女子500メートルのスタートライン。己を信じて連覇に挑んだ小平は、1歩目でつまずき、38秒09。「足を取られた瞬間、頭が真っ白になってしまった。何もできなかった」。ただ、嘆いた。 15年以上の付き合いになる結城匡啓コーチが異変に気付いたのは、4年前の平昌五輪。本番前の記録会で37秒05という好記録を出しているのに「左の股関節の動きが悪いな」。 五輪金メダリストになった1年後、自覚症状が表れた。ドイツで行われた世界距離別選手権の前に「片脚でしゃがめない」と打ち明ける。国内外の連勝も37で止まった。 リンクは常に左回り。3歳でスケートを始め、小学生から本格的に技術を磨いてきたからこその長年の疲労と言えるかもしれない。我慢できず「先生、やっぱりちょっと気になります」と申し出たのは北京五輪プレシーズン。1カ月ほど氷上から離れる異例の事態になった。 体づくりから見直す日々。「究極の滑りを目指すと言っておきながら、自分の体も使いこなせない」。理想と現実の隔たりに心が揺れ、涙を流すこともあった。 4年前の小平のライバルで、金メダルを争った韓国代表の李相花はテレビ解説者となり、この日のレースの結末を見届け、涙を流した。17位に終わった前回女王は声を震わせ、「自分自身に、こんなにがっかりした500メートルはない」。一つの時代が区切りを迎えた。(時事) 【時事通信社】 〔写真説明〕スピードスケート女子500メートルで滑走を終えた小平奈緒=13日、北京 〔写真説明〕スピードスケート女子500メートルで滑走する小平奈緒=13日、北京 〔写真説明〕スピードスケート女子500メートルで滑走する小平奈緒=13日、北京 〔写真説明〕スピードスケート女子500メートルで滑走を終えたジャクソン(左)と小平奈緒=13日、北京