全固体電池材料の探索を支えるロボット実験システムを開発
PRワイヤー 2026年11月05日 10:30:00
ポイント
・ 全固体電池材料のメカノケミカル合成を一貫して行う人協働型自動実験システムを開発
・ 人協働ロボットと専用モジュールにより、一度の指令で粉体秤量から試料保管まで最大10試料の連続自動処理
・ 研究者の作業負担軽減と材料探索の効率化によって全固体電池開発および研究DXの加速に貢献
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202611029149-O1-3n1tAVWz】
概 要
国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下「産総研」という)マルチマテリアル研究部門 カーボンニュートラル材料研究グループ 山口 祐貴 上級主任研究員らは、株式会社デンソーウェーブ、愛知工業大学、あいち産業科学技術総合センターと共同で、全固体電池材料の探索に用いるメカノケミカル合成実験について、粉体やビーズの秤量、容器の蓋の開閉、遊星ボールミル処理、試料の保管までを一貫して自動化する人協働型実験システムを開発しました。
全固体電池は、電解質に固体材料を用いる次世代の蓄電池です。高い安全性や高エネルギー密度が期待される一方、性能を左右する固体電解質や電極材料の探索では、材料の組成だけでなく合成条件も変えながら多くの実験を繰り返す必要があります。特に、外気の影響を避けるグローブボックス内での粉体の取り扱いは煩雑で、研究者の手作業にかかる時間と負担が材料探索を進める上での課題でした。
今回、研究チームは、限られた空間での粉体実験を行う小型の人協働ロボットと、蓋の開閉や重量物の取り扱いなどを補助するオリジナルのモジュールを組み合わせました。これにより、水分や酸素の影響を受けやすい全固体電池材料について、グローブボックス内で、秤量から遊星ボールミルによる処理、試料の保管までを連続して自動実行できるようになります。
本システムは、研究者の作業負担を抑えつつ、多様な材料組成と処理条件を系統的に調べるための研究基盤となります。今後、材料の導電率や構造の評価、AI解析と連携することで、次の実験条件を自動的に提案する自律型材料開発システムへの発展が期待され、全固体電池材料の探索加速と研究開発のDX推進に貢献します。
下線部は【用語解説】参照
研究の社会的背景
電気自動車や再生可能エネルギーの利用を広げるには、電気を安全に蓄え、必要なときに取り出せる蓄電池の性能向上が欠かせません。全固体電池は、現在広く使われているリチウムイオン電池の有機系電解液を固体材料に置き換える電池です。高い安全性や高エネルギー密度化が期待され、次世代の蓄電池として研究開発が進められています。
全固体電池の性能は、固体電解質や電極などに使う材料の組成だけでなく、粉砕・混合の条件や処理時間など、合成プロセスにも左右されます。そのため、候補となる材料と条件の組み合わせを数多く試し、結果を比較する必要があります。全固体電池材料の実験では、粉体に機械的な力を加えて反応を進めるメカノケミカル合成という方法がよく用いられます。この手法は、粉体やビーズの秤量、容器の蓋の開閉、ボールミル装置への取り付け、処理後の試料回収など、多くの細かな作業を伴います。また、全固体電池材料には大気中の水分や酸素の影響を受けやすいものがあるため、実験は外気を遮ったグローブボックス内で行います。作業空間が限られ、厚い手袋越しに操作する必要があることから、長時間にわたって多数の実験を手作業で続けることは研究者の大きな負担になります。そこで本研究では、人協働ロボットと各操作を補助するオリジナルのモジュールを組み合わせ、グローブボックス内でメカノケミカル合成実験を連続して自動化するための基盤を開発しました。
研究の経緯
産総研はこれまで、ロボット実験とAIを組み合わせ、セラミックス材料の合成・製造条件を短時間で探索する技術を開発してきました。2023年には、粉体秤量の自動化装置と人協働ロボットを活用し、100 ℃以下で進行する化学焼結プロセスの条件探索を高速化しました(2023年10月18日 産総研プレス発表)。
今回の研究では、この自動実験技術を、より複雑な粉体操作を必要とするメカノケミカル合成と全固体電池材料の探索へ発展させました。産総研のセラミックス・電池材料技術、デンソーウェーブの人協働ロボット技術、愛知工業大学のロボット周辺モジュール開発技術、あいち産業科学技術総合センターの材料評価・産業支援基盤を組み合わせて、作業負担軽減と材料探索の効率化を実現する自動実験システムを開発しました。
なお、本成果は、2025年度から進めている「知の拠点あいち重点研究プロジェクト実用化研究」の研究テーマ「人協働型セラミックス自動実験システム構築と電池材料探索プロトコル開発(研究リーダー 山口 祐貴)」において得られたものです。
研究の内容
今回、研究チームは、全固体電池材料の開発に用いる粉体実験を連続して自動実行できる、人協働型の自動実験システムを開発しました(図1)。
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全固体電池材料の合成では、複数の粉体試薬とビーズを容器に入れ、遊星ボールミルによって粉砕・混合します。遊星ボールミルは、粉体とビーズを入れた容器を回転させ、ビーズが粉体に衝突する力を利用して材料を細かく砕きながら混合し、均一化するとともに、機械的なエネルギーを加えることで反応を進める装置です。このように、機械的な力を利用して材料を合成する方法をメカノケミカル合成といいます。メカノケミカル合成では、粉体を混ぜて処理するだけでなく、その前後にも多くの作業が必要です。研究者は、試薬やビーズを保管場所から取り出し、決められた量を量って遊星ボールミル用の容器に入れ、蓋を閉めます。続いて、容器を遊星ボールミルにセットして処理し、処理後の試料を取り出して保管します。従来は、これらの作業すべてを人の手で行う必要がありました。
産総研は、長年にわたり電池材料やセラミックス材料の合成研究を進めてきた知見を基に、自動化の対象となる実験工程全体の設計を行いました。試薬やビーズの選択方法、秤量手順、作業順序、安全に実験を実施するための条件管理など、研究者が日常的に行っている実験ノウハウを整理し、自動実験システムで再現できるようにしました。
また、本システムでは、試薬量、ビーズの種類や量、遊星ボールミルの回転数、処理時間、処理ステップ数など、材料特性やプロセス条件を表す多数の実験パラメーターをデジタルデータとして一元的に管理できます。これらのデータは、材料組成と特性の関係を解析するマテリアルズ・インフォマティクス(MI)や、合成条件と性能の関係を最適化するプロセス・インフォマティクス(PI)の説明変数として活用できるため、材料探索の効率化と研究DXの推進にもつながります。
開発したシステムでは、試薬などの保管容器とボールミル容器の搬送、蓋の開閉、粉体とビーズの秤量、遊星ボールミルへの容器の取り付け、ボールミル処理、処理後の試料の保管までを順番に自動実行します。これにより、これまで研究者が工程ごとに行っていた一連の作業を、一度の指令で連続して行えるようになりました(図2)。
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小型の人協働ロボットは、試薬やビーズの保管容器、薬さじなどを取り扱いながら、一連の粉体実験操作を担います。粉体実験には、一般的な協働ロボットのハンドだけでは安定して行いにくい操作があります。例えば、微量の粉体を扱う、ビーズを投入する、形や大きさが異なる容器を運ぶ、固く閉めた蓋を開けたり閉めたりするといった操作です。デンソーウェーブは、試薬容器や薬さじを扱うためのエンドツールを開発し、人が行っていた細かな粉体操作を人協働ロボットで安定して実施できるようにしました。また、遊星ボールミル用容器など、人協働ロボットのハンドだけでは負荷が大きいものも取り扱わなければなりません。そこで、愛知工業大学がそれぞれの操作を補助するオリジナルのモジュールを開発しました。蓋の開閉や負荷の大きい操作をこれらのモジュールに担わせ、さまざまな実験条件に対応できる柔軟性と、実験を繰り返し行うための安定性を両立しました(図3)。この構成により、作業できる空間が限られたグローブボックス内にも設置できるシステムとしました。
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本システムは、遊星ボールミル1回の処理で2試料を取り扱い、これを5回連続して実行可能なので、一度の指令で最大10試料を自動処理できます(図2)。それぞれの実験では、試薬量、ビーズの大きさと量、遊星ボールミルの回転数、処理時間、処理のステップ数などを変更できます。このため、材料の組成だけでなく、メカノケミカル合成の条件も変えながら、多様な組み合わせを系統的に調べることができます。
また、全固体電池材料には、大気中の水分や酸素に触れると性質が変わりやすいものがあります。本システムはすべてグローブボックス内に設置できるため、材料を外気にさらさず、粉体とビーズの秤量から遊星ボールミルによる処理、試料の保管までを連続して自動実行できます。研究者の作業負担を抑えながら、材料の組成や処理条件が異なる多数の実験を行えるため、全固体電池材料の候補探索と合成プロセスの最適化を効率化する実験基盤として活用できます。
今後の予定
今後は、本システムで合成した試料の導電率および構造を評価し、得られたデータをAI解析と連結します。さらに、AI解析結果を反映した次の実験計画を自動的に提案する機能を開発し、実験・評価・解析・条件提案を自律的に繰り返す材料開発プラットフォームへ展開します。これにより、全固体電池材料の探索とプロセス最適化のさらなる高速化を目指します。
また、対象材料や実験工程を拡張し、セラミックス材料開発に広く適用できる人協働型の自動実験基盤へ発展させます。本システムの内容は展示会等で公開する予定です。2029年以降には、共同利用可能な実験設備として地域企業などが活用できる材料評価・開発基盤への導入も検討します。将来的には、地域の強みであるセラミックス技術を生かし、次世代電池材料の開発加速と産業競争力の強化に貢献します。
展示会・イベント情報
イベント名称:xEV テスティング・イニシアティブ
日程:2026年11月5日(木)~6日(金)
会場:STATION Ai(愛知県名古屋市)
展示会名称:異業種交流展示会 メッセナゴヤ2026
日程:2026年11月11日(水)~13日(金)
会場:ポートメッセなごや(愛知県名古屋市)
イベント名称:「知の拠点あいち重点研究プロジェクトⅤ期」公開セミナー
日程:2026年11月25日(水)
会場:あいち産業科学技術総合センター(愛知県豊田市)
用語解説
全固体電池
正極と負極の間でイオンを運ぶ「電解質」に固体材料を用いた電池。一般的なリチウムイオン電池では液体電解質が使われるが、全固体電池では固体電解質を用いる。電極は電気を出し入れする材料であり、正極・負極から構成される。高い安全性や高エネルギー密度化などが期待されている。
メカノケミカル合成
粉砕や混合などの機械的エネルギーを利用して化学反応や構造変化を促進する材料合成手法。遊星ボールミルなどを用いて粉体を処理し、新しい化合物の合成や材料特性の制御を行う。
グローブボックス
外気と遮断した空間内を不活性ガスなどで満たし、水分や酸素に敏感な材料を取り扱うための装置。作業者は装置に取り付けられた手袋を介して内部の操作を行う。
人協働ロボット
人と同じ作業空間で使用することを前提に設計されたロボット。安全機能を備えており、製造現場や研究開発現場で、人と協力しながら作業を行うことができる。
遊星ボールミル
粉体と粉砕ビーズを容器内に入れ、公転と自転を組み合わせた運動によって強い衝撃力やせん断力を与える装置。材料の粉砕、混合、メカノケミカル反応の促進などに利用される。
自律型材料開発システム
自動実験、材料評価、データ解析を連携し、得られた結果に基づいて次の実験条件を自動的に決定しながら材料開発を進める研究開発システム。実験の実施から評価、条件最適化までを繰り返し行うことで、材料探索やプロセス開発の効率化を図る。
DX(デジタルトランスフォーメーション)
データやデジタル技術を活用して、業務や研究開発の進め方を変革する取り組み。研究分野では、自動実験、データ管理、AI解析などを活用した研究効率の向上が進められている。
化学焼結プロセス
粉体粒子間で生じる化学反応を利用して、材料の合成と固体化を同時に進行させるプロセス。Acid-Base Chemical Densification (ABCD)プロセスとも呼ばれる。一般的な高温焼結と異なり、100℃以下の低温で緻密なセラミックスを作製できる特徴を持つ。
マテリアルズ・インフォマティクス(MI)
材料の組成や構造、特性などのデータをコンピューターで解析し、新しい材料や有望な材料候補を効率的に探索する手法である。近年は、実験や計算で得られた大量のデータと人工知能(AI)を活用し、材料開発の効率化が進められている。
プロセス・インフォマティクス(PI)
材料を製造する際の温度、時間、配合条件などのプロセスデータを解析し、目的とする性能を得るための最適な製造条件を探索する手法。実験データやAIを活用することで、試行錯誤を減らしながら効率的にプロセス開発を進めることができる。
モジュール
特定の機能を担うために設計された独立性の高い機構またはユニット。本研究では、人協働ロボット単体では実施が難しい操作を補助するための機械機構として用いている。
プレスリリースURL
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2026/pr20261105/pr20261105.html
情報提供元: PRワイヤー
記事名:「 全固体電池材料の探索を支えるロボット実験システムを開発 」