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〔要旨〕

  • 財政保守主義:予算案をめぐる対立が世界各地で政府を揺るがせる事態となっており、財政により焦点が当たるようになってきている
  • 金融政策:世界中の中央銀行が、足元の経済課題に対処しつつ、将来の逆風に立ち向かおうと努めている
  • 地政学的リスク:戦争が続き、予算案をめぐる対立が激化し、民主主義がプレッシャーにさらされる中で、不確実性とリスクが上昇する可能性が高いとみられる

テーマ1:財政保守主義

テーマ2:金融政策

テーマ3:地政学的リスク

テーマ4:技術革新

今後の展望

注目の日程

2024年の当レポートの発行は今回で最後となります。しかし休暇に入る前に、2025年の世界市場を牽引すると思われる4つの主要テーマについて強調しておきたいと思います:それは、財政保守主義の高まり、金融政策の継続的重要性、地政学的リスクに対する懸念の高まり、そして技術革新です。

テーマ1:財政保守主義

私は、2025年には財政保守主義がより顕著になると考えています。最近、世界の市場が財政赤字拡大に対する懸念的反応を示した事例がいくつか見られました:

  • フランス:12月初めにフランスで内閣不信任案が可決され、ミシェル・バルニエ内閣は総辞職に追い込まれましたが、これはフランス予算案をめぐる対立から来るものでした。予算案は既に欧州委員会(EC)の承認を得ていましたが、右派党首マリーヌ・ルペン氏の反対を受けました(彼女は電力消費税の引き上げに反対し、年金水準の引き上げを要求しました)。バルニエ首相の失脚に加え、2025年予算成立が間に合わなかったことから来る機能不全を受け、フランス国債利回りは急上昇し、フランス10年物国債利回りとドイツ10年物国債利回りのスプレッドは、過去10年以上で最大となりました。(出所:ブルームバーグ、2024年12月13日時点)
  • ドイツ:11月のドイツの政権崩壊も、予算案をめぐる対立が引き金でした。対立を受けオラフ・ショルツ首相は、自らの率いる社会民主党の政権パートナーの連立与党党首であった財務相を解任しました。これにより、2021年から続いてきたドイツの連立政権は事実上崩壊しました。現在の少数与党では2025年の通常予算の承認を得られないため、補正予算を成立させる必要があります。12月16日、ショルツ首相の信任案が否決され、ドイツは2月に解散総選挙を迎えることとなり、政治的不確実性が続く見通しとなっています。
  • 韓国:韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領による短期の戒厳令宣布は、予算をめぐる野党との対立に苛立ちを募らせた結果でもありました。(先週、野党が支配する国会は、尹大統領の予算案から規模を縮小した予算案を政府・与党の同意を得ずに可決しました)。
  • ブラジル:最近のブラジルレアル下落は、2025年に向けた歳出削減計画の進展に絡んで、失望が起きたことへの反応でした。市場は、ブラジルの債務残高対GDP(国内総生産)比上昇の抑制が遠のいたと考えられることから、所得税免除の拡大および構造改革の欠如を嫌気しました。

米国を含め、2025年にはさらに予算をめぐる対立が繰り広げられると予想されます。米国では債券自警主義の脅威が大きく、共和党・民主党ともに、政策立案者は財政赤字を削減しつつ各々のアジェンダを追求することを目指しています。例えば、スコット・ベッセント次期米財務長官は、2028年までに財政赤字を対GDP比で3%に抑えるとの目標を掲げました。新年を迎えるにあたりマーケット・ウォッチャーは、超党派の国家財政責任改革委員会(通称シンプソン=ボウルズ委員会)の状況を見ることで示唆を得られるかもしれません。同委員会は財政改革に果敢に取り組みましたが、その結果、連邦予算のほとんどあらゆる支出項目が、いずれかの政党によって「聖域」とされていることが分かりました。しかし委員会からの提言は思慮深く信頼に足るものであり、連邦予算と予算編成プロセスを新たに管理・改革する上で基礎となることが期待されます。市場の信認を確保し、債券自警主義を避ける上で、今後は真摯な取り組みが必要となるでしょう。

テーマ2:金融政策

私は、2025年には金融政策が―株式、債券、通貨といった―市場の重要な牽引力になると予想しています。というのも、中央銀行はますます自身を主治医の立場として自覚するようになってきているからです。中央銀行は、現在進行中の病気を治療するだけでなく、将来予想される問題の予防薬の提供も行っています(過剰処方のリスクもありますが)。中央銀行が金融政策を通じて現下の経済課題に対処しつつ、将来の逆風に立ち向かおうとしているのを、直近で私たちは目の当たりにしています。

  • カナダ銀行(BOC):先週、カナダ銀行は0.5%の利下げを決定しましたが、これは6月以降5回連続の利下げとなりました。11月の失業率が6.8%に上昇したことから、BOCは労働市場の弱含みの兆しが強まっていることに明らかに反応した形です(出所:カナダ統計局、2024年12月6日時点)。しかし、これは間違いなく先制的な動きでもありました:BOCは、2025年にカナダの移民政策がより抑制的となることから来る影響や、米国がカナダ製品に課す可能性のある関税の潜在的影響からカナダ経済を守ろうとしています。今回の利下げ決定の発表にあたって、BOCは「米国の次期政権がカナダの対米輸出品に新たな関税を課す可能性があることにより、不透明感が増し、経済の先行きが曇ることとなった」と指摘しました1
  • ブラジル中央銀行:ブラジル中央銀行は先週、政府の歳出削減や所得税に関する改革への失望に起因したレアル安を安定化させるため、金利を1%引き上げることを決定しました。同銀行は、3月までにあと2回、それぞれ1%の大幅利上げを行う可能性があることを示唆しました。この決定を受けてブラジルレアルは上昇したものの、ほんの一時的にしかすぎませんでした。上昇分はすぐに元に戻った上、さらにいくぶんか下落しました。このレアル下落のさなか、同銀行は金曜日にスポットオークションの実施による介入を行いましたが、今後も問題が発生すれば、さまざまな金融政策手段を使って介入が行われることでしょう。
  • スイス国立銀行(SNB):SNBは先週、予想を上回る0.5%の利下げを実施し、市場を驚かせました。政策金利は1%から0.5%に引き下げられ、2022年以来の低水準となりました。利下げが予想されていたものの、大幅な利下げを予想する向きはそれほどありませんでした。SNBはECBによる緩和拡大がスイスフラン高を誘発することを明らかに懸念しており、現在のスイスフラン高を和らげ、今後の高騰を防ぐことに注力しています。また、米国のトランプ次期政権の政策が不透明であることから、スイスフランのような「セーフヘイブン」通貨への資金逃避も懸念しているようです。SNBは、必要であればマイナス金利も辞さないでしょう。
  • ECB:ECBは先週、主要政策金利を0.25%引き下げました。これは2024年に入って4回目の引き下げとなり、今後も緩和はさらに続くと見られます。ECB政策委員のフランソワ・ビルロワ・ド・ガロー氏は、「来年の金融市場の金利見通しについて、我々は総じて鷹揚に受け止めている」と認めました2。ECBは、財政同盟の関係にない金融政策同盟の舵取りをするという特異な任務を担っており、これがさらなる困難をもたらしているものと考えられます。

2025年は、特に中国に関しては財政政策も重要となることを強調しておきたいと思います。中国共産党の中央政治局は先週、予想されたとおり、中国の景気刺激策が非常に大きなものになると発表しました。財政刺激策は、消費者支援を含む包括的なものとなり、低金利寄りの金融刺激策を伴うものとなるでしょう。これは、私たちが2025年のグローバル市場見通しにおいて言及した、世界の成長と市場にとってプラスになると思われるスウィング・ファクターの1つです。

テーマ3:地政学的リスク

2025年には、地政学的リスクが高まるでしょう。 2024年は多くの主要な選挙を控え、大きな不確実性を抱えたまま始まりました。しかしこれらの選挙が終わったからといって、地政学的な不確実性やリスクが無くなったわけではありません。むしろ2025年は、戦争が続き、予算をめぐる対立が激化し、民主主義がプレッシャーにさらされる中で、不確実性やリスクが高まる可能性が高いでしょう。このような環境下では、暗号通貨の継続的な人気だけでなく、米ドルや金などの「セーフヘイブン」資産クラスへの定期的な逃避の準備をも整えておく必要があります。

テーマ4:技術革新

人工知能(AI)を2025年、そしてもちろんその先の重要なテーマとして取り上げないわけにはいきません。今日は、技術革新への投資が生産性の飛躍的な向上につながった、1990年代後半を彷彿とさせます。

このテーマはそれ自体で1つのレポートに値しますが、ここでは、AIがますます産業や経済全体の生産性を、さまざまな方法で向上させていると言及するに留めておきます。これには、AIが生産工程を最適化し、石油の掘削や汲み上げに用いられる機器の効率を向上させていることも含まれます。またAIのコーディング・コパイロットの利用により、企業がコーディングに費やす時間を何千時間も節約できていることも含まれます。私はAIを、特に中小企業にとって、収益と効率の向上に役立つツールだと考えています。

今後の展望

今週は米連邦準備制度理事会(FRB)、イングランド銀行、日銀の金融政策決定が予定されています。

  • 市場はFRBが今週、タカ派的な0.25%の利下げを決定すると予想していますが、私自身は今回は据え置きとした方が良いのではないかと考えています。米国経済は予想以上に好調なため、来年本当に緩和が必要になった場合に備えて「ドライパウダー」を持っておく方が良いと考えられるからです。
  • イングランド銀行は、8月と11月に利下げを行ったため、今回は据え置きとする可能性が高いと考えられます。
  • 日銀も今回会合では据え置きとする可能性が高いと考えられますが、引き締めの余地があることは周知のとおりです。というのも日銀短観の12月調査で、日銀が今年2回の利上げを実施したにもかかわらず、日本の中小企業でさえ財務状況に大きなストレスを感じていないと判明したためです。これはすなわち、徐々にではありますが、正常化を行う余地があることを意味します。今回会合でそれが実施される可能性は低いと思われますが、今後の会合において実施されていくでしょう。

こうしたことから、2025年のグローバル市場見通しで述べたように、米ドルがユーロやカナダドルなどの通貨に対して相対的に上昇し、英国ポンドや日本円に対して相対的に中立あるいは下落する環境が醸成されると考えられます。

注目の日程

公表日

指標等

内容

12月16日

ユーロ圏購買担当者景気指数
(速報値)

製造業とサービス業の経済の健全性を示す
12月16日英国購買担当者景気指数(速報値)製造業とサービス業の経済の健全性を示す
12月16日ユーロ圏賃金上昇率時間当たり賃金の変化を測定
12月16日ユーロ圏労働コスト指数雇用者の労働コストの変化を測定
12月16日米国購買担当者景気指数(速報値)製造業とサービス業の経済の健全性を示す
12月17日英国失業率労働市場の健全性を示す
12月17日ドイツZEW景況感指数今後6カ月間のドイツの景況感を測定
12月17日カナダCPIインフレの動向を示す
12月17日米国鉱工業生産指数鉱工業セクターの健全性を示す
12月17日米国小売売上高小売セクターの健全性を示す
12月6日ミシガン大学消費者調査消費者心理とインフレ期待に関する指数
12月18日英国CPIインフレの動向を示す
12月18日英国PPI

生産者に対して支払われる財・サービスの
価格変化を測定

12月18日

FOMC(米連邦公開市場委員会)
金融政策決定

金利の道筋に関する最新の決定を発表
12月18日ユーロ圏CPIインフレの動向を示す
12月18日日銀金融政策決定金利の道筋に関する最新の決定を発表
12月18日米国建築許可件数建設業の健全性を示す
12月18日米国住宅着工件数住宅市場の健全性を示す
12月19日ドイツ GfK消費者信頼感指数

ドイツの経済活動に対する消費者信頼感の
水準を測定

12月19日イングランド銀行金融政策決定金利の道筋に関する最新の決定を発表
12月19日米国国内総生産地域の経済活動を測定
12月19日米国中古住宅販売件数住宅市場の健全性を示す
12月19日メキシコ銀行金融政策決定金利の道筋に関する最新の決定を発表
12月20日英国小売売上高小売セクターの健全性を示す
12月20日米国PCE(個人消費支出)価格指数インフレの動向を示す
12月20日

インド準備銀行金融政策委員会
会合議事要旨

中央銀行の意思決定プロセスについて更なる
洞察を与える

12月20日米国個人所得

 

賃金や給与、政府からの社会的給付などあらゆる
収入源からの所得を測定

12月20日カナダ小売り売上高小売セクターの健全性を示す
12月20日ミシガン大学消費者調査消費者心理とインフレ期待に関する指数を提供
12月20日ユーロ圏消費者信頼感指数ユーロ圏の消費者心理を追跡
  • 出所:カナダ銀行プレスリリース、2024年12月11日
  • 出所:ロイター、“ECB governors back more rate cuts if inflation settles at goal”、2024年12月13日

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

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MC2024-152

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情報提供元: Wealth Road
記事名:「 財政保守主義と2025年のその他の世界経済テーマ