選手が続々と台頭。豊富な人材の源泉は、世界屈指の指導レベルと育成環境にある。 G大阪などで活躍し、現在はスペイン4部のクラブに所属する元日本代表DF丹羽大輝(36)は「日本で言ったらJFLのカテゴリーだが、クオリティーの高い監督が多い」と語る。丹羽がプレーするバスク自治州は、かつてロングボールを競り合うフィジカル重視のサッカーが常だった。指導者のレベルが底上げされた近年は丁寧にパスをつなぐチームが急増している。 08年からアンダルシア州の町クラブで育成年代を指導し、現在は強豪セビリアで分析担当を務める若林大智さん(39)は「指導者も選手も、結果を出せば上にいけるし、その逆もある。競争を勝ち上がってくれば、必然的にいい土台ができる」と育成環境を説明する。 「カンテラ」と呼ばれる育成組織でメッシやイニエスタを養成し、久保建英も在籍したバルセロナや、その宿敵レアル・マドリードを頂点に、スペインには6、7歳の頃から毎週末のリーグ戦で実戦経験を重ね、成長できる環境がある。さらに指導者の質が高まり、より多くの地域やクラブから優れた選手が育つようになってきた。 (バルセロナ時事) 【時事通信社】 〔写真説明〕セビリアが欧州リーグを制し、優勝トロフィーを手にする分析担当の若林大智さん(本人提供)