~酸化チタン光触媒へのTi3+の安定的導入と高表面積化を両立させる新技術~

2024年9月9日
東京都立産業技術研究センター

 光と海水による水素生成は、光触媒の劣化や活性不足という課題がありました。都産技研(地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター)は、慶應義塾大学およびフォトジェン株式会社と共同で、酸化チタンの格子内にTi3+を安定的に増加させる技術を開発しました。このTi3+を多く含む酸化チタンは、太陽光への応答や水素生成能が大きく改善されます。さらに、海水分解時に極微量のエタノールを添加することで、相乗効果によって海水分解性能の向上につながることを見出しました。この成果は、持続可能な水素社会を実現するための技術開発に向けた一歩となります。

 

開発のポイント 

●酸素欠損酸化チタンを、エタノール溶媒中で直径0.3 mm程度のビーズを用いて最適条件で粉砕処理を行うと、粉砕に引き続いて凝集が起こります。この作用を利用して高表面積を保持したままTi3+を酸化チタン格子内に安定的に固定できました。

●可視光(~近赤外)と紫外光の同時照射で、紫外光のみと比べて約9倍の相乗効果が得られました。

●極微量(0.005 vol%程度)加えたエタノールが水分解反応のきっかけを作ることで、海水分解の効率アップに繋がりました。

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【表:https://kyodonewsprwire.jp/prwfile/release/M104804/202409096054/_prw_PT1fl_E9n8xBt9.png

 

背景

 太陽光で海水を分解して取り出したグリーン水素は夢のクリーンエネルギーとして切望されています。しかしながら、光触媒1)で海水を分解する際に副生成する次亜塩素酸2)などの腐食性物質による触媒劣化などが課題となっています。

 安定で安価な光触媒材料として酸化チタンがセルフクリーニング分野で注目されてきましたが、紫外光下でしか機能せず、水分解は不得意という欠点を有しています。

 Ti3+導入3)(可視光応答化手段の一つ)のための様々な手法が報告されていますが、高比表面積を保持しながらTi3+を酸化チタン格子内に安定して固定できる簡易な方法は見当たりません。

 

本研究によって得られた成果

 エタノール中で直径0.3mm程度の微細ビーズを用いて粉砕処理すると、粉砕に引き続いて凝集が起こり、高い比表面積を保持したまま安定的にTi3+を酸化チタン格子内に導入できることを見出しました(図1)。

→この手法は劣化しにくい非貴金属系の光触媒材料の開発へ適用が可能です。

 

 紫外-可視光照射開始の約20分後から水素生成が確認され、その後30分経つと水素生成速度が安定しました。水素生成速度(犠牲試薬4)存在下)は元の酸化チタンの16倍まで向上しました(図2左)。

 可視光のみの照射では水素生成は観測されませんでしたが, 紫外光と可視光両方を照射すると, 紫外光のみの照射に比べて9倍まで水素生成速度が向上しました(図2右)。

 極微量のエタノール(0.005 vol%)を含有する系で光(紫外+可視)照射中に人工海水(濃い)を添加すると、添加前の5倍の水素が安定して生成できることを見出しました(図3)。微量エタノールが塩素イオンの犠牲試薬としての作用をアシスト可能なことが分かりつつあります。

 

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【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202409096054-O3-g5UowDiW

図2 処理前後および照射光の種類における水素生成速度の比較。

(比較実験の都合上、20 vol%のエタノール(犠牲試薬)を入れて、水素が出やすいようにしてあります。 )

 

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図3 水素生成速度に対する人工海水添加の影響。
[サンプル: 0.01 g、エタノール添加: 0.005 vol% or なし]

(添加後の系全体の濃度が海水の1/5程度になるように調整(濃く)した。)

 

 

用語の解説

1) 光触媒:光エネルギーで励起電子(-)と正孔(+)を生じさせ、水分解においてはそれらがそれぞれ還元反応(水素を生成)と酸化反応(酸素を生成)に寄与します(*海水では塩素イオンが正孔との反応に寄与します)。光エネルギーを化学エネルギーに変換可能な材料として注目されています。

 

2) 次亜塩素酸:海水中の塩素イオンの酸化で副生成します。次亜塩素酸イオンや次亜塩素酸の塩類は、消毒剤や漂白剤、酸化剤として利用可能です。

 

3) Ti3+: 還元種であるTi3+は通常は空気中の酸素でTi4+(通常の酸化チタン: TiO2)に酸化されてしまい不安定ですが、酸素欠損を間に挟んでTi3+を格子内に固定すると安定化することが知られています。可視~近赤外の範囲の光吸収や活性向上に寄与します。

 

4) 犠牲試薬(光触媒反応において):生成した正孔との反応に寄与し、励起電子の再結合を抑制することで、励起電子による水素生成反応を進みやすくさせるために入れる試薬のことです。アルコールなどが用いられます。

 

◆今後の展開◆

 今回見出した手法を用いてさらなる活性の向上などを図るため、有効な反応場の増加や改質などを行い、実用的な耐久性も検討しながら、太陽光による海水分解を実用に近づけるための研究開発を継続していきます。

情報提供元: PRワイヤー
記事名:「 太陽光と海水からグリーン水素を発生する非貴金属系の光触媒を開発!