今季から新リーグ「Bプレミア」が開幕したBリーグ。前身の最終シーズンとなった2025-26シーズンは、B1~B3とリーグを合わせた事業規模が1013億円に達し、初めて1000億円を突破した。2016年のリーグ創設初年度から10シーズンで5倍に膨らんだ計算になる。この急拡大を支えてきたのが、各クラブの奮闘だ。どのように戦略を立て、売り上げを伸ばし、Bリーグの成長を後押ししてきたのか。新連載「社長に聞く」では、Bリーグ各クラブの社長インタビューを通じて、成長の軌跡をひも解く。



第1回に登場するのは、島根スサノオマジック(株式会社バンダイナムコ島根スサノオマジック)の榎本幸司社長だ。2019年にバンダイナムコエンターテインメント(BNE)の傘下に入り、売り上げを4億円台から20億円規模へと伸ばしてきた島根。最前線で手腕を振るう榎本氏に、島根の経営に参画することになった経緯や足元の経営戦略、今後の展望などについて聞いた。



「筋書きのないドラマ」に見た、新規事業の可能性



 2010年、プロスポーツ不毛の地だった島根に誕生した島根スサノオマジック。2010-11シーズンにbjリーグへ参入し、2016年のBリーグ創設時はB2からのスタート。初年度にB2優勝を飾り、B1へと駆け上がったものの、苦しい経営状況が続いた。売上高は2015-16シーズンの2億4388万円から2017-18シーズンには4億1255万円まで伸びた一方、赤字額も4601万円から1億1071万円へと膨らみ、2018年4月にはクラブライセンスの交付をめぐって状況説明の記者会見を開くほどだった。



 そんなクラブに、手を挙げたのがBNEだった。2019年8月、運営会社の株式56.5%を取得し、島根を子会社化。そのきっかけをつくったのが、榎本氏だ。



 当時、同社の経営企画部でゼネラルマネジャーを務め、中期経営計画の策定や新規事業の開拓に従事していた榎本氏。すでに多くのヒットコンテンツを持つ大企業で、新たな可能性として目を向けたのが、デジタルではなくリアルな体験を届ける「プロスポーツ事業」だった。



「われわれバンダイナムコエンターテインメントが提供しているゲームは、筋書きがしっかりあって、シナリオも自分たちで考えて作る。一方でリアルには、正直筋書きなんて何もない。『筋書きのないドラマ』が本当に起きてしまう。40分間必死に戦っているのに1点差や同点で終わるなんて、(ゲームの)シナリオを書く時には書かない。それなのに、残り1秒で逆転して勝つ、あるいは負ける。喜怒哀楽を本当に生み出して、人の心を動かす。これはプロスポーツならでは、Bリーグならではなのではないかなと思います」



 ただ、初めからバスケットボールに狙いを定めていたわけではない。さまざまなスポーツを調査する中で、タイミングよく「島根スサノオマジックと巡り合った」という。



「ちょうど島根が東京に試合に来ていたんです。『早速見に行こう』と、大田区にアースフレンズ東京Z戦を見に行きました。Bリーグの試合を見たのはその時が初めてでしたが、めちゃめちゃ面白かったですね。それで『本拠地も見に行こう』と松江へ。当時の松江市総合体育館は、観客数は今ほどではなかったのですが、すごい熱量でした。人数は少なくても、これは地域に愛されているスポーツチームだと思いました」



「筋書きのないドラマ」に引かれたという榎本氏©Basketball News 2for1


「なんで島根なんだ」を乗り越えた、挑戦を許す文化



 島根とプロバスケットボール業界に可能性を感じた榎本氏は、本格的に経営権の獲得へと動き出す。



「経営陣を説得する材料を集めて、いろいろと調べ、提案をさせていただきました。当時の宮河社長(BNE前代表取締役社長・宮河恭夫氏)に、恐る恐る『プロスポーツ事業に』という話をさせていただいたのですが、『本気でやれ』と一発でOKをいただいて、正式にプロジェクトとして経営参画するための準備を進めていくことになりました」



 とはいえ、当時(2018-19シーズン)の島根の事業規模は売上高4億5600万円だ。Bリーグ全体で見てもB1・B2クラブの営業収入合計は221億円程度で、1兆円規模のエンターテインメント企業であるBNEにとっては小規模な事業であることも否めない。



「(島根の経営は)事業規模で言えば(大きくない)。ただ、『バンダイナムコ』という名前を、『島根スサノオマジック』を通じて広めていく。島根スサノオマジックが活躍して、知名度を上げ、『バンダイナムコグループが持っているプロスポーツチームなんだ』となる。プロモーションを期待されているところはあると思います」



 さらに大企業を親会社に持つ他のクラブの多くが都市部を拠点とする中で、島根県は人口減少が進む。環境面は懸念材料にもなりかねなかった。それでも島根スサノオマジックへの経営参画が決まったのは、BNEに「挑戦する風土」が根付いていたからだと榎本氏は話す。



「最初は正直、『なんで島根なんだ』と結構言われました。そこの説得はなかなか大変でしたね。でも最後は『やっぱりそれがご縁だよね』と(認めていただいた)。挑戦を許容していただく文化があるからこそ、島根スサノオマジックというチームへの参入もご承認いただいたのではないかなと。やはりバンダイナムコグループだったからこそ(島根を選んだ)、というのは大きいのではないかなと思います」



2023年、満員の島根ブースターで青く染まる松江市総合体育館©Basketball News 2for1



「島根スサノオマジックをIPに」 エンタメ企業ならではの挑戦



 2019年9月に非常勤の取締役としてクラブに加わった榎本氏は、2022年4月に常勤の取締役として松江へ移り住み、2025年4月に社長へ就任した。



「経営権獲得後は、バンダイナムコエンターテインメントにいながら、経営企画として島根スサノオマジックの仕事にも携わっていました。ただ、いつか自分で島根に来て、直接チームに携わりたいと思っていたんです。ですから、経営企画での役割が一段落ついた時に、『行きたいです』と宮河社長にお話しさせていただいて、OKをいただきました」



 榎本氏が現地に腰を据えた頃から、島根は着実に力をつけていく。2021-22シーズンにはクラブ史上初のチャンピオンシップ(CS)に進出し、以降はCS常連チームに成長。売上規模も、BNE参画前の4億円台から20億円規模へと拡大した。



 エンターテインメント企業であるBNEの強みが、そのまま経営に生かされているのもユニークだ。



「目に見える部分で言えば、やはりIP(知的財産)。ユニフォームには『パックマン』が入っていて、これは絶対にわれわれでなければできません。『ガンダム』や『たまごっち』、もちろんパックマンも含めて、いろいろなIPとコラボできるのはわれわれの強みです」



 2024年1月には、BNEの本社がある東京で島根の「ホームゲーム」を2日間開催。人気IP「アイドルマスター」とコラボし、ハーフタイムショーには作品の声優陣が登場した。チームのチアパフォーマンスグループ「AQUA MIRA」も歌唱曲をリリースし、2030年の「島根かみあり国スポ・全スポ」では大会イメージソングを歌う。他のクラブでは見られない、BNEならではの仕掛けが興行にも落とし込まれている。



「Bリーグのクラブではなかなかやらないようなことを、どんどんやっていきたい。私自身、島根スサノオマジックもBNEのIPの一つだと思っているんです。パックマンやガンダムが大きすぎてまだ並べることはできませんが、松江の中ではわれわれがIPになり得るのではないか。グループの重要なIPになるんだ、という思いでやっていきたいですね」



「島根スサノオマジックもIPに」と力を込める©Basketball News 2for1


「スサマジ経済圏」構築で日本一、そして世界へ



 ここ数年で成績・売り上げともに成長を続けてきた島根。今季からはトップリーグである「Bプレミア」に戦いの舞台を移し、「バンダイナムコ=島根」という認知も広がってきているものの、まだまだ目指す姿からは遠いと榎本氏は話す。



「バンダイナムコグループはワールドワイドで事業をしていますし、われわれもその一員ですから、島根県を盛り上げていくことは当然重視しつつ、やはり優勝したい。優勝すればアジアにも行けます。日本一、そしてアジアへ、ということをクラブの究極の目標として掲げていますので、まずはチームを強くして、Bプレミア制覇ができればと思っています」



 さらに事業規模を拡大していくための施策として、榎本氏は「スサマジ経済圏」の構築を掲げる。



「今メインでやっているのはバスケの興行ですが、プロスポーツであるからこその付随領域がある。例えば、トレーナー陣がいるからこそできる、体のケアのような事業。あとはスポーツジムなど。それからライセンス事業もあります。そういった領域で売上を増やしていきたいと思っています」



 特に注力していくのが、ライセンス事業だ。



「ライセンス事業、商品・MD(マーチャンダイジング)事業は、第三の柱にしたいと思っています。今シーズン、グッズやライセンスを展開しやすいようにプライマリーロゴを変更しました。われわれの野望としては、Bリーグで一番売れるグッズを作りたい。



松江市で、普段からわれわれのキャップを被っていただいている、トレーナーを着ていただいている。会場だけではなく、普段の生活が全部スサノオマジックにつながるような空間。それが経済圏になればいいなと思っています」



 今シーズンからは松江市とネーミングライツパートナー契約を結び、改修を終えたホームアリーナの愛称が「バンダイナムコアリーナ松江」となった。BNEと地域とのつながりは、さらに強固なものになっている。だからこそ、結果で示す必要があると榎本氏は力を込める。



「グループとしては『早く優勝しろよ』と(笑)。まずはそこですね。プロスポーツですから、強くなって皆さんに喜んでもらう。それはやはり勝つことだと思いますので。



 島根という、どちらかというと日本の中では目立たないところに、なぜかバンダイナムコが来て、地域と一緒に日本一のチームをつくり上げる。バンダイナムコと地域が一つになって日本一になる。これはエンターテインメントの物語じゃないかと思いますし、実際に本当に応援していただいています。



 バンダイナムコが入ったことによって島根スサノオマジックがより地域に愛され、強くなる。それが地域貢献であり、バンダイナムコが入った意味になるのではないか。皆様にもそう思っていただけると思いますので、そこをしっかりとやっていくしかないかなと思います」



「スサマジ経済圏」の構築で、さらなる成長を目指す©Basketball News 2for1


(滝澤俊之)


情報提供元: バスケットボールニュース2for1
記事名:「 「なんで島根なんだ」の声を説得 1兆円規模のエンタメ企業が島根県のプロバスケチームへの参画を決めた理由とは 【連載:社長に聞く 島根スサノオマジック・榎本幸司氏編】 」