政府からの「リスキリング支援1兆円投資」や「人的資本開示の義務化」の発表があり、企業というものの“人財”や“社員”への向き合い方が問われている。そんな中、“働くもの”に愛され、社員の力で成長し続ける企業に、その取り組みや今後の展望を伺った。

(画像=ライト工業株式会社)
西 誠(にし まこと)――専務取締役経営企画本部長
1960年生まれ。宮崎県出身。1987年ライト工業株式会社へ入社。2008年営業本部副本部長。2011年執行役員経営企画本部長。2021年より専務取締役。経営企画における幅広い知識と実務経験を基に、経営計画の策定やIR活動の充実に尽力している。人事面では働き方改革の実現と人的資本経営を推進し、有為な人材の確保と定着に努め企業価値向上に寄与している。経営の重要事項の決定及び業務執行に対する監督などの役割を果たす。
1943年秋田県花輪町(現在の鹿角市)で創業以来、特殊技術の開発や導入を積極的に進め、専門土木分野において、国土の防災やインフラ整備を通じて社会に貢献してきました。長年蓄積した豊富な経験と確かな技術で社会に貢献することを当社の使命として、将来価値は常に新たな挑戦の中からしか生まれないとの考えに基づき、いつの時代も「新たな価値に挑戦し、創造し続ける」の理念を実践していきます。

建築業界の持続可能性を守るための人的資本経営

ーー人的資本経営における取り組みを教えてください。

ライト工業株式会社株式会社 専務取締役・西 誠氏(以下、社名・氏名略):創業以来80年それぞれの時代の中で、そこに生きた人々が時代と向き合いながら次の時代の礎を形作ってきた。企業を成長させるのは人である。これからも人は財であるという共通認識をもって、人的資本経営を推進していく考えです。

建設業界では2024問題への対応が喫緊の課題であり、売上や利益を維持成長させるために、また、社員の健康を守るための働き方を合わせて進めることを目的に、技術部門・管理部門とも効率化をすすめる取り組みを5年前から実施しています。取組の一部として業務のアウトソーシングやDXを推進することで業務の効率化を進めるとともに、時間外労働が多い現場には人を投入する、社員間の対話を進め、必要に応じてヒアリングや指導の役割を担う新しい部署を新設するなど組織体制の整備を進めています。

一例ですが、業務効率化においては、下請け企業の勤務状況や、納品や搬出スケジュールのシステムを構築することで、簡易に汎用的な資料を作成する。その資料を他の資料にも転換していくことで、無駄な時間を省くという仕組みを構築しています。

今後、建設業界の労働人口が減少していくことは容易に想定できます。省人化技術が進展していくことで、当社の職員だけでなくパートナー企業においても労働生産性を高め、労働時間を抑えながらも、しっかりと社会の責任を全うしていきます。

また、教育の推進においては体系化されているものの、まだまだ多くの課題を抱えています。例えば、個々人に合わせた自己啓発の支援においては、制度を整えている途中です。本人が望む教育と会社が求める教育を融合させるためにパルスサーベイなどを活用しながら、社員との対話を増やし、教育体制を見直しています。

一方で、キャリアを作るための評価制度の再構築を実施いたしました。社員が高い目線をもって成長することで、真っ当な評価を得られるように、当社における標準的なロールモデルを作り上げたうえで、誰が評価しても同じ評価になるような教育を実施しました。

80年の伝統を変える、女性が働きやすい環境作り

ーー人的資本経営において苦労した点と乗り越えるための施策を教えてください。

西ダイバーシティの推進においては特に苦労しました。

当社は80年という長い歴史を持つ会社であり、良くも悪くも企業文化が出来上がっており、急激な多様化に対しての耐性がないのです。また、当社だけに限らず、業界全体においても古くからの慣習がありますので、女性が働きにくい環境を見直し、働く人や社会の意識を根本的に変える必要があり、意識改革の必要性と難しさを感じています。

まずは、社内においては、広く対話の機会を増やしたり、対外的にも統合報告書を発表したりすることで、意識改革をおこなってきました。また、建設業界全体における女性の働き方を変えるために、5年ほど前から様々な大学を訪問して、女性をターゲットにして、建設業や施工管理の魅力を地道に伝えています。その甲斐もあり、ここ数年間は毎年3名ほどの施工管理に従事する女性社員が当社に入社していただけるようになってきました。しかし、まだまだ少ないのは事実ですので、今後も継続的に活動を続けていく必要性を感じています。

社員の声を聞くための「自己申告書」

ーー取り組みに対して社員からどのような反響があったのでしょうか。

西:社員の声を聞くための会社独自の制度として自己申告書制度があり、どんな教育を受けたいかや、今の労働環境に対する意見や、今後のキャリアの希望など、社員の生の声を年に一回提出してもらっています。その内容を人事や経営陣が見たうえで、今後導入するパルスサーベイをもってさらに充実させ、社員と直接対話する機会を作っているところです。

ただ、現状はいただいた要望が実現できないことが多くあり、社員と人事や経営陣との認識に違いがあるように感じています。そこで、これまでは1年に1回行っていたものを四半期に1回にするなど、期間を短くしながら、対話を通じたコミュニケーションの機会を増やし企業と社員の相互理解を促進していきたいと考えています。

社員の満足度を高めるための対話の力とは

ーー今後の展望と従業員に対して期待することを教えてください。

西:当社が築き上げてきた企業文化を守りながらも、新しい働き方や働きがいを見つけていくために、社員と同じ方向を向いて進んでいきたいです。簡単に言うと「さー行くぞ!」「おー!」という企業文化を継承し充実させることが出来ると良いと思っています。

そのために、たくさん対話をしたいと考えています。一つの声から様々なことが始まり、思いもしなかったことに挑戦する機会や個の成長につながります。社員一人一人の満足度や働きがいもついてくると考えています。まだまだ道半ばではありますが、取り上げるべき声はしっかりと汲み上げていくことで、個人が成長し、その結果として組織や会社の成長につなげることを目指しています。

ライト工業からステークホルダーの皆様へメッセージ

ーーステークホルダーの皆様へのメッセージをお願いします。

西:当社は、これまで積極的なPRを行ってこなかったこともあり、社会からの認知度はそれほど高くありません。ただ、170を超える特許技術を持っていることもあり、当社の技術がないとできない施工が非常に多くあって、社会にとって必要不可欠な会社です。 これからは、当社の魅力をどんどん開示していきたいと考えております。もし興味をお持ちいただける機会があれば、当社のホームページをご覧いただき、厳しいご意見も含めて、率直なご意見をいただけるとありがたいです。

また、取引先の方々においては、現在の関係は健全で良好な関係を築くことができていると考えています。お互いに対等な立場で意見交換するというように、今後も信頼に基づいた対話を通して、互いに成長していきたいと考えていますので、引き続きよろしくお願いいたします。

氏名
西 誠(にし まこと)
社名
ライト工業株式会社
役職
専務取締役経営企画本部長
情報提供元: NET MONEY
記事名:「 80年の伝統を変えるーーライト工業株式会社の人的資本経営