福間剛士教授ら、生きた細胞の内部の構造やその動きを直接観察できる原子間力顕微鏡技術を開発

2021/12/26
金沢大学ナノ生命科学研究所(NanoLSI)

 
News Release
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金沢大学ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)プレスレリース
発信元:金沢大学ナノ生命科学研究所
DATE:2021年12月26日

金沢大学ナノ生命科学研究所研究・研究発表情報:生きた細胞の内部をナノレベルで直接観察できる原子間力顕微鏡技術の開発に成功!

(Kanazawa 26 December 2021) 金沢大学ナノ生命科学研究所の福間剛士教授,マルコス・ペネド特任助教(研究当時),産業技術総合研究所の中村史副連携研究室長らの共同研究グループは,生きた細胞の内部においてナノスケールの構造やその動きを直接観察できる原子間力顕微鏡(AFM)(※1)技術を開発することに成功しました。

生細胞内部におけるオルガネラ(※2)やタンパク質などのナノスケールの構造および動態を理解することは,さまざまな細胞機能やそれが関係する疾患,老化などの生命現象の仕組みを理解する上で,極めて重要な手がかりとなります。しかし,従来の観察技術では生きた細胞の中でそれらを直接観ることはほとんどできませんでした。
本研究グループは,生きた細胞の内部を直接観察できる新たな技術である「ナノ内視鏡AFM」を開発しました。この技術では,あたかも生きた人体に細長い内視鏡カメラを挿入してその内部を観察するように,生きたままの細胞の内部に細長いニードル状のAFM探針を挿入し,その探針の先端が細胞内の構造と接触する際に受ける微弱な力を検出することで細胞内構造を画像化します。本研究では,この技術を用いて細胞核やアクチン繊維(※3)などの3次元分布や,細胞膜を支えるナノスケールの裏打ち構造の動きを生きたままの細胞の内部で観察できることを明らかにしました。
ここで開発した技術は将来,従来技術では観ることのできなかったタンパク質やオルガネラの動きや硬さなどを細胞内で直接計測することを可能とします。さらに,この技術は,がんや感染症などの重大な疾患の発生や悪性化のメカニズムを解明し,診断・治療法の改善に貢献することが大きく期待されます。

本研究成果は,2021年12月22日午後2時(米国東部時間)に米国科学誌『Science Advances』のオンライン版に掲載されました。

 
【研究の背景】
生きた細胞の中で働くタンパク質,核酸(※4),脂質,代謝物質などのナノスケールの構造および動態を理解することは,疾患や老化などのさまざまな生命現象を根本的に理解するために極めて重要です。しかし,既存の観察技術では,それらを生細胞内部で観ることはほとんどできていません。例えば,蛍光顕微鏡(※5)では蛍光ラベルをつけた生体分子の位置を知ることはできますが,分子自身の形を観ることはできません。一方,電子顕微鏡(※6)では凍結した細胞の内部をナノレベルで観ることはできますが,液中で動作する様子を観ることはできません。それに対し,原子間力顕微鏡(AFM)は,液中で生体分子の構造を直接観察できる現在唯一の技術であり,その点において非常に有望です。しかし,従来のAFMは,観察対象の表面を鋭くとがった針でなぞることで表面形状を知るという原理から,膜に覆われた細胞の内部にある立体構造を観ることは不可能でした。

【研究成果の概要】
本研究グループは,生細胞内部の構造や動態を直接ナノスケールで観察できる「ナノ内視鏡AFM」を初めて開発することに成功しました。この技術では,あたかも人体に細長い内視鏡カメラを挿入してその内部を観察するように,生きた細胞の内部に細長いニードル状のAFM探針を挿入し,その内部構造を可視化します。探針を細胞内部に挿入する際に,探針先端は内部構造を押しのけるための反発力を受けますが,その力を3次元的に記録することで細胞内構造を可視化できます。本研究では,この技術を用いて細胞核やアクチン繊維などの3次元分布や,細胞膜を支えるメッシュ状の裏打ち構造の動きを生きたままの細胞の内部で観察できることを明らかにしました。
これまでにも,細胞表面をAFM探針で強くたたいて硬さ分布を計測する方法や,細胞内を伝搬する振動波の減衰を測定する方法により,AFMで細胞内構造を観察しようとする試みはありましたが,いずれも細胞内構造の2次元投影図しか得られていませんでした。それを本研究では,はじめて3次元的に可視化することに成功しました。さらに本手法では,細胞内構造と探針を直接接触させられるため,原理的には,分子分解能観察や,力学物性計測,分子認識イメージングなどのほぼすべてのAFM機能が活用できます。これらの計測は従来法では原理的に不可能だったものであり,本技術の開発によって新たな計測の可能性が拓かれました。

【今後の展開】
 本研究で開発した技術により,将来,細胞内のさまざまな生命現象が直接ナノスケールで観察できるようになることが期待されます。例えば,細胞核や,ミトコンドリア,細胞骨格の表面で働くタンパク質の様子や,細胞-細胞間の接着構造,細胞核やミトコンドリアの硬さの細胞老化に伴う変化などを生細胞の内部で直接観察できる可能性があります。これらの方法により,がんや感染症などによって生じる細胞内の変化を詳細に知ることができれば,それらの診断や治療法の改善につながることが期待されます。

本研究は,文部科学省世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI),日本学術振興会科学研究費助成事業(基盤研究(A),20H00345),科学技術振興機構未来社会創造事業(18077272),金沢大学戦略的研究推進プログラムの支援を受けて実施されました。

 
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202112265531-O5-YJ8PR4n4
図1. ナノ内視鏡AFMによる細胞内3次元観察の原理と測定例.(a)動作原理.(b)生きたHeLa細胞の3次元AFM像.(c)生きた繊維芽細胞内部のアクチン繊維の3次元AFM像.

 
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202112265531-O6-38iJdoeB
図2.ナノ内視鏡AFMによる細胞内2次元観察の原理と測定例.(a)動作原理.(b)繊維芽細胞の細胞膜の内側にある裏打ち構造の2次元AFM観察像.メッシュ状のアクチン繊維の分布とその動的な変化が観察されている。

 
【掲載論文】
雑誌名:Science Advances

論文名:Visualizing intra-cellular nanostructures of living cells by nanoendoscopy-AFM
(生細胞内部のナノ構造を可視化するナノ内視鏡AFM)

著者名:Marcos Penedo, Keisuke Miyazawa, Naoko Okano, Hirotoshi Furusho, Takehiko Ichikawa, Mohammad Shahidul Alam, Kazuki Miyata, Chikashi Nakamura, Takeshi Fukuma
(マルコス・ペネド,宮澤佳甫,岡野直子,古庄公寿,市川壮彦,モハマド・シャヒドゥル・アラム,宮田一輝,中村史,福間剛士)

掲載日時:2021年12月22日午後2時(米国東部時間)にオンライン版に掲載

DOI: 10.1126/sciadv.abj4990
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.abj4990           

 
【用語解説】
※1 原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscopy: AFM)
 鋭く尖った探針で固体表面をなぞることで,その表面形状を観察することのできる表面分析技術。液中で原子や分子を直接観ることのできる顕微鏡技術。

※2 オルガネラ
 細胞核やミトコンドリアなどの細胞内小器官であり,細胞の増殖やエネルギーの生成など,細胞の機能を維持するための様々な機能を果たす。

※3 アクチン繊維
 細胞骨格の一種。細胞の形状維持や運動のために重要な役割を果たす。

※4 核酸
DNAやRNAの総称。遺伝子情報の保持や,その情報に基づいてタンパク質を生成するために重要な役割を果たす。

※5 蛍光顕微鏡
蛍光分子を興味のあるターゲット分子に結合させ,蛍光の分布を観察することで,ターゲット分子の分布や,それが局在する細胞内の立体構造を可視化する顕微鏡技術。生命科学分野での細胞観察に幅広く利用されている。

※6 電子顕微鏡
試料に電子線を照射して,そこで放出される2次電子や反射電子,あるいは透過電子を検出することで,物質の構造をナノレベル以下の分解能で観察できる顕微鏡技術。細胞観察においては,凍結もしくは樹脂包埋などの方法で固定して,静止構造を観察する。

 
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【本件に関するお問い合わせ先】
■研究内容に関すること
金沢大学ナノ生命科学研究所 教授
福間 剛士(ふくま たけし)
TEL:076-234-4574
E-mail:fukuma@staff.kanazawa-u.ac.jp

金沢大学ナノ生命科学研究所 特任助教
国岡 由紀(くにおか ゆき)
TEL:076-234-4574
E-mail:kunioka@staff.kanazawa-u.ac.jp

■広報担当
金沢大学ナノ生命科学研究所事務室
米田 洋恵(よねだ ひろえ)
TEL:076-234-4556
E-mail:nanolsi-office@adm.kanazawa-u.ac.jp

※ 世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)
研究分野や国のボーダー,言語や制度のバリアーを越えて,世界から第一線の研究者が集まる「目に見える国際研究拠点」の形成を目指して,2007年に文部科学省が開始しました。2021年現在,日本各地で14の研究拠点が研究活動を展開し,世界最高水準の研究成果を生み出し続けています。

※ 金沢大学ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)
2017年度世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)に採択され設立された研究所です。
液中で原子や分子の動きを直接観ることのできるナノプローブ技術の開発で世界をリードしています。本研究所は,これらのユニークなイメージング技術を基盤として,細胞の表層や内部という「未踏ナノ領域」を開拓し,人類が観たことのない現象を直接可視化することで生命科学分野に飛躍的な進展をもたらすとともに,「ナノプローブ生命科学」という新たな学問分野を形成することを目指しています。
Website: https://nanolsi.kanazawa-u.ac.jp/
Twitter: https://twitter.com/nanolsi

情報提供元: PRワイヤー
記事名:「 金沢大学ナノ生命科学研究所:生きた細胞の内部をナノレベルで直接観察できる原子間力顕微鏡技術開発に成功