物流業界で切り開いた勝ちモデル:先駆者ロジザードの10年越しの伏線回収
株式会社福田屋洋服店(現 株式会社アダストリア)にて、店長やバックオフィス業務に従事し、在庫消化のため「アウトレット」を企画。物流倉庫と連携を強める過程で「在庫」の重要性に気付き、アパレル企業向けのコンサルタントとして独立。在庫情報の重要性を唱える中、在庫管理システムを開発する前取締役会長遠藤と出会い、2001年にロジザード株式会社を設立。「物流×在庫×IT」を掲げ、クラウドWMSのリーディングカンパニーとして業界をけん引する。
クラウドWMS(倉庫管理システム)「ロジザードZERO」、クラウド店舗管理システム「ロジザードZERO-STORE」、オムニチャネル支援ツール「ロジザードOCE(オムニチャネルエンジン)」を提供。 「物流×在庫×IT」でEC・店舗・卸など、様々な物流課題へのソリューションを提案。「お客様の作業現場を止めない」を最優先事項として取組んでいる。
目次
これまでの事業変遷について
冨田: まずは、事業の変遷について重要なポイントを中心にお伺いできればと思います。
ロジザード株式会社 代表取締役社長・金澤 茂則氏(以下、社名・氏名略):
私たちは創業がインターネット黎明期の2001年です。当時、インターネットは情報の「民主化」という熱い思想の潮流があり、私達もこのインフラを活用し、中小の物流業界向けにアプリケーションを提供するという、これまでのパッケージ売りであった物流管理システムとは違う新しいビジネスモデルを描けるのではないかと考えスタートしました。
当時の物流システムは、1つ作るためには数千万円から1億円ほど必要で、中小企業にはまず手が届かないものでした。私たちはそこに目をつけ、物流システムを、初期投資を抑え、月額制でご利用いただくことで、中小企業でも手が届くような価格でご提供できるような、当時では画期的なビジネスモデルを展開しました。
しかし、まだまだ通信インフラとしては脆弱なものだったこと、またターゲットとしていた繊維業界は保守的な業界で、このような新しいサービスを受け入れてもらえず、全く売れないという状態が4年ほど続き、事業資金もほとんど底をつき、事業をたたまざるを得ない状況に追い込まれていました。 そのとき、楽天市場に出店されていたECのお客様が消費者に認知されて急速に売り上げが伸びていったのです。それを機に、業界全体として大きくなり、各社で出荷が追いつかなくなって事業成長が止まるという状況が多発しました。 これを解消するために、各企業様は様々なSIerさんを頼ったのですが、物流のシステムの導入は、導入期間が1年ほどかかるうえに、金額もベンチャー企業の営業利益の10年分といわれるほど高価なもので、この問題を解決することはできなかったのです。
そのような状況で、解決先を模索しているなかでたまたま私たちを見つけていただき、私たちなら3ヶ月あれば導入できますという話をしたところ、お仕事をご依頼いただけました。 そこで、実際に導入したところ、想定以上に物流がうまく回り、受注を止めないと出荷が追いつかないという状態が、毎日増加する受注分の出荷にも対応ができるようになり、私たちのクラウドの優位性を証明することができました。
そこから先は、自然と噂が広まりECの企業様からの電話が止まらないような状態になり、EC業界に特化してシェアを取るという戦略で事業がグロースし、上場するまでの規模に成長できました。
冨田: 現在もアカウント数やMRRが綺麗に右肩上がりに伸び続けていますよね。
金澤: これには大きく2つの要因があると思っています。 1つは、チャーンレートが非常に低いということです。物流業界はものが動き続けるビジネスなので、一度動き始めると簡単には止められないという特徴があります。 解約するとしたら、基本的には事業自体を終了するとき、もしくは倉庫を移転するときの2つくらいしかないです。 もう1つは、解約しにくいということに対する反動でもあるのですが、始めるまでに手間がかかるので、一歩一歩着実に伸ばしていくことしかできず、急成長するような成長戦略を描きにくいというところです。 堅実に伸びるモデルではあるのですが、この市場はとても広いので、まだまだ開拓しきれていない市場です。より急速に成長するための手段がないか常に考え続けています。
経営判断をする上で最も重視していること
冨田: いや、堅実に成長できるということは十分に素晴らしいことだと思いますよ! そのように堅実なところが、金澤社長の経営における考えにも反映されてるかと思ったのですが、金澤社長が経営判断において重視している点や基準は何があるのでしょうか?
金澤: 私はアパレル業界で働いていたことが原体験になっているのですが、この業界は時流をつかみ続けないといけません。時流をつかみきれていない会社が、ある日突然パタリと消えてしまうということを何度も目にしてきました。 とにかくこの時流を捕まえ、それに対して訴えかけていくというあり方は今回の中期経営計画でも出しています。私たちの基本戦略は時流をどうやってつかむかがベースにあります。
従って、判断の際には、中長期的な目線で見たときに、この選択が、将来的に「吉」の方向に向かっているかで判断をしています。それが自分の中での基準です。
冨田: 時流というのは、短期的なトレンドのようなものと、長期的な社会の流れや変化のようなものの、2つの意味があるかと思うのですが、金澤社長が今おっしゃったのは、長期的な方の話でしょうか。
金澤: おっしゃるとおりです。今は一見無駄に見えることを長期的な目線で仕込み、何年かあとになって伏線回収するというイメージです。 実際、私たちが創業した頃も、「インターネットでクラウドだとか言ってる会社はアホだ」とか、「インターネットみたいな危ないところでよく商売するよね」とか言われることが多かったです。 ただ、私から見ると、中長期的に見ればどう見てもクラウドのスタイルの方が、これまでのシステムより経済的で合理的だと確信がありました。さらに、当時はかなり遅れていた物流のIT化も10年スパンで見たら必ず追いついてくるという部分には自信があったので、あとはその流れの中で、どういう戦略を選ぶかという勝負でした。
経営者としてのルーツ、過去の経験から積み上がったご自身の強み
冨田: 金澤社長が、正確に時流を掴むことできることの背景には、なにかルーツや経験みたいなものがあるのかと思ったんですが、この点についてはご自身ではどのように考えているのでしょうか。
金澤: 人に言うと驚かれるのですが、実は私の趣味は定点観測でして、これが昔からずっと同じ一貫した趣味で、定期的に同じ場所へ行って過去と現在の違いを観察するということを何十年もやり続けています。 自分が普段から通っている焼き鳥屋さんやスーパーもそうです。定期的に行って前と何が変わったのかというところを自分の中で咀嚼していき、その将来を想像することが好きなのです。
これは自分が前職のアパレル業界で働いていた際に、国内外のショッピングモールや街を毎年訪れて、何が変わったのか観察し続け仕事に活かしたという経験が大きく影響しています。 これを繰り返すうちに、将来どのように変わっていくかを俯瞰して捉えることができるようになったのです。 ただ、私の視点は何年も先のことなので、なかなか理解はしてもらえることは少ないですが、過去からの変化を見た上で、次の判断を行うということは徹底していることです。 これが時流を外さないための重要なポイントなんじゃないかと思っています。
冨田: それだと、現在地を見失わないですし、定点で見てるからこそ変化も正しく捉えることができ、その結果時流も外さなくなるということで、非常に納得させられました。
自社が今後関連していくテーマ
冨田: ここからは、未来に向けた質問になりますが、今後、貴社が成長していく上で、どのようなキーワードやテーマに関連していくと考えているか、お聞かせいただけますか。
金澤: 2つのテーマに注力しようと思っています。
一つ目は、2024年問題と言われている物流業界の人材不足についてです。 実は、このように人材不足に陥ること自体は5年以上前から社会の周知でした。それがわかっていたからこそ上場を決めたのに、コロナが来てしまったことで、業界全体が、対応の大切な時間を逸してしまったことがあります。わかっていたからこそ、そこに非常に悔しい思いがあります。 この人手不足の問題に対しては、新たなソリューションを出すことで、解決していく予定ですが、それをどれだけ早く軌道に乗せることができるかが勝負であり、自社の成長も然りですが、大きな社会課題ですので、これを解決したいと思っています。
2つ目はDXです。 少子化によって人口が減少することは確実なので、2024年問題の後も、人材不足の問題はさらに迫ってくると思いますので、ITを駆使して効率化するということは必要不可欠なことだと考えています。 現在の物流は、売買の前に備える、売買の後を担うという部分が仕事ですが、今後は、マーケティングや売買も含め、サービスに一体化していく動きが強まると予想しています。私はこれをネクストECと呼んでいるのですが、今の日本の状況を観察する中で、実現可能性が高い姿はOMOだと考えています。
そこに対して「必要とされる物流機能とは何か」という問いに対して、研究開発含めて取り組んでいます。これは10年後の伏線回収につながることですが、より早い段階で成果に結びつくように進めていこうと思っています。
思い描いている未来構想
冨田: 今のテーマに絡むところもあるかなと思うんですが、未来展望について教えてください。
金澤: 私たちが今取り組んでいるマーケットは非常に大きいので、まだまだ開拓の余地は大きいです。正直、今の2000アカウント程度で収まっていることがおかしいことだと思ってるくらいです。これに対し、今の延長線上でどのように進化し発展させていくことで、社会やお客様が求めているものを実現させることができるのか。さらに、その社会やお客様への価値貢献が自社のグロースとどのように繋がっていくようなストーリーを作り、勝負して行きたいと思っています。
ZUU onlineユーザーならびにその他投資家へ一言
冨田: 最後に、ZUU onlineの方々に対してメッセージをお願い致します。
金澤: まずは、ぜひ私たちのミッションに共感していただきたいです。 これから人口が減っていく世の中で、5年から10年で今とは全く違う世の中がやってくることは間違いないと思っています。 そのとき、どのような世の中であってほしいのかということを私たちと共に考えて頂きたい。 そのときに我々が見ていく将来に賛同していただける方が、いらっしゃればぜひ当社を応援していただけたらありがたいです。
私も10年後、20年後と言ってはいますが、その時は70歳を超えていますので、今、形にできなければ若い世代の方々に何も残せなくなってしまいます。 だからこそ、今からの時間を最大限に活用して、皆様からいただいた期待に対しては、必ず応えられるように尽力いたしますので、よろしくお願いいたします。
- 氏名
- 金澤 茂則(かなざわ しげのり)
- 会社名
- ロジザード株式会社
- 役職
- 代表取締役社長