超高速180 Gbit/s・低消費電力光送信器を開発
PRワイヤー 2026年10月13日 15:00:00
2026年10月13日
早稲田大学
超高速180 Gbit/s・低消費電力光送信器を開発 AIデータセンター向け光回路の高集積化へ
【表:https://kyodonewsprwire.jp/prwfile/release/M102172/202610137769/_prw_PT1fl_3WsFnute.png】
生成AIの急速な普及により、データセンター間でやり取りされる情報量が急増し、大容量データを高速かつ低消費電力で伝送する光通信技術が求められています。早稲田大学理工学術院の北 智洋(きた ともひろ)教授の研究グループは、波長を変えられるレーザ光源と、電気信号を光信号に変換する高速光変調器※1を一体化した光送信器を開発しました。本送信器は67 nmの広い波長範囲で動作し、従来必要とされていたレーザの冷却制御を用いることなく、低い駆動電圧で最大180 Gbit/sの超高速光通信を実現しました。
本成果は、AI時代のデータセンター間通信(DCI)※2の大容量化や低消費電力化に加え、光通信装置の小型化・高集積化に貢献します。
本研究成果は、2026年10月7日に国際学術誌「IEEE Journal of Lightwave Technology」のEarly Accessとしてオンライン公開されました。
(1)これまでの研究で分かっていたこと
生成AIの普及により、データセンターで処理される情報量は急速に増えています。これに伴い、データセンター同士を結ぶ通信にも、より大容量で高速な光通信が求められています。
大容量の光通信では、1本の光ファイバに異なる波長の光を多数通して同時に情報を送る「波長多重通信」が利用されています。そのため、必要な波長を自由に選べるレーザと、電気信号を高速に光信号へ変換する光変調器が重要です。
一方、通信容量の増大に伴って、多数の光部品を小さなチップ上に集積する必要があります。さらに、データセンターでは膨大な数の光送信器が使われるため、1台あたりの消費電力を小さくすることも重要です。
これまで、シリコンフォトニクス※3を利用した小型の波長可変レーザ※4と、薄膜LN(Lithium Niobate:ニオブ酸リチウム)※5を利用した高速・低電圧の光変調器は、それぞれ研究開発が進められてきました。しかし、異なる材料で作られたこれらのデバイスを一体化し、高速通信、小型化、低消費電力化を同時に実現することが課題となっていました。
(2)今回の研究で明らかになったこと
本研究では、波長を広い範囲で変えられるレーザと、電気信号を高速に光信号へ変換する光変調器を一体化した、小型・低消費電力の光送信器を開発しました(図1)。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202610137769-O2-eJv4WylK】
(図1) シリコンフォトニクス波長可変レーザと薄膜LN光変調器を集積化した小型・低消費電力の光送信器
レーザには、光の損失が小さく安定した動作に適したシリコンフォトニクス技術を用いました。一方、光変調器には、低い電圧で高速に動作できる薄膜LN(Thin-Film Lithium Niobate)を用いました。異なる材料が持つ長所を組み合わせることで、高速化、小型化、低消費電力化を同時に実現することを目指しました。
しかし、レーザと光変調器は、それぞれ単独で高性能であっても、単純につなぐだけでは安定した動作が難しいという課題がありました。そこで本研究では、両デバイスの波長に対する特性をあらかじめ協調して設計する手法を開発しました。これにより、余分な光部品や複雑な制御を追加することなく、両者を直接一体化して安定に動作させることに成功しました。
開発した光送信器は、波長多重通信で広く用いられるCバンド全域を含む1529.1~1595.8 nmの約67 nmにわたって波長を変えることができます。図2は、波長可変レーザ上に設けた二つのマイクロヒータに加える電力と、レーザから出力される光の波長との関係を測定した結果です。ヒータに加える電力を調整することで、レーザ光の波長を高精度に制御できることが確認できます。このように広い波長範囲から通信に使用する波長を選択できるため、さまざまな波長を利用する光通信システムに柔軟に対応できます。また、レーザを一定温度に保つための冷却制御を行わなくても安定して動作することを確認しました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202610137769-O3-7hqyuKpB】 (図2) ヒータによるレーザ発振波長の制御
高速通信実験では、光変調器を約0.6 Vという低い電圧の電気信号で駆動し、最大180 Gbit/s※6の超高速光信号を生成しました。高速光変調器では通常、数V程度の駆動電圧が用いられます。例えば3 Vで駆動する場合と比べると、同じ電気回路条件では駆動に必要な電力は電圧の二乗に比例するため、0.6 Vでは理論上約1/25まで低減できます。膨大な数の光送信器が使われるデータセンターでは、このような低電圧化は消費電力を削減する上で重要です。
今回用いた二値変調※7では、180 Gbit/sは1秒間に1800億回の速さで光信号を切り替える180 Gbaud※8に相当します。現在広く普及している400G級のデータセンター間通信では約60 Gbaudの信号速度が用いられており、本研究ではその約3倍となる信号切り替え速度を実証しました。
図3は、180 Gbit/sで動作させたときの「アイパターン」です。アイパターンは、多数の0と1の信号波形を重ね合わせて表示したもので、中央の「目」のような部分が大きく開いているほど、0と1を明確に判別でき、信号を正しく伝送できることを示します。今回、180 Gbit/s動作時においても明瞭な目の開きを確認し、開発した光送信器が超高速動作に対応できることを実証しました。
また、従来のシリコン光変調器を用いた超高速通信では、比較的大きな駆動電圧に加え、信号波形のひずみを補正するためのデジタル信号処理(DSP)※9が用いられることが一般的でした。本研究では、高い線形性を持つ薄膜LN光変調器を採用することで、消費電力の増加につながるDSPによる波形補償を一切用いず、約0.6 Vの低電圧駆動で180 Gbit/sの明瞭なアイパターンを確認しました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202610137769-O4-XlmUA2nW】 (図3) 180 Gbit/sでのアイパターン
(3)研究の波及効果や社会的影響
生成AIやクラウドサービスの普及により、データセンター間でやり取りされる情報量は今後も増加すると考えられます。そのため、光通信には高速化だけでなく、消費電力の削減や装置の小型化・高集積化が求められています。
本研究で開発した光送信器は、レーザの冷却制御を必要とせず、光変調器も低い電圧で高速に駆動できます。さらに、レーザと光変調器を小型に一体化できるため、多数の光送信器を用いるデータセンター間通信の大容量化と省電力化に貢献することが期待されます。
また、本研究では、シリコンフォトニクスと薄膜LNという性質の異なる材料を単に接続するのではなく、それぞれの光学特性を協調して設計することで安定動作を実現しました。この設計手法は、材料ごとの長所を組み合わせた光集積回路を実現するための新しい設計指針となる可能性があり、今後のより高機能な光通信チップの開発への展開も期待されます。
(4)課題、今後の展望
今回の実験では、最大180 Gbit/sまでの高速動作を確認しましたが、これは開発した装置そのものの性能限界ではありません。今後は、より高速な信号源や測定装置を用いることで、さらに高い通信速度での動作を検証する必要があります。また、今回の光送信器には光変調器や接続部分での光損失が残っており、さらなる低損失化も課題です。
低消費電力化についても、レーザの冷却制御を不要とし、約0.6 Vの低電圧駆動を実現しましたが、送信器全体の消費電力を従来方式と直接比較したものではありません。今後は、光回路や駆動回路を含めたシステム全体での消費電力を評価し、さらなる省電力化を進めます。
将来的には、より高速で低損失な光送信器を小型チップ上に集積し、生成AI時代の大容量データセンター間通信を支える実用的な光通信技術へ発展させることを目指します。
(5)研究者のコメント
今回の成果では、シリコンフォトニクスと薄膜LNという異なる材料の長所を組み合わせ、超高速動作と低消費電力化を同時に実現できる光送信器を示しました。生成AIの普及により、データセンター間通信にはさらなる高速化と省電力化が求められています。本技術を発展させ、次世代の大容量光通信を支える小型・高集積な光送信器の実現につなげたいと考えています。
(6)用語解説
※1 光変調器
電気信号に応じて光の強さや位相などを変化させ、電気信号を光信号に変換するデバイス。光通信において情報を光に載せる役割を担う。
※2 データセンター間通信(DCI:Data Center Interconnect)
複数のデータセンターを高速な通信回線で接続し、大量のデータをやり取りする技術。生成AIやクラウドサービスの普及に伴い、通信容量のさらなる拡大と低消費電力化が求められている。
※3 シリコンフォトニクス
シリコンを用いて、光の通り道や光を制御する機能を半導体チップ上に集積する技術。光通信装置の小型化や高集積化に利用されている。
※4 波長可変レーザ
出力する光の波長を変更できるレーザ。用途や通信に使用する波長に応じて、一つのレーザから異なる波長の光を出すことができる。
※5 薄膜LN(Thin-Film Lithium Niobate:TFLN)
ニオブ酸リチウム(Lithium Niobate:LN)という光学材料を薄膜化したもの。電気信号によって光を高速に制御できるため、低電圧・高速な光変調器への応用が進んでいる。
※6 Gbit/s(ギガビット毎秒)
1秒間に送ることができるデジタルデータ量を表す単位。1 Gbit/sは1秒間に10億ビットの情報を送る速度を意味する。
※7 二値変調
「0」と「1」のデジタル情報を、光が弱い・強いという二つの状態に置き換えて情報を送る方式。
※8 Baud(ボー)
通信信号を1秒間に何回切り替えるかを表す単位。例えば180 Gbaudは、1秒間に1800億回の速度で信号を切り替えることを意味する。今回用いた二値変調では、180 Gbit/sは180 Gbaudに相当する。
※9 デジタル信号処理(DSP:Digital Signal Processing)
電気信号をデジタル処理し、伝送時に生じる波形のひずみや劣化を補正する技術。高速光通信では信号品質を向上させるために広く用いられる一方、複雑な演算処理が必要となるため、送受信器の消費電力増加の要因となる。
(7)論文情報
雑誌名:IEEE Journal of Lightwave Technology
論文名:Spectrally Engineered Isolator-Free Silicon Photonic Transmitter Based on a SiN External-Cavity Laser and Thin-Film Lithium Niobate Modulator
執筆者名(所属機関名): Tomohiro Kita*(早稲田大学), Shotaro Hirata(住友大阪セメント), Shingo Takano(住友大阪セメント), Yu Kataoka(住友大阪セメント), Yuya Yamaguchi(国立研究開発法人情報通信研究機構), and Ryo Shimizu(住友大阪セメント)
掲載⽇時(⽇本時間): 2026年10月7日
掲載URL:https://ieeexplore.ieee.org/document/11724625
DOI: https://doi.org/10.1109/JLT.2026.3741545
(8)キーワード
シリコンフォトニクス、光送信器、光集積回路、波長可変レーザ、薄膜LN(Thin-Film Lithium Niobate, TFLN)、低消費電力、超高速光通信、AIデータセンター
(9)研究助成(外部資金による助成を受けた研究実施の場合)
本研究は、情報通信研究機構(NICT) 革新的情報通信技術研究開発委託研究「Beyond 5G超高速・超大容量無線通信システムのためのヘテロジニアス光電子融合技術の研究開発」(課題番号:JPJ012368C, 1301)の一環として行われ、一部は総務省(MIC)戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE) 「小型・低消費電力・低雑音THzトランシーバを実現する光電子融合ヘテロジニアス集積技術の研究開発」(課題番号:JP235003005)、総務省(MIC)持続可能な電波有効利用のための基盤技術研究開発事業(FORWARD) 「光電融合によるコヒーレントTHz波送受信基盤技術の研究開発」(課題番号:JPMI260310004)、科学技術振興機構(JST) 研究成果最適展開支援プログラム A-STEP産学共同(育成型)「シリコンフォトニクスハイブリッドレーザを用いた超高解像度LiDAR基盤技術の開発」(課題番号:JPMJTR23RG)、日本学術振興会(JSPS) 科学研究費助成事業「三次元ヘテロジニアス集積技術を用いた1チップLiDARの開発」(課題番号:23K26166)の支援を受けて行われました。
情報提供元: PRワイヤー
記事名:「 超高速180 Gbit/s・低消費電力光送信器を開発 」