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問題は今後の米国の実質総賃金の伸びがどうなるかです。米国経済の総需要の7割程度が個人消費によって占められていることをふまえると、これが、今後の米国景気を左右する最大の要素と言っても良いでしょう。まず、失業率については、直近(8月)で3.8%という低水準であったことを考えると、これ以上の改善は見込めません。次に、労働参加率については、直近(8月)で62.8%と、コロナ前の2019年の平均値である63.1%とほぼ同水準であることを考えると、今後の上昇幅はこれまでよりも限定的になると見込まれます(図表3)。
また、人口要因については、これは永住権の取得や就労ビザを得て働く人々が増えたことがこれまでの16歳以上の人口の増加をもたらしてきたと考えられます。米国政府による永住権の新規の発給件数と就労ビザの発給件数を年度別にみると(図表4)、コロナ禍の2020財政年度(2019年10月~2020年9月をカバー)と2021財政年度には発給件数が大きく減少したことがわかります。しかし、2022財政年度には急増、2023財政年度にはさらに増加してコロナ前並みに達した可能性があります。就労ビザの有効期間等をふまえると、人口要因による雇用者の増加は今後1年以内にはコロナ前の水準に達する可能性が高いとみられます。他方、1人あたり実質賃金については、足元での労働市場のタイトさを考えると、1人あたり名目賃金の伸びはゆっくりと減速する公算が大きい一方、インフレ率はよりはっきりと低下していくと見込まれます。このため、1人あたり実質賃金の伸びは、今後しばらくの間は、緩やかに加速していくと予想されます。
以上を総合すると、米国の実質総賃金の伸びは、今後、減速する可能性が高く、その減速自体が民間消費の減速につながることを通じて、さらに減速すると見込まれます。これが、金融市場におけるFRBのハト派化への期待につながって、株式市場の落ち着きがもたらされるでしょう。
ただし、米国の実質総賃金の減速の程度や時期については不確実性が高いことには注意が必要であり、この先数カ月は現在のペースで増加し続け、米国景気の継続的な強さにつながるリスクがあります。その場合には、現在のFRBや市場が想定するほどにはインフレは減速せず、FRBによるタカ派的なスタンスが維持されることで、米長期債利回りの高止まりや高金利政策の長期化懸念による株価の停滞を招くリスクが高まります。今後のグローバル市場をみるうえでは、米国のインフレ・賃金指標や景気指標に加えて、労働参加率や人口の動きにも注目していきたいと思います。
木下 智夫
グローバル・マーケット・ ストラテジスト
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MC2023-159
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