3. 研究の背景 超伝導[1]は低温で発現する量子現象の一つで、特定の物質を超伝導転移温度(Tc)[2]以下に冷却すると電気抵抗が完全に消失します。この現象を利用した超伝導電磁石は超伝導リニアやMRIに使用されています。また、超伝導素子を用いた量子コンピュータも開発されており、超伝導素子や超伝導磁石、それらを構成する超伝導材料のさらなる特性向上が望まれています。特に、超伝導体を使用する際には極低温に素子や材料を冷却する必要があるため、数百ケルビン[3]の温度変化を繰り返しても素子や材料の特性が劣化しないことが望ましく、その解決策の一つが熱膨張[4]をしない超伝導体を開発することです。 東京都立大学大学院 理学研究科物理学専攻の水口佳一准教授らは、2022年に遷移金属ジルコナイド超伝導体CoZr2が極低温から高温までの広い温度域で一軸的な負の熱膨張を示すことを見出しました(Y. Mizuguchi et al., J. Phys. Soc. Jpn. 91, 103601 (2022).)。図1に示すCoZr2系の結晶構造(正方晶系CuAl2型構造)において、CoZr2ではa軸方向は正の熱膨張を示しますが、c軸方向に負の熱膨張が観測されます。正方晶系の単位格子体積は、V = a × a × c で表されるため、さらに大きな一軸的な負の熱膨張をc軸方向に生じさせることができれば、体積熱膨張がゼロの超伝導体の開発につながります。その目標を達成するために、本研究ではCoZr2系における負の熱膨張発現の起源の解明と、元素置換による熱膨張係数制御方法の開発を目的に研究を行いました。