〜ヒト腸内細菌Phocaeicola doreiの D-アラニン・D-セリン産生と新規キメラ酵素の発見〜



【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202609025133-O9-21BlmxzE



【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202609025133-O1-x2cmdf4p     【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202609025133-O2-zJZe2f2V】                                          P ress Release 



【表:https://kyodonewsprwire.jp/prwfile/release/M108422/202609025133/_prw_PT1fl_Fbq5SM0P.png



腸内細菌に新しいD-アミノ酸合成酵素を発見 〜ヒト腸内細菌Phocaeicola doreiのD-アラニン・D-セリン産生と新規キメラ酵素の発見〜



【表:https://kyodonewsprwire.jp/prwfile/release/M108422/202609025133/_prw_PT2fl_YzCu02oa.png



■ 概要



 近年、D-アミノ酸は生物にとって重要な生理機能を担うことが明らかとなり、ヒトではD-セリンが神経伝達、D-アラニンなどが腎臓の機能に関与することが知られています。これらのD-アミノ酸は食品や体内酵素だけでなく、腸内細菌によっても供給されることが分かってきましたが、どの細菌がどのような仕組みでD-アミノ酸を産生しているのかは十分に解明されていませんでした。



 



 本研究では、日本人の腸内に存在する細菌 Phocaeicola dorei に着目し、D-アミノ酸産生能とその分子機構を解析しました。その結果、本菌がD-アラニンおよびD-セリンを産生することを明らかにしました。さらに、D-アラニン合成を担う酵素を解析したところ、一般的なアラニンラセマーゼ(Alr)のN末端側にMurFリガーゼ様ドメイン(MurF’ドメイン)が融合した、これまで報告例のない新規キメラ酵素(MurF'-Alr)を発見しました。組換え酵素を用いた解析では、本酵素がD-アラニンを効率よく生成するとともに、D-セリン生成にも関与する可能性が示されました。また、MurFリガーゼ様ドメインを欠失させると基質親和性や反応速度が低下したことから、この特徴的なドメインが酵素活性を調節している可能性が示されました。



 



 さらに、公共データベースに登録された細菌ゲノムの解析により、MurF'-Alr類似酵素はヒト腸内細菌を多く含むBacteroidota門を中心とした限られた細菌群に分布し、通常のAlrとは異なる進化過程を経て誕生した可能性が示唆されました。



 



 本研究は、ヒト腸内細菌におけるD-アミノ酸産生機構の理解を深めるとともに、腸内細菌の酵素進化の仕組みの解明に繋がる成果として期待されます。



 



【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202609025133-O3-fX7my60d



 



図1. P. dorei JCM 13471Tの培養液中D-アラニン(A) およびD-セリン(B)濃度 (出典: 原著論文Figure 3)



 



【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202609025133-O4-xXV3J3tC



 



図2. 通常のAlrと新規キメラ酵素(MurF’-Alr)のドメイン構造の比較 (プレスリリース用に新規作成。論文未掲載)



 



【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202609025133-O5-m3xHGz07



 



図3. 新規キメラ酵素(MurF’-Alr)の各L-アミノ酸に対するラセマーゼ活性 (原著論文中Table 1を基にプレスリリース用に作成)



 



表1. 新規キメラ酵素(MurF’-Alr)とMurF’ドメイン欠損変異型酵素の 反応速度論的パラメーター (【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202609025133-O6-sUbAXN40



原著論文中Table 3を基にプレスリリース用に作成)



 



 



【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202609025133-O7-RsQ0zx8a



 



図4. 細菌の各門におけるMurF’-Alr類似タンパク質遺伝子の分布 (出典: 原著論文Figure 6)



 



 



【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202609025133-O8-KjEV16ld



図5. Bacteroidota門におけるMurF’-Alr類似タンパク質中の MurF’ドメイン(A)とAlrドメイン(B)の系統解析 (原著論文中Figure 8, 9を基にプレスリリース用に作成)



■ 研究の内容



研究の背景



 タンパク質を構成するα-アミノ酸には鏡像異性体である「L-アミノ酸」と「D-アミノ酸」が存在します。生物のタンパク質はL-アミノ酸で構成されており、天然に存在するアミノ酸のほとんどもL-アミノ酸であることから、長い間、D-アミノ酸は生物にとって重要な機能をもたないと考えられてきました。しかし近年、D-アミノ酸はさまざまな生物の体内に存在し、重要な生理機能を担うことが明らかになっています。ヒトを含む哺乳類では、D-セリンが脳内で神経伝達に関与するほか、D-アラニンをはじめとするD-アミノ酸が腎臓での代謝や体内動態に関与することが知られています。



 哺乳類では、食品の摂取や体内酵素による生合成に加え、腸内細菌による産生もD-アミノ酸の重要な供給源となっていることが明らかになってきました。しかし、どのような腸内細菌が、どのようなメカニズムでD-アミノ酸産生に関与しているのかについては、いまだ十分には明らかになっていません。そこで本研究では、日本人の腸内に存在する細菌の一種であるPhocaeicola doreiに着目し、本菌のD-アミノ酸産生能と、それに関与すると考えられるD-アミノ酸合成酵素の酵素学的性質を明らかにすることを目的としました。



 



研究の成果



1)P. doreiのD-アミノ酸産生を確認



P. dorei の標準株であるJCM 13471Tを培養し、培養液中のD-アミノ酸濃度を分析しました。その結果、P. doreiの培養液では菌を加えずに培養した対照と比較して、D-アラニンの濃度が約150 µM、D-セリンの濃度が約40 µM増加していました(図1)。このことから、P. doreiがD-アラニン、D-セリンの産生能力を有していることが明らかとなり、腸内細菌叢におけるD-アミノ酸産生に関与している可能性が示唆されました。



 



2)新しいドメイン構造を持つアラニンラセマーゼを発見



ほとんど全ての細菌は、L-アラニンとD-アラニンのラセミ化反応を触媒するアラニンラセマーゼ(alanine racemase: Alr)を有しています。そこで、P. doreiのD-アラニン生成を担う酵素を探索するため、JCM 13471T株のゲノム情報からAlr遺伝子を検索しました。その結果、P. dorei JCM 13471TのAlrは、一般的なAlrドメインに加えてN末端側にMurFリガーゼ様ドメイン(MurF’ドメイン)を有する、特徴的なキメラ型の構造を持つことが示されました(図2)。通常、細菌のAlrとMurFリガーゼは細胞壁合成系に関与するそれぞれ独立した酵素です。このような構造を持つ酵素はこれまでに報告されておらず、本酵素は新しいタイプのAlrであると考えられました。



 



3)新規キメラ酵素がD-アラニンとD-セリン生合成に関与する可能性を示唆



見出したキメラ酵素(MurF’-Alr)の遺伝子を大腸菌で発現させ、精製した組換えタンパク質を用いて酵素学的性質を解析しました。その結果、本酵素はアラニンのラセミ化反応を触媒するAlr活性を有することが確認されました。また、L-セリンに対しても活性を示し、その活性はL-アラニンを基質とした場合の約10%でした(図3)。これらの結果から、本酵素はP. doreiにおけるD-アラニンおよびD-セリンの生合成の一部を担っている可能性が示されました。さらに、pHや温度が酵素活性に及ぼす影響や反応速度論的パラメーターを解析し、環境条件による酵素機能の変化や既知のAlrとの機能的な違いを評価するための基礎的な知見を得ました。



 



4)MurFリガーゼ様ドメインがAlr活性に影響する可能性を示唆



上述した通り、本酵素は通常のAlrドメインのN末端側に、MurFリガーゼに類似したドメイン(MurF’ドメイン)を持つことが特徴です。そこで、このMurF’ドメインがAlr活性に及ぼす影響を調べるため、MurF’ドメインを欠失させた変異型酵素を作製し、反応速度論的パラメーターを解析しました。その結果、MurF’ドメインを欠失させるとKmが増加し、kcatが減少しました(表1)。これらの結果から、MurF’ドメインがAlrドメインと基質の親和性や酵素反応の回転数に影響を与えている可能性が示されました。すなわち、本酵素は単にAlrに別の構造が付加されたものではなく、その特徴的なドメイン構造によって酵素機能が調節されている可能性があります。



 



5)MurF’-Alr類似酵素が腸内細菌を含む特定の細菌群に分布することを示唆



NCBI(National Center for Biotechnology Information)に登録されている多数の細菌ゲノムを解析した結果、MurF’-Alrと同様のドメイン構造を持つタンパク質が、主にBacteroidota門やChloroflexota門に分布することが分かりました(図4)。さらに、通常のMurFリガーゼやAlrも含めた系統解析を行ったところ、MurF’-Alrを構成するMurF'ドメインとAlrドメインでは異なる進化パターンが認められました。特にBacteroidota門では、MurF'ドメインは通常のMurFとは独立した系統を形成する一方、MurF’-AlrのAlrドメインは通常のAlrの系統の中に散在していました(図5)。これらの結果から、このキメラ酵素は単一の祖先から受け継がれたのではなく、既存のAlr遺伝子にMurF様配列が複数回融合した、あるいは融合と喪失を繰り返しながら進化してきた可能性が示されました。Bacteroidota門にはヒト腸内に多く存在する細菌が含まれることから、本酵素は、ヒト腸内細菌におけるD-アミノ酸産生機構の解明だけでなく、腸内細菌における酵素進化を理解するうえでも重要な研究対象になると考えられます。



 



■ 成果掲載誌



本研究成果は,国際学術誌「BMC Microbiology」誌に,令和8年7月27日に掲載されました。



〇論文タイトル



『An alanine racemase with a novel domain architecture: a chimeric enzyme with an N-terminal Mur ligase-like domain in Phocaeicola dorei and its distribution in the phyla Bacteroidota and Chloroflexota 』(新しいドメイン構造を持つアラニンラセマーゼ:Phocaeicola dorei に見出されたN末端にMurリガーゼ様ドメインを持つキメラ酵素と、Bacteroidota門およびChloroflexota門におけるその分布)



〇著者



Yuta Mutaguchi, Takuya Tsukahara and Shigeki Kada



〇DOI



 https://www.doi.org/10.1186/s12866-026-05424-7



 



■ 研究体制



本研究は,以下機関の共同研究として行われました.



牟田口 祐太(秋田県立大学)



加田 茂樹(雪印メグミルク株式会社)



塚原 拓也(雪印メグミルク株式会社)



 



■ 問い合わせ先



<研究に関すること>



・秋田県立大学 生物資源科学部 応用生物科学科



 助教 牟田口 祐太(むたぐち ゆうた)



TEL 018-872-1780 Email y-muta@akita-pu.ac.jp



<報道担当>



・秋田県立大学広報



 ディレクター 佐藤 琢麻(さとう たくま)



TEL 018-872-1521 Email koho_akita@akita-pu.ac.jp



 以上



情報提供元: PRワイヤー
記事名:「 【秋田県立大学・雪印メグミルク】腸内細菌に新しいD-アミノ酸合成酵素を発見