実走行車両から10Gbit/s超の高速通信と車両速度・位置センシングを同時実現



2026年10月1日

京都大学 原田博司研究室



国立大学法人京都大学の原田博司 情報学研究科教授、香田優介 同准教授、遠藤浩明 同博士課程学生らの研究グループは、第5世代移動通信(5G)で使用されるミリ波帯の一つである57~71 GHzのうち60 GHz帯において、超広帯域移動通信とセンシングの融合が可能な広帯域移動伝送試験装置をソフトウェア無線技術により開発し、5G標準化で定められている通信仕様に準拠しながら、国内の5Gに割り当てられている最大チャネル帯域幅400 MHzの約5倍1840 MHzを用いて、実際に走行する車両から最大10.3 Gbit/sの上り超高速無線伝送に成功しました。加えて、この通信用信号を利用することで、走行車両の位置をメートル精度で推定し、超高速無線通信と位置センシングを同時に実現することにも成功しました。本成果により、第6世代移動通信(6G)時代において交差点周辺で生成される点群データや高精度3次元地図情報など、自動運転車両に必要となる大容量の認識情報を移動通信環境下で高速に収集するとともに、これらのデータの生成・活用に必要な測位情報を同時に取得することが可能となり、60 GHz帯ミリ波による通信とセンシングの融合技術を核とした、安全な自動運転車化を支える次世代高速無線通信インフラの研究開発の加速が期待されます。



 



1. 背景



自動運転分野において車両向け通信システムV2X(Vehicle-to-Everything)が注目されており、第5世代移動通信システム(5G)の活用が検討されています。V2Xでは、車両同士あるいは車両と路側インフラとの間で、位置情報、各種センサー、メーター、モニターの情報を共有することで、交通事故の削減等交通分野におけるさまざまな課題解決に貢献することが期待されています。日本では、このようなV2Xの実現に向けて5.9 GHz帯の利用が検討されているほか、28 GHz帯に代表されるミリ波帯を用いた研究開発も進められています。一方で、点群データや高精度3次元地図データなど、自動運転車両からアップロードされるデータ量は今後さらに増大すると予想されており、これらの大容量データを瞬時に収集するためには、より広い周波数帯域を利用した高速・大容量通信技術が必要となります。さらに、高精度地図情報の生成・利活用には、同時に高精度な車両位置情報も必要ですが、代表的な即位技術であるGNSS(Global Navigation Satellite System)は、高層ビルが立ち並ぶ都市環境などでは測位制度が大きく低下する場合があり、このような環境でも高精度かつ簡易に車両位置を推定できる技術が求められています。そこで有力な技術として注目されているのが、60 GHz帯ミリ波を利用した通信とセンシングの融合技術(ISAC:Integrated Sensing and Communications)です。60 GHz帯は、5Gの利用が想定された57–71 GHz帯(n263バンド)の中でチャネル当たり2 GHzの広帯域を利用できることから、自動運転車両から大容量データを高速に収集する無線通信システムと、高精細な車両位置センシングを同時に実現できる可能性があります。これまで、60 GHz帯を用いた無線LAN規格IEEE 802.11ad等、5Gに準拠しないシステムでの通信とセンシングの統合検証例はあるものの、5Gで現在利用されている最大チャネル帯域幅(400 MHz)を超える約2 GHzの超広帯域5G信号について、実際の車両移動環境における高速伝送性能や通信可能範囲、さらに同一の通信用信号を利用した車両位置推定性能については、十分な検証が行われていませんでした。現在5Gの標準化団体である3GPP(3rd-Generation Partnership Project)において、5Gで用いられている直交周波数多元接続方式(OFDMA:Orthogonal Frequency Division Multiple Access)を構成するサブキャリア間隔と呼ばれる最小単位の周波数帯域幅を現状の120 kHzから960 kHzに拡張し、最大帯域幅を2 GHzまで広帯域化することが現在標準規格として定められていますが、こうした広帯域5G信号を60 GHz帯の移動通信環境で送受信し、その通信性能とセンシング性能を同時に評価できる伝送試験装置の実現が求められていました。



 



2.研究成果



5Gの標準化団体である3GPPにより規格化されている5G物理伝送信号フォーマットを基盤とし、国内の5Gで利用されているチャネル帯域幅を大幅にこえる超広帯域信号を60 GHz帯で伝送可能な伝送試験装置を、ソフトウェア無線技術を利用して開発しました。本装置は以下の特長を有しています。



 



1.60 GHz帯において5G標準仕様で採用されているOFDMA方式に準拠した物理層信号を送信可能



2.OFDMA方式におけるサブキャリア間隔を現行5Gで利用されている最大120 kHzから960 kHzへ拡張することにより、5Gで利用されている最大チャネル帯域幅400 MHzの約5倍に相当する1840 MHzの広帯域化を実現し、最大10.3 Gbit/sの高速伝送を達成



3.移動環境下で送信された超広帯域信号に対して正確に同期・復調する信号処理機能をソフトウェア無線技術より開発し、60 GHz帯においても安定した信号受信を実現



4.通信信号の復調時に推定されるドップラー周波数から車両速度を算出するとともに、その速度情報を参照位置から積算することにより車両位置を推定する、60 GHz帯の通信用電波を利用したセンシング用信号処理機構を実装



 



開発した伝送装置を用いて交差点を含む実道路環境において走行車両を用いた伝送試験を実施し、交差点から直線状に約330 m延びる道路を約18km/hで走行する車両から無線伝送を行った結果、交差点から150 m離れた地点においても、10 Gbit/sを超える高速伝送に成功しました。さらに、同じ通信用電波を利用して車両速度および位置を推定し、速度については最大数km/hの誤差、位置については平均数 mの誤差で推定できることを確認しました。



 



伝送実験では、受信機を試験対象となる交差点および道路を見通す建物内の高さ約5.8 mの位置に設置し、受信アンテナのビーム方向を交差点中央からおよそ約100 m離れた道路上の地点に固定しました。その上で、送信機を搭載した車両を交差点中心からおよそ330 mの範囲で走行させ、伝送特性を測定しました。なお送信アンテナの高さは1.5 mとし、送受信アンテナには、利得25 dBiの標準利得ホーンアンテナを使用しました。送信アンテナは常に水平面内で交差点方向を向くように設定する一方、受信アンテナの受信ビーム方向は走行車両に追従させず、実験中を通じて固定しています。本評価では、5G信号のブロック誤り率(BLER:Block Error Rate)を伝送特性の評価尺度とし、BLERが0.1以下となる場合を通信可能としました。QPSKに基づく変調符号化方式(MCS:Modulation and Coding Scheme)7を用いた場合、交差点から約250 mの範囲まで通信可能であることが確認されました。また、64QAMに基づくMCS 17を用いた場合、交差点から約150 mの範囲まで、10.3 Gbit/sのデータレートで通信可能であることが確認されるとともに受信した通信信号から推定したドップラー周波数を用いることにより、車両速度を最大5 km/hの程度の誤差で推定できました。さらに、推定した車両速度を参照位置から積算して車両位置を推定した結果、平均測位誤差は約3 m程度となりました。以上の結果から、今回開発した伝送試験装置および信号処理技術により、実際の車両走行環境において、60 GHz帯の同一の無線信号を用いた10 Gbit/s超の高速通信と車両速度・位置センシングを同時に実現できることを確認しました。



 



3.波及効果、今後の展開



今回開発した伝送試験装置を用いた実証試験により、移動環境に対応した受信信号処理技術を適用することで、60 GHz帯において、5Gを基盤とした超広帯域信号による10 Gbit/sを超える高速無線伝送を 100 m以上の範囲で実現すると同時に、同じ通信用電波を利用してメートル精度で車両位置を推定できることを示しました。本成果は、点群データや高精度3次元地図情報など自動運転に必要となる大容量の認識情報を5G標準仕様に準拠しながら走行車両から高速に収集するとともに、これらのデータの生成・活用に必要となる車両の位置情報を、同じ通信用電波から取得できる可能性を示すものです。今後、本技術をさらに高度化することにより、60 GHz帯の広い周波数帯域を活用した超高速・大容量通信と車両センシングを一体化し、6G時代の安全・安心な自動運転を支える次世代無線通信インフラの研究開発が加速されることが期待されます。



 



本成果は、11月19日–20日にかけて開催される電子情報通信学会短距離無線通信(SRW)研究会で発表を行う予定です。



 



詳しくは



https://www.dco.cce.i.kyoto-u.ac.jp/ja/PL/PL_2026_08.html



をご覧ください。



情報提供元: PRワイヤー
記事名:「 60 GHz帯を利用した超広帯域移動通信・センシング融合技術の基本実証に成功 」