光触媒-電解ハイブリッドシステムに適用し、水素製造において世界最高性能を達成



ポイント



・ 水の酸化反応と競合する副反応が、BiVO4光触媒の性能を低下させることを特定



・ タングステン酸塩を用いた表面改質により、BiVO4光触媒の酸素生成速度が改質前の約13倍に向上



・ 従来最高性能のWO3系光触媒を用いたシステムと比較し、約1.5倍の水素製造速度を達成



 



【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202611059468-O1-dcx1EM8d】



 



概 要



国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下「産総研」という)ゼロエミッション国際共同研究センター 人工光合成研究チーム 渡邊健太(研究実施当時 産総研特別研究員、現 東京科学大学 助教)、三石雄悟 研究チーム長、佐山和弘 首席研究員らは、太陽光を利用した水素製造に有望なBiVO4(バナジン酸ビスマス)光触媒の性能を引き出す表面制御技術を開発しました。さらに、このBiVO4光触媒を、光触媒と電解を組み合わせて水素を製造する「光触媒-電解ハイブリッドシステム」に適用したところ、水素製造速度は、従来最高性能のWO3(酸化タングステン)系光触媒を用いた場合の約1.5倍となりました。



 



BiVO4光触媒は、WO3系光触媒よりも広い波長範囲の可視光を利用できるため、より多くの太陽光エネルギーを活用でき、高い水素製造性能が期待されていました。しかし、光触媒-電解ハイブリッドシステムで用いる強酸性の鉄塩水溶液中では、十分な性能を発揮できないという課題がありました。研究チームは、その主な原因が、反応中に蓄積する鉄イオン(Fe2+)とBiVO4との不要な反応にあることを明らかにしました。そこで、BiVO4の表面をタングステン酸塩(タングステンを含む化合物)の水溶液で改質したところ、この不要な反応が大幅に抑えられ、水から酸素を生成する反応が優先的に進むようになりました。その結果、酸素生成速度は改質前のBiVO4の約13倍に向上しました。さらに、この光触媒を用いることで、光触媒-電解ハイブリッドシステムによる水素製造性能で世界最高値を達成しました(2026年9月現在、研究チーム調べ)。本成果は、これまでに十分活用できなかったBiVO4の光触媒性能を引き出し、太陽光エネルギーから水素を製造する技術の高性能化につながるもので、脱炭素社会の実現に貢献することが期待されます。



 



なお、本成果は2026年11月6日に「ACS Catalysis」にオンライン掲載されました。



 



下線部は【用語解説】参照



 



※本プレスリリースでは、化学式や単位記号の上付き・下付き文字を、通常の文字と同じ大きさで表記しております。



正式な表記でご覧になりたい方は、産総研WEBページ



( https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2026/pr20261106/pr20261106.html )をご覧ください。



 



研究の社会的背景



水素は、化学品製造やさまざまな産業プロセスを支える重要な物質であるとともに、脱炭素社会の実現に向けたエネルギー媒体としても期待されています。そのため、太陽光などの再生可能エネルギーを利用して水素を製造する技術の開発が、世界的に進められています。産総研では、光触媒と電解を組み合わせることで、水素製造に必要な電解電圧を大幅に低減できる「光触媒-電解ハイブリッドシステム」の研究開発を進めています。このシステムのさらなる高性能化には、太陽光をより有効に利用できる光触媒を導入し、その性能を十分に発揮させることが重要です。しかし、このシステムで用いる強酸性の鉄塩水溶液中で高い活性と安定性を兼ね備えた光触媒は限られています。さらに、それらも太陽光を十分に活用できているとは言えないことから、より効率的な光触媒材料開発が課題となっていました。



 



研究の経緯



産総研ではこれまで、光触媒-電解ハイブリッドシステムの実現に向けて、光触媒の反応選択性や耐久性の向上に取り組んできました。2010年には、WO3光触媒の表面を制御することで、水よりも反応しやすい物質が共存する条件でも、水の酸化反応を優先的に進められることを見いだし、光触媒表面の制御によって反応の選択性を高めるという設計指針を提案しました(2010年3月11日 産総研プレス発表)。その後、この技術を基盤として光触媒-電解ハイブリッドシステムの研究開発を進め、2024年には、WO3系光触媒を用いた小型流通型装置において、通常の水電解に必要な理論電圧(1.23 V)を下回る0.9 V以下の低電圧で水素製造が可能であることを実証しました(2024年11月5日 産総研プレス発表)。さらなる高性能化を目指し、研究チームはWO3よりも広い波長範囲の太陽光を利用できるBiVO4に着目しました。しかし、BiVO4は理論的には高い性能が期待されていたものの、本システムに適用した際には十分な性能向上が得られず、その要因も明らかになっていませんでした。そこで、BiVO4の性能を制限する要因の解明に取り組みました。さらに、その知見に基づいてBiVO4に適した表面制御技術を開発することで、光触媒性能の向上を実際の水素製造性能の向上につなげることを目指しました。これは、WO3光触媒の高性能化のために確立した表面制御の考え方が、組成や特性の大きく異なるBiVO4にも適用できるかを検証する研究でもありました。



 



なお、本研究の一部は国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務(P16002)の結果得られたものです。



 



研究の内容



研究チームはまず、BiVO4光触媒が強酸性の鉄塩水溶液中で十分な性能を発揮できない原因を詳しく調べました。その結果、光触媒が吸収した光エネルギーは、本来の目的である水の酸化反応による酸素生成だけでなく、反応の進行に伴って蓄積するFe2+の酸化にも消費されていることが分かりました。特にBiVO4では、Fe2+の酸化反応が水の酸化反応よりも優先して進むため、本来は水の酸化反応に使われるべき光エネルギーが失われ、BiVO4の優れた光吸収特性が十分に生かされていないことが明らかになりました(図1)。



 



【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202611059468-O2-IXM0Ty3a】



 



そこで研究チームは、WO3光触媒の高性能化の研究で得られた「表面制御によって反応の選択性を高める」という設計指針をBiVO4に展開し、水の酸化反応を妨げるFe2+との副反応を抑えることを目指しました。さまざまな処理を検討した結果、BiVO4の表面をタングステン酸塩の水溶液で改質することで、BiVO4表面で起こるFe2+との副反応が大幅に抑制され、水の酸化反応を優先的に進めることが可能になりました。未改質のBiVO4では酸素生成速度が約40 µmol/hであったのに対し、タングステン酸塩で表面改質したBiVO4(W改質BiVO4)では約520 µmol/hに達し、約13倍に向上しました(図2)。また、反応の進行に伴ってFe2+濃度が高くなっても高い酸素生成速度を維持し、0.1 mol/LのFe3+がほぼすべてFe2+に還元されるまで反応が継続しました。さらに、光触媒を回収して再利用しても顕著な性能低下は見られず、表面改質による効果が維持されることを確認しました。



 



【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202611059468-O3-gVtCtjJ4】



 



次に、このタングステン酸塩で表面改質したBiVO4光触媒を、光触媒-電解ハイブリッドシステムに適用し、実際の水素製造性能を評価しました。その結果、水素製造速度は、従来最高性能を示していたWO3系光触媒を用いたシステムの約1.5倍となりました(図3)。なお、13倍という値は改質前のBiVO4の酸素生成速度との比較であり、1.5倍という値は従来最高性能値を示したWO3系光触媒を用いたシステムの水素製造速度との比較です。この結果は、光触媒単体での性能向上が、実際の水素製造性能の向上につながることを示しています。さらに、光触媒反応と電解反応を組み合わせて水を水素と酸素に分解する光触媒-電解ハイブリッドシステムにおいて、実際に生成した水素量に基づく評価で世界最高性能を達成しました(2026年9月現在、研究チーム調べ)。本成果は、BiVO4の性能を効果的に引き出すことで光触媒としての性能を向上させるとともに、その効果が実際に水素製造性能の向上につながることを実証したものであり、太陽光を利用した高効率な水素製造技術の実現に向けた重要な成果です。



 



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今後の予定



今後は、本研究で開発したBiVO4光触媒のさらなる高性能化を進めるとともに、より広い波長の太陽光を利用できる次世代光触媒材料への展開を図ります。また、本研究で確立した表面制御技術を活用し、光触媒-電解ハイブリッドシステムの一層の高性能化と低コスト化を目指します。さらに、表面改質によって反応選択性が向上する機構の解明を進めることで、新たな光触媒材料設計指針を構築し、太陽光を利用した水素製造技術や人工光合成技術の発展につなげていきます。



 



論文情報



掲載誌:ACS Catalysis



論文タイトル:Surface-Engineered BiVO4 Photocatalyst Enables Selective Water Oxidation for Water Splitting via a Photocatalysis–Electrolysis Hybrid System



著者:Kenta Watanabe*, Yugo Miseki*, Michiko Tamano, Ryo Kasuya, and Kazuhiro Sayama*



DOI:https://doi.org/10.1021/acscatal.6c05752



 



用語解説



BiVO4光触媒



バナジン酸ビスマス(BiVO4)光触媒は黄橙色の可視光応答性の半導体。水を酸素へ酸化する反応に高い性能を示す。光吸収スペクトルの吸収端は520 nm程度であり、それよりも短い波長の光を吸収できる。WO3系光触媒よりも長波長の可視光を利用できるため、理論的にはより高い太陽光利用効率が期待される。



 



光触媒



光を吸収して酸化反応や還元反応を引き起こす触媒。今回の研究では、光触媒が水から酸素を生成するとともに、鉄イオンを還元する役割を担う。



 



光触媒-電解ハイブリッドシステム



グリーン水素を低コストで製造するための候補技術として産総研で研究開発を進めている手法の一つ。水を酸素へ酸化しながらFe3+イオンをFe2+イオンへ還元する光触媒反応と、Fe2+イオンをFe3+イオンへ酸化しながら水を水素へ還元する電解反応とを組み合わせることで、全体反応として水素と酸素を時間的にも空間的にも分離して製造できる。前段の光触媒反応では、光エネルギーが鉄塩水溶液中に化学エネルギーとして貯蔵される。後段の電解では、その貯蔵された化学エネルギーを水素製造のためのエネルギーとして利用できるため、必要となる電解電圧を、通常の水分解の理論電圧(1.23 V)より低くすることができる。



 



WO3系光触媒



本研究以前の光触媒-電解ハイブリッドシステムで最高性能を示していた光触媒(2024年11月5日 産総研プレス発表)。光吸収端は460~480 nm程度である。



 











プレスリリースURL



https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2026/pr20261106/pr20261106.html



情報提供元: PRワイヤー
記事名:「 光触媒の潜在能力を引き出す表面制御技術を開発 」