本研究成果は、日本時間令和4年6月3日(金)にProceedings of the National Academy of Science誌のオンライン版で発表されました。
【発表のポイント】
・病原細菌がミトコンドリア機能を操作する分子メカニズムのひとつが明らかにされた。
・細胞エネルギー産生の中枢システムが細菌酵素による化学修飾によって障害された。
・相反する活性を持つ2つの細菌酵素がミトコンドリア機能を可逆的に制御した。
・脱修飾酵素の結晶構造を解明し、この酵素が収斂進化2)により獲得されたことを示した。
【概要】
ミトコンドリアはヒトを含めた真核生物におけるエネルギー産生の中枢であり、感染においては病原体を排除するための主要な免疫応答を担います。これに対して、病原体の側は感染を果たすために様々なアプローチで宿主細胞のミトコンドリア機能を操作することが知られていますが、その詳細な仕組みは明らかにされてはいません。本研究では、重篤な肺炎を引き起こす病原細菌であるレジオネラがエフェクターと呼ばれる機能性タンパク質の持つ酵素活性を使ってミトコンドリア機能を制御することを見出しました。レジオネラエフェクターのひとつであるLpg0080 はミトコンドリア内外にADPやATP を輸送するポンプである ADP/ATP交換輸送体 (ANT)に化学修飾を施すことで、それと連動して働く ATP 合成酵素を含めたミトコンドリア電子伝達系3)の作用にブレーキを掛けることがわかりました。さらに、別のエフェクターであるLpg0081 は ANT の化学修飾を外すことで、ブレーキを解除することがわかりました。