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東洋大学
2023 News Letter Vol.1
新しい観光のパラダイム
航空産業の復活
東洋大学 国際観光学部教授 野村尚司
東洋大学国際観光学部では、新しい観光の考え方・取り組みを連載で紹介する「新しい観光のパラダイム」を、2021年度から公開しています。コロナ禍が落ち着き、観光の復活が本格的に進められているこの時期に、観光産業・教育における新しい潮流を解説するコンテンツを、連載していきます。2023年度のテーマは「航空産業の復活」「文化観光と博物館」「コロナ禍における教育の再考」「ホスピタリティ「経営」という着眼」の4つです。東洋大学ではこれからも、変化に対応し、時代を切り拓ける人材を育成していきます。
航空運賃の下落とコスト削減
航空券価格は下落の一途を辿り、底が見えない状態で運賃収入の確保に苦労しています。昨今ではオンライン会議の定着などで業務旅行が低迷する一方、航空各社はレジャーやVFR(友人・親族訪問)の旅客獲得に注力しているところです。昨今、マイル・サービスが広く定着してきたことから、提携企業へのマイル販売による非運輸収入系部門の増収に向けた動きも活発化してきました。
運営費用の削減も待ったなしの状況です。その方策として、①JAL・ANAではグループ内にFSC(フルサービス航空事業)に加え、LCC(低費用・低運賃航空事業)部門を拡大。②販売、座席管理や人手不足に対応するデジタル化を推進、などが挙げられます。これは旅客にとって予約、空港手続の簡略化にもつながり安価かつストレスの少ない旅行実現につながるメリットがあります。
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航空各社が推進するESG経営とSDGs
各社の経営計画ではESG経営(社会や環境に配慮しながら企業統治を行う手法)の重視を打ち出しています。
JALでは2050年のCO2排出実質ゼロの達成に向けた具体策として、①低燃費の新型機材導入(寄与率50%)(注)、②運航上の工夫(同5%)、③SAF(化石燃料の代替となる航空燃料)の使用(同45%)を示しています。②の割合は小さく、③のSAFは現状では高価でありその導入はゆっくり進みます。そうなると、①の低燃費機材の導入に大きな期待がかかるところです。これは既存機材の置換や旅客の快適性向上のみならず、CO2排出削減に寄与することも意味しています。SDGsの進展も相まって昨今では市場側の消費行動「エシカル消費(倫理的消費)」の普及も求められるようになりました。
LCCはエシカルな航空の在り方を体現
同サイズの航空機では低燃費であるほどCO2排出量は減少します。さらに快適性を追求した余裕ある座席配置のFSCと比較して、高密度に座席を配置したLCCは1席当たりの排出量は少なくなります。つまりLCCの利用はエシカル消費の促進も意味しているのです。今後「安価なLCC」から「環境にやさしい賢い旅を演出するLCC」へのイメージ転換が進んでいきます。そしてそれはSDGs12番目の項目「作る責任 使う責任」にも合致しているのです。その結果、「飛び恥」という言葉も過去の遺物になっていくことは間違いありません。
(注)国際航空運送協会(IATA)によると、初期型ジェット旅客機(コメット機)と比較して、最新型(A320neo)では1席当たりの燃料消費量が5分の1にまで減少。さらなる低燃費化を目指した開発競争も進展。
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写真: 現在、最も燃費のより機材の一つ、A321neo(LR)
(出典:ジェットスター・ジャパンホームページ)
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202310181266-O3-20E1cccZ】
野村 尚司
東洋大学国際観光学部 教授
専門分野:民間航空経営 旅行商品流通
研究キーワード:LCC OTA 空港活性化