一つ目の技術である地震波形の分類には、機械学習モデルDiET(Discriminator for Earthquake and Tremor)を開発して用いています。従来、テクトニック微動の検出には、複数の観測点間での地震波形の類似性を評価する方法が使われてきました。しかし、通常の地震の場合でも地震波形の類似性が高いため、テクトニック微動と地震を自動的に区別することが困難でした。DiETモデルは、地震波形の周波数成分の時間変化を視覚的に表現したスペクトログラムを学習し、観測点ごとに入力波形の分類を行います(図1a)。テクトニック微動と地震では、卓越する周波数成分や地震波の継続時間が異なり、それらの特徴の違いがスペクトログラムに現れます。日本海溝では、S-netの1観測点のみを使って学習した機械学習モデル(Takahashi et al., 2021)の報告が既にありましたが、DiETモデルはS-netの150観測点全てを使って学習を行ったため、モデルの汎化性能の大幅な向上が期待できます。現に、スペクトログラムの特徴を学習したDiETモデルは、97%以上の精度で地震波形を識別し、観測点ごとの効率的なテクトニック微動検出を実現しました。
次に、テクトニック微動検出の信頼性をより向上させて、その震源決定を行うには、複数観測点におけるDiETモデルの検出結果を統合する手法が不可欠です。2019年ごろから、機械学習を用いてテクトニック微動を識別する研究は盛んに行われてきましたが、複数観測点での検出結果を統合する手法は提案されてきませんでした。そこで我々はグラフ理論を用いたクラスタリング手法に着目し、GrASP(Graph-based Associator with Signal Probability)という手法を開発しました。GrASPでは、各観測点における地震波形の判別精度を基にネットワークを構成し、テクトニック微動を検出した観測点群の抽出を行います(図1b)。これは震源から遠ざかるほど地震波の振幅が減衰し、それに伴ってDiETモデルによる地震波形の判別精度が低下するという特性を利用したものです。その結果、複数の場所で同時に発生したテクトニック微動について、それぞれに対応する観測点群を抽出することに成功し、各観測点群で震源決定を行えるようになりました。
論文情報 掲載誌:Journal of Geophysical Research: Solid Earth 論文タイトル:Machine Learning-Based Detection and Localization of Tectonic Tremors in the Japan Trench 著者:Kodai Sagae, Masayuki Kano, Suguru Yabe, Takahiko Uchide DOI:10.1029/2025JB031348
参考文献 Takahashi, H., Tateiwa, K., Yano, K., &Kano, M. (2021). A convolutional neural network-based classification of local earthquakes and tectonic tremors in Sanriku-oki, Japan, using S-net data. Earth Planet Space, 73, 186.