NASDAQへ上場するSBCメディカルグループホールディングスが目指す美容医療業界の姿とは
これまでの事業変遷について
冨田:美容医療業界は過去10年でかなり変化し、女性だけでなく男性も利用するようになり、カルチャーとして浸透してきています。貴社は、業界トップシェアを持つ湘南美容外科をはじめとしたメインブランドを展開していますが、他の企業との違いは何でしょうか?
SBCメディカルグループホールディングス代表取締役・相川氏(以下、社名・氏名略):
総合的な美容メニューを擁していることです。我々は2000年に美容外科業界に参入しました。 当時は成長期で、”三方良し”という医療のあるべき姿を目指してその好況に乗って参入しました。三方良しとは、①医療従事者、②経営、③実際にサービスを受ける方々、すべてが「良し」という考え方です。それによって最終的にお客様のクオリティオブライフの向上に貢献することを目指します。美容医療分野において多岐にわたるバリューチェーンをカバーしているSBCグループは究極の“三方良し”を実現することができると考えております。
そして、業界が成熟期を迎える中、韓国やアメリカの美容先進国の流れを見て、我々は外科よりも皮膚科などの継続的な治療がメインになる流れを予測しました。そこで、湘南美容外科クリニックから湘南美容クリニックに名称を変更し、皮膚科などの他分野にも力を入れるようになりました。
結果的に、安心と安全を基軸に成長してきた当グループのお客様からは、外科治療以外のサービスも継続的に求められることが多く、当グループは安定した収益が見込めます。外科の利用は1回で終わることが多く、利益率は高いですが、手術が終わるとお客様は満足し、複数回の施術を受けることは少ない傾向があります。また外科の手術は世間一般的な休みの時期である、年末や春休み、夏休み、ゴールデンウィークがピークです。その他の期間は外科が伸びないため、皮膚科などの他分野が収益を安定させる役割を果たしております。
冨田:なるほど、皮膚科のような他分野と外科を組み合わせることで、安定した収益と利益率の高さを両立させるビジネスモデルを構築しているわけですね。今後の展望についてどのようにお考えですか?
相川:今後は、現在の業態で出せるだけの店舗を出しながら、一般皮膚科と美容皮膚科というジャンルを作っていくことで、さらなる伸びが見込めると考えています。現在、国内には1万5千人の皮膚科医がいますが、まだまだ伸びる余地があると思います。
また、お客様へ美容以外のサービスを提供する保険診療についても当グループは推進しております。日本の医療費は年間46兆円(令和4年度)で、そのうちシェアの10%を取れば4.6兆円になります。現在、民間の最大手である徳洲会グループでも、4000億円程度の規模なので、まだまだ日本の一般医療分野も成長の余地があると言えます。 まずは、保険診療の分野において、国内で10%のシェアを獲得することが、我々の最初の目標です。
加えて、現在、内科や整形外科、眼科、不妊治療などのクリニックを多角的に展開し、後継者問題を抱える病院へ事業承継の支援も行っています。コロナが終わり補助金制度も終了したため、再び経営難に陥った売り物件が多く出ています。 星野リゾートが買収を駆使して事業拡大したように、保険診療の病院を買収/承継し、当グループの強みである自由診療を加えて再生させ、全国に展開していくのが、我々のビジョンです。
冨田:コロナ前後でどのような変化がありましたか?
相川:コロナ前は病院が売りに出ていましたが、補助金制度が出てからは状況が変わりました。今は、その返済が始まる時期が近づいており、これからが勝負です。現在円安なので、ドルで資金調達し、国内の良い拠点病院やクリニックグループに投資し、再建していくことで成長が期待できると思います。
冨田:自由診療と保険診療を融合させることは難しいと思われますが、それが実現できているからこそ、再生の成功確率が高いと言えますね。
相川:そうですね。我々は純粋に保険診療だけではなく、整形外科で子どもの身長を伸ばす治療や関節炎の再生医療、眼科での眼内レンズやレーシック、ICL、体外受精など、自由診療を保険診療と組み合わせて展開しています。これが我々の特徴であり強みといえます。
今後の海外展開について
冨田:今後の海外戦略はどのように展開していく予定ですか?
相川:海外戦略は、アジア市場とアメリカ市場の事業展開・拡大を考えています。 1つ目のアジア市場ですが、人口の増え方を見ると、アジアでナンバーワンになることができれば、世界でナンバーワンになれると考えており、インドネシア、インド、中国、カンボジア、ベトナムなどが対象地域に当たります。整形領域は韓国がメインですが、不妊治療や健康診断などの領域では日本のメディカルブランドがかなり有利に働くと思っています。
2つ目のアメリカ市場ですが、人種の問題や独立志向が強いことから、外科医が独立するという文化があるので、グループ展開という形は簡単にはいかないとは思います。一方で、我々と同じようにシステムを活用して、組織・グループを拡大しているクリニックもあります。そういったところに関して株交換や買収を実施することで、グループとして一緒にやっていくことはできるのかなと。
アメリカの医療発展(薬や技術面)はかなり進んでおりますので、最先端技術やシステムを、日本をはじめとしたアジアに持ってくることができれば、更にグループ拡大にもつながると考えています。
追加で、医療制度の部分がもう一つの重要なテーマになってくると思います。 具体的に言うと、アメリカの医療制度は日本のような国営の保険制度ではなく、人によって保険を選ぶ仕組みであり、民営となっております。それゆえに、低所得の方々が適切な医療を受けることができていないことが問題として上げられます。 先ほどご説明をさせていただいたクリニック再生の仕組みとアメリカでのグループ拡大を連動させていきながら、低額で保険制度に加入・一定の金額で医療を受診することができる仕組みを全米で実現すれば、今保険に入れていない方々も、ちゃんとした医療が受けられるようになり、素晴らしいイノベーションが起こせると考えております。
上場の背景
冨田:今回、NASDAQに上場しようと考えた背景は何ですか?
相川:資金調達の選択肢を増やすためです。日本だと医療機関は上場できないため、資金を調達する場合は、銀行から借りるしかありません。資金調達の選択肢が少なく、運営していくことの難しさを感じていた際に、日本の企業がNASDAQに上場するという方法を知りました。
病院は土地建物付きが多いので、BSが重たいです。大きめの病院だと100億、200億ほどです。これを自己資金でM&Aを実施していくのは難しいです。ですので、星野リゾートのようにREIT(リート)などを用いてアセットスワップのようなオフバランス化をして、自分たちは運営に特化していこうと考えています。
冨田:メディカルリートができると、貴社の案件がどんどん広がっていくわけですね。相川氏は資産運用にも長けていると思われますが、投資についてどのようにお考えですか?
相川:長期的な視点で投資を考えています。短期的な株のやり取りは得意ではありませんが、上場会社になることで、株主として長期的な視点で関わることができます。これまでの23年間、増収増益を続けてきた実績がありますし、無借金で運営してきました。
ただ、医療業界であるため、短期的な収益を追求することは難しいです。長期的にお客様や社会にとって良い方法を考えることが大切だと思っています。三方良しを実現することで医療は永続的な価値を持つことになりますから、短期的に投資してすぐに利益を上げたいという方には、合わないかもしれません。しかし、長期的な視点で投資していただける方には、魅力的な企業だと思います。
今後のエクイティストーリー
冨田:今後のエクイティストーリーについて、どのような展開を考えていますか?
相川:美容医療においては、高額な治療から低額な治療まで、様々なブランドを持ちたいと考えています。LVMHグループのように、様々なブランドを持ち、新しい文化を形成していく中で、お客様には見えない形で提供するのが良いと思っています。美容だけでなく、国内外の医療グループにも展開して、様々なブランドを持っていく中で、実は弊社が中心になっているという状況が理想です。
冨田:これまで貴社はM&Aを繰り返して大きく成長してきたと考えております。資金力が非常に大きくなっているということですが、今後どのような規模になると予想されますか?
相川:今年も合計で約100億円規模のM&Aを行いましたが、今後はさらに大きな規模のM&Aが行われると思います。M&A戦略が非連続成長のメインであり、その骨格となっています。既存事業を増やしつつ、M&Aを活用して毎年2割ずつ成長するのが一番良いと考えています。この規模で2桁20%以上の増収増益を達成することは非常に難しいですが、尽力していきます。
冨田:本日は、貴重なお話しをお聞かせいただきありがとうございました。今回IPO時の流動性を作るために、SPACの交換側のPono Capital Twoのファイナンスも我々で動いていることもあり、一緒に成功させたいと思っています。
相川:IPOの鍵を握っている部分なので、ぜひよろしくお願いします。