スピーキングにおける流暢さは外国語能力の習熟度を示す重要な側面であり、TOEFLやIELTSなどの大規模テストでスコアに最も影響があるとされています。近年、この流暢さをさらに促進するポイントとして「定型表現」が注目を集めています。定型表現とは、一般的に2語以上からなるフレーズを指し、セットフレーズ(いわゆる決まり文句)として言葉の中で使用されるものです(例:at the end of the day = 結局は)。定型表現は話し手のスムーズな発話を助けるだけではなく、聞き手の理解促進につながることが明らかになっています。
本研究成果は英国の国際学術誌「Studies in Second Language Acquisition」に2025年2月12日(水) (現地時間)に掲載されました。論文名: The role of multiword sequences in fluent speech: The case of listener-based judgment in L2 argumentative task 【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202503135684-O2-lv4FffCe】 図1:高頻度2語連鎖使用が増えるに従って流暢性評価が上昇
今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと 英語を外国語として学習している日本人大学生110人を対象に、「スマートフォンの良い点・悪い点」について、自由に英語で意見を述べてもらいました。録音した発話を発話流暢性の観点から分析し、(1)話すスピード、(2)節内外の沈黙の数と長さ※1、(3)「Ehh, Ahh」などのフィラー(言葉に詰まったときに間を埋めるための言葉)の数、(4)言い直しや繰り返しの数、を測定しました。定型表現の分析にあたっては、発話を書き起こし、専用のソフト※2により発話内の2語と3語の連鎖句全てを分析対象としました。例えば、”I think it might be true that...”という発話の場合、2語連鎖は「I think, think it, it might, might be, be true, true that」になり、3語連鎖は「I think it, think it might, it might be, might be true」になります。これらの2語と3語の連鎖句が定型表現として(1)どの程度頻繁に使われるのか、また、(2)どの程度お互いに語の結びつきが強いのか(低頻度・難しい定型表現なのか)、という2つの観点から、アメリカ英語の話し言葉コーパスを参照して数値化しました。流暢性の評価は、日本語が母語の応用言語学を専攻する大学院生9名と応用言語学の博士号を持つ1名の計10名によって行われました。事前にトレーニングを行い、「流暢性」の観点から一貫して評価できるようにしました。また、評価にあたっては6段階(1=最も非流暢、6=最も流暢)で直感的に行ってもらいました。
用語解説 ※1 節内外の沈黙の数と長さ 英語の文は「節」という単位に分解することができます。英語母語話者は節の途中で止まることは少なく、節の境界で止まることが多いとされています(I think...it might be true that...)。一方、英語の学習者は節の途中で止まることが多いことがわかっています(I...think...it might be...true...that...)。このことから、節の境界で発生する沈黙は「次に話す内容を考える」ためのものであり、節の途中で発生する沈黙は学習者の「言語知識の不足・処理速度の遅さ」を表していると言われています。言語知識と処理速度が流暢性に与える影響について、詳しくは以下の文献をご参照ください。 Suzuki, S., &Kormos, J. (2023). The multidimensionality of second language oral fluency: Interfacing cognitive fluency and utterance fluency. Studies in Second Language Acquisition, 45(1), 38–64. doi:10.1017/S0272263121000899 Takizawa, K. (2024). What contributes to fluent L2 speech? Examining cognitive and utterance fluency link with underlying L2 collocational processing speed and accuracy. Applied Psycholinguistics, 45(3), 516–541. doi:10.1017/S014271642400016X
※2 専門のソフト 話した言葉、または書かれた言葉の中で使われている語彙がどれくらい洗練されているか(どれくらい難しい語彙を使えているか)を分析できる、Tool for the Automatic Analysis of Lexical Sophistication (TAALES)というソフトを使用しました。 Kyle, K., &Crossley, S. (2015). Automatically assessing lexical sophistication: Indices, tools, findings, and application. TESOL Quarterly, 49(4), 757-786. doi:10.1002/tesq.194
論文情報 雑誌名:Studies in Second Language Acquisition 論文名:The role of multiword sequences in fluent speech: The case of listener-based judgment in L2 argumentative task 執筆者名(所属機関名):*瀧澤嵩太朗(早稲田大学大学院教育学研究科), 鈴木駿吾(早稲田大学グリーン・コンピューティング・システム研究機構) *:責任著者 掲載日時(現地時間):2025年2月12日 DOI: https://doi.org/10.1017/S0272263125000051