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マクセルは、1961年創業の電機メーカーです。国内初でアルカリ乾電池を生産したり、国内初のカセットテープを商品化した会社で、現在は、産業用電池をはじめ機能性部材料、光学部品などの産業用部品などを扱っています。60年以上の歴史がある会社ですが、ダイバーシティ活動への取り組みは時期ごとに変化してきました。
2013年から「M-Wing」というプロジェクトを立ち上げ、当初は、女性メンバーを中心に活動し、女性が具体的に活躍できるような経営の制度を中心に取り組みが始まりました。現在は、「社内風土や意識の醸成」を中心としたボトムアップでの取り組みを行うプロジェクトとして活動しています。徐々に制度が構築されましたが、制度があっても対象者がそれを理解していなかったり、職場の雰囲気が活用を妨げたりしていることがわかりました。そこで、制度が活用されるように啓発活動を強化するようにしました。
現在もこの「M-Wing」は、志の高いメンバーが経営に対する提案や具体的な施策を練り、経営陣に提案する活動を行っています。
現在、私たちは時代ごとに変化する取り組みを通じて、「誰もが活躍できる会社」を目標に施策を継続して実施し、より良い経営を実現していくことを目指しています。
私たちは、2013年以降、試行錯誤しながらダイバーシティ施策に取り組んできました。2020年にマクセルグループ全体でミッションやビジョンを再定義しているのですが、MVVSSのVisionは「独自のアナログコア技術で、社員・顧客・社会にとってのMaximum Excellenceを創造する」です。社員を最初に記載し、“人”と“技術”を大切にする姿勢を明確に打ち出しました。また2022年に定めたマテリアリティのKPIのなかに「人を活かすマネジメントの強化」も盛り込まれています。
経営者として「企業価値を高めること」を達成するために、自社の持つ「価値」にこだわる方針を掲げました。金額的な企業価値はもちろんですが、技術的価値や人財という価値など、様々な価値を追求しました。人財も価値を生み出せるように育てることが重要だと考えています。そのためには個人の努力や自己研鑽はもちろん、会社としての制度や仕組みも必要です。
このような観点から、価値を生み出す人財を育成することが、現在の人財育成の基本方針となっています。
マクセルは2017年頃からM&Aにより多様な企業グループになりました。しかし、元々のマクセルは古典的で、昔ながらの考え方が根強く、女性の活躍を会社としてうまく引き出せていなかった面がありました。
残念ながら現在も上位管理職や役員クラスには女性がほとんどいません。制度や仕組みは整ってきていますが、女性が周囲の人の中にロールモデルを持って共通の理解を築くことができていないのです。
今後は、制度や仕組みを活かしながら、女性やマイノリティを含む「誰もが活躍できる会社」にしていくことを目指しています。まだ試行錯誤の段階ではありますが、評価制度などを始め、着実に進めていくつもりです。
評価制度においては、数字で見える部分と見えにくい部分があり、これが苦戦を強いられるポイントです。人が集まる場所では、このような課題はつきないですが、私たちは様々な仕掛けを試みながら努力しています。
特に2020年は続いてきたM&Aなどの会社環境の変化により、評価制度自体を応急処置的に変化させました。その結果、一部では評価制度が運用されない状況が生じ、反省を余儀なくされました。
そこで、2021年から2023年度の中期経営計画において、人財強化や組織力向上を目指して、まずは管理職である課長や部長などの各役職における役割を再定義することから始めました。その結果役職が上がるごとに、それぞれの役割と果たすべき行動を明確にし、行動定義として整理することで、適切な評価が行えるようになってきました。
これにより、過去の課題を克服しつつ、今後の組織力向上に向けて歩みを進めていくことができていますが、会社規模や組織構成の変化によって、同じ役職でも期待されることが異なることもありますし、部門によって違いが出ることもありますので、常に改善し続けていく姿勢が必要だと考えています。
従業員満足度調査を、毎年定期的に行っており、質問事項も基本的に変えず、定点観測を続けています。現在の目標は、この調査において、従業員の総合満足度を90%以上にすることです。
そのために、会社の仕事を通じて、従業員が一定の成長を実感できるような育成型の経営スタイルを目指していくことを考えました。もちろん経営者である私自身も、社長職を務めながら成長していかなければなりませんので、まずは企業のトップとして率先して、難しい挑戦を促すことを経営の柱の一つに定め、朝礼やイベントなど様々な場でメッセージを発信しています。
育成型の経営は、近年、人的資本という言葉と共に広まってきました。最終的には人が重要であり、人を大事にするために、その人の個性を見出し、適切な環境づくりや人的配置を行うことが重要であるという考え方です。挑戦できる環境づくりも、より具体的なものが求められるようになってきました。
例えば、役割定義や行動定義の中にも、上位職員は部下や組織も含めてチャレンジを行うことを盛り込んでいます。失敗をしないことも大事ですが、ある程度のリスクを取りながら挑戦していくことが部門を牽引する上位役職者の大きなミッションの一つとなっています。
リスクというものは、チャレンジにはつきものであり、それを受け入れる勇気が必要です。私自身も新入社員や若手の頃には、多くの失敗を重ねました。しかし、上司がしっかりとフォローしてくれて何とか乗り越えることができました。当時は、時代として、若いから失敗するのは当たり前だという前提で、企業に余裕があったという部分もありますので、今は当時と全く同じことはできないかもしれませんが、その頃のエッセンスを、今の時代に合わせた形で取り入れたいと考えています。
そこで、若い方々には、タウンホールミーティングのような形式で、直接話をする機会を意図的に作ってもらっています。そこでは、「上司が失敗するなと言っても、頑張って挑戦してほしい」と伝えています。「社長がそう言っても実際は難しいです」と言われることもありますが、それでも言い続けることで風土を作っていくことが大切だと思っています。
私も海外の企業と接する機会がありますが、中国や韓国、アメリカなど、海外の国々は非常に難しいことに挑戦しています。日本のメーカーとして、彼らと勝負していくためには、苦しみを乗り越え、ぶつかっていかなければなりません。同じことを続けていても生き残れないのです。昨日と今日では違うことを考え、失敗しながらでもどんどん新しいものに変えていかなければ、勝ち上がっていけないと思いながら活動しています。
私は現在57歳で、定年である60歳まであと数年というところまで迫ってきています。そこで、会社の将来を考えると同時に、入社してからの自分の歩みを振り返ることができるようになってきました。
成功してうまくいったことも印象に残っていますが、失敗したことの方がより記憶に残っています。私自身、上司に迷惑をかけたり助けてもらったりしたことがたくさんあり、その時は申し訳ないと思っていましたが、今この年齢になると、それらの経験が自分が歩んできた足跡のように実感でき、懐かしく思えるようになりました。
従業員の皆さんもいずれ年を重ね、いつか会社を卒業するという人生を歩む中で、収入を獲得することはもちろん大切ですが、会社で働く中で上司や部下、顧客と関わりながら、成功や失敗を経験して物語を積み上げていくことが重要だと思います。
いつか振り返ったときに自分なりのエピソードやシナリオを想い返せるような経験が皆さんにもあることを願っています。
もちろん、何事もなく安定して定年まで勤めることにも価値はあると思いますが、うまくいかなかったりして、紆余曲折を経験することが、人生を振り返る際に素晴らしいエピソードになると思います。
そのように、活気に満ちた人が会社の中で増えることで、会社としての成果やアウトプットも向上すると考えていますので、そういった人財を増やしていくことが、私たちの目指すべき方向であると感じています。