スピードスケート女子団体追い抜きの決勝直後。凍り付いた表情でうなだれる高木菜那選手(29)=日本電産サンキョー=。妹の高木美帆選手(27)=日体大職=に抱き寄せられると、みるみる涙が込み上げた。最後のカーブで自らの転倒が響き、連覇をつかめなかった。 腰を下ろしても、さめざめと泣く姉に、妹が静かに近づく。「掛ける言葉が見つからなくて…そばに行くことしかできなかった」。心を通わせるようにそっと隣に腰掛けた。 4年前の高木菜選手はマススタートと合わせ2冠に輝いた。しばらく達成感に浸っていた自分を、奮い立たせるきっかけとなったのが2019年3月10日。妹が女子1500メートルの世界記録保持者になった日だ。 「何で私ってこんなに遅いんだろう」。その後に頭をよぎった。「自分が思っているより、たぶんできていないな」。15歳で五輪デビューを果たした妹を追い掛け、金メダルの数で勝る立場になってもなお、力で及ばない自分が許せなかった。 そこで頼ったのが陸上男子ハンマー投げ五輪金メダリストの室伏広治さん。「まだ進化したい」。滑走中の姿勢や足首の柔軟性、カーブで重心が浮いてしまうこと。気になる改善点を紙に記し、トレーニングの指導を仰いだ。そこまでして己を変えようと努めた。 「私の中ではマススタートは個人種目での金に入らない」という思いもある中、今大会は1500メートルで8位。バックストレートで自身に優先権があった交差ポイントで同走選手が進路を譲ってくれなかった不運があっても、この種目で初めて入賞した。団体追い抜きでは12日の1回戦で成長の跡。自らもメンバーだった平昌で出した当時の五輪記録を塗り替えた。 セカンドキャリアも考え、高木菜選手は「北京は自分の集大成」と捉えていた。妹への対抗心を原動力に紡いできた姉妹のスケート物語。連覇を目指した団体追い抜きの4年間は、思いがけない形で幕を閉じた。(時事) 【時事通信社】 〔写真説明〕スピードスケート女子団体追い抜き決勝を終え、高木菜(右)を抱きしめる高木美=15日、北京 〔写真説明〕スピードスケート女子団体追い抜き決勝で転倒する高木菜(左)=15日、北京