今回の技術は、MALDI-TOF MSによる多様な微生物種同定のため、微生物ゲノム情報を利用した新しいアプローチを考案、原核微生物の大規模理論タンパク質量データベースの構築と、それを利用した解析アルゴリズムの開発で実現しました。本開発技術のコアとなる大規模理論タンパク質量データベースの構築にあたっては、公共の塩基配列データベースから原核微生物ゲノム情報を入手して、合計 約20万件のバクテリア・アーキアのゲノム情報を利用しました。これらは、およそ3.1万の種レベルの系統分類群を代表しています。本ゲノム情報をもとに、ゲノム中の遺伝子にコードされたタンパク質量を予測する独自の情報解析方法を構築し、個々の微生物ゲノム配列から全てのタンパク質の分子量を理論的に予測しました。それら理論分子量のリストが、従来法で培養微生物細胞を利用しMALDI-TOF MSで測定した質量スペクトル(ピークリスト)に相当します(図1)。本技術のゲノム情報から予測した理論タンパク質量データベースをGPMsDB(Genomically predicted protein mass database)と称しました。本データベースは、実測質量スペクトルから構築される質量データベースと同様に利用でき、かつそれらを置き換える可能性を持っています。
論文タイトル:A large-scale genomically predicted protein mass database enables rapid and broad-spectrum identification of bacterial and archaeal isolates by mass spectrometry
著者:Yuji Sekiguchi, Kanae Teramoto, Dieter M. Tourlousse, Akiko Ohashi, Mayu Hamajima, Daisuke Miura, Yoshihiro Yamada, Shinichi Iwamoto, Koichi Tanaka