特注金型部品シェア1位を誇るパンチ工業の戦略とは
目次
世界のものづくりを支えるパンチ工業
冨田:まずは御社の事業の変遷やターニングポイントについて教えていただけますか。
パンチ工業株式会社 代表取締役社長・森久保 哲司氏(以下、社名・氏名略):当社は金型部品の製造販売を行っている会社です。1975年に創業し、2025年3月に50周年を迎えます。製造業を通じて世の中を豊かにし、お客様の困りごとを解決していこうという目的で事業を始めました。
最初に手がけたのは、様々な家電製品の中に組み込まれているプリント基板に穴を開ける部品の製造でした。この部品の寿命が短くて困っているというお客様の声が多くあがったことがきっかけです。材料や熱処理の研究を重ね、従来品より価格は上がってしまいましたが、格段に寿命の長い部品を開発することができました。こうしてお客様の期待に応えることができ、評判も良かったことから、事業が拡大していきました。
その後、特に丸形状の部品をどれだけ丸く、そして早く精度良く作るかということを徹底的に極めていきました。その結果、丸形状の金型部品ではダントツでパンチ工業という地位を確立し、業績を伸ばしてきました。
冨田:その後の海外展開についてもお聞かせいただけますか?
森久保:1990年に中国に進出しました。当初は日本への半製品供給のため、中国で生産を行いました。当時の中国は給与もまだ安かったため、単価の安い製品を大量生産することでスタートしました。その後、中国での生産体制が落ち着いた頃に、中国国内での販売も始めました。それがちょうど中国の経済成長のタイミングにマッチし、さらなる飛躍を遂げることができました。
現在は、日本、中国に続いてマレーシアとベトナムにも生産工場を持っており、販売会社としてはインド、シンガポール、ベトナム、インドネシア、アメリカにも展開しています。このように、日本で始めたビジネスモデルをさらに海外に広げていき、世界のものづくりを支えていきたいと考えています。
社員のチャレンジを促すパンチスピリット
冨田:日本や海外の製造業の発展に伴い、会社として様々な意思決定がなされていると思います。そこで、どのような基準や視点を重要視して、社長として、もしくは経営チームとして意思決定されているのでしょうか?
森久保:経営判断する上で気にしているのは、全体感とバランスです。外部環境はダイナミックに変わることがありますが、そのなかでも当社の事業の全体感とバランスを常に俯瞰して見るようにしています。例えば、生産品目のバランスやどこで何を作るかということも気にしています。
また、取り組みを進める上で重要だと思っているのは、人の気持ちと物事を進める順序にも気をつけることです。物事も進め方によって、うまくいきやすくなることもありますし、逆に失敗することもあります。順序が間違っていると、たとえ一つ一つが正しくてもうまくいかないことがあります。人の気持ちに関しては、特に従業員に対して、会社の方向性を伝える方法や順序が大事だと思います。例えば、社内への情報展開に先行して企業ホームページで情報を開示した場合、従業員がそれを見て会社の方向性を知ることになり、自分の会社なのに社外より後から知ったと不満を感じることがあります。そういった順序の違いも大事だと思います。
冨田:御社には企業アイデンティティとして「パンチスピリット」というものがありますが、それにはどのような要素が含まれていますか?
森久保:パンチスピリットには、「チャレンジ」、「創意工夫」、「自由闊達」という3つの言葉があります。当社の歴史は新たな課題にチャレンジしてきたことが特徴であり、今後も外部環境の変化に対応しながら、スピード感を持って取り組みを進めていきたいと考えています。そのためには、「創意工夫」と「自由闊達」な環境づくりが必要で、従業員が自由に意見を言えるような社内の雰囲気を作ることが私の役目だと考えています。
冨田:意思決定の柱として人の気持ちや物事の順序など社内においての部分が重要視されているという印象を受けました。
森久保:そうですね。当社の事業は主にカタログ品と特注品に分かれており、特注品は受託加工に近い形です。お客様から図面をいただいて、その図面をどのように忠実に再現するかというところが重要のため、対応力が非常に大事だと考えています。そのため、社内の技術力や品質面での安定性が重要であり、意思決定においても内側の体制部分を大切にしていきたいと考えています。
現場から経営の舵を取るまで
冨田:ご自身のどのような経験が積み重ねられて、現在のポジションに至ったのでしょうか。
森久保:私の中では、現場での経験が一番大きいと思っています。当社に入社したのは2003年で、当初は岩手県の宮古工場に配属されました。そこで、加工の技術を一から教わり、最初は測定器の使い方や加工機の動かし方を学んだのですが、すぐに実際の製品を作ることになり、緊張しました。お客様に納品する製品を作るという責任を感じながら、現場で実際にものを作ってきた経験が、私のルーツとして大きいと思っています。
その後は、製造や営業、管理など様々な部門を約3年ごとに回り、幅広い仕事を経験できました。例えば、2011年には新しく兵庫県に工場を作るプロジェクトに携わり、工場の立ち上げ経験もあります。また、海外事業についても、中国赴任や東南アジアの統括経験を通して、日本にとどまらず多様な社会を見ることができた経験は糧になり、当社を経営していくうえでの視野が広がりました。これらの経験が、仕事への姿勢や取り組み方に大きく影響していると感じています。
FA分野で労働人口の減少に対応
冨田:これからの企業の成長や世の中の変化を考えた時、どのようなテーマに関連していくとお考えですか。
森久保:FA(ファクトリーオートメーション)にさらに注力していきたいと考えています。改めて私たちの強みは、カタログ品と特注品の両方に対応できることです。特に、特注品に関しては、精度良く再現できる技術が当社の源泉だと考えています。そのため今後は、金型部品以外にも力を入れていきたいと思っています。そのうえで、労働人口の減少が進む中では、自動化や省力化が重要になってくるため、私たちがFAの分野に本格的に参入していくことで、労働人口の減少に対応し、より良い世の中に貢献したいです。FA事業を強化するために、2022年10月に北海道の株式会社ASCe(アスク)をグループ会社に迎え入れました。ASCeは、生産ラインの自動化装置の設計や開発、製造、組み立て、販売を行っている会社です。ASCeと協力して、FA分野をさらに強化していきたいと考えています。
また、労働人口の減少が進み、今後工場を持たないお客様が増えることを見越して、どんなお客様にも当社の技術を提供できるように、金型部品以外の精密機械加工部品の製造もどんどん手掛けていきたいと思っています。
「パンチ工業がないと困る」というお客様の声を増やす
冨田:今回のインタビューでは自動化や省人化といったテーマが非常に大きな関心事でした。御社は変化し続ける世の中に順応していらっしゃいますが、5年後、10年後、あるいは30年後など、未来に向けてどのような構想を描いていますか?
森久保:直近では自動化や省力化、そして精密部品の生産といったことが大きなテーマです。しかし、それだけではなく、海外市場のさらなる拡大も重要な目標です。
これまでは日本や中国での存在感を高めてきましたが、今後はインドや東南アジア、欧米などにもさらに進出していきたいと考えています。ただ、グローバル企業との取引が増える中、お客様の要求も厳しくなってきています。このような状況に対応するため、当社の技術力をさらに向上させていきたいと思っています。現状ではすぐに対応できない部分もあるかもしれませんが、お客様の要望をしっかり理解し、対応できるように生産体制を整えていきたいと考えています。そして、「パンチ工業がないと困る」というお客様の声を増やしていけるよう、準備を進めています。
パンチ工業からZUU onlineユーザーへ一言
冨田:最後に読者の方々に一言いただけますか?
森久保:私たちは、主に金型部品の製造企業でしたが今後はFAと精密加工部品などにもさらに手を広げる方針です。私たちが目指すものは、世界のものづくりを支える企業です。
直近ではコロナが影響し、昨年は日本国内で希望退職者募集を実行するなど、非常に厳しい決断もしました。しかし、特注金型部品シェア1位を誇る当社の技術やパンチスピリットを活かし、FA特注品や新しい分野を展開していくことで、企業としての成長を進めていきたいと考えています。皆様の応援をいただけると幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。
冨田:ありがとうございます。今日のお話から、日本の製造業や世界中の製造業を支える御社の未来の姿がイメージできました。
- 氏名
- 森久保哲司(もりくぼ てつじ)
- 社名
- パンチ工業株式会社
- 役職
- 代表取締役