- 週間ランキング
国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学
岐阜大学教育学部家政教育講座 久保和弘教授は、美健産業株式会社(愛知県名古屋市)との共同研究で、富山県産の天然ゼオライト(写真)が肥満モデルマウスの高血糖・高脂血症・肥満を改善することを発見しました。また、ゼオライトの高い安全性も確認しました。食物繊維のような機能性成分としてその応用が期待されます。
本研究成果は、2021年11月6日(土)にJournal of Nutritional Science and Vitaminology誌のオンライン版で発表されました。
【発表のポイント】
・急性経口毒性試験において、ゼオライトの最小致死量が雌雄マウスともに体重1kgあたり2,000mg以上であることが明らかとなり、高い安全性が確認されました(表1)。
・高脂肪飼料(30kcal%脂肪)を用いた長期摂取試験(18週間)において、10%ゼオライト含有飼料を摂取した群は、対照群と比較して、飼料摂取量(図1)とエネルギー摂取量に差がないにもかかわらず、体重(図2)、肝臓重量および精巣上体脂肪(内臓脂肪)重量の増加が抑制されました(表2)。
・血漿脂質(中性脂質(注1)、総コレステロールおよび非HDLコレステロール/HDLコレステロール比(注2))(表2)および空腹時血糖が、ゼオライト摂取量に依存して減少しました。
・経口ブドウ糖負荷試験(注3)(長期摂取試験12週目に実施)において、ブドウ糖投与後の食後血糖上昇がゼオライト摂取量依存的に抑制され(図3)、かつ、インスリン(注4)分泌も同様に抑制されました(図4)。
・ゼオライトは消化管から吸収されないことから、食物繊維のような機能性成分としてその応用が期待されます。
【研究背景】
地殻中の豊富なミネラルである天然ゼオライトは、イオン交換特性をもつアルミノケイ酸塩で、構造空孔の微細なネットワークをもち、共通の酸素原子を通して連結しています。それらは、選択的に水を吸着して、カチオンを交換します。このような機能特性を利用して、工業におけるイオン交換剤や触媒、農業における土壌改良剤、公衆衛生における水質浄化剤、環境保全における資材など様々な用途に活用されています。これまでに知られている天然ゼオライトは安価で、毒性を示さず、環境汚染を引き起こさないことが報告されています。ゼオライトは、そのよく知られた吸着特性によって整腸作用や有害物質の吸着排出効果等が期待されることから、家畜の飼料添加剤としても活用されています。消化管から吸収されないので、食物繊維のような機能性食品成分として、過剰な糖質や脂質の吸収を抑制し、延いては肥満等を予防することにも繋がると期待されます。しかし生活習慣病予防の観点からの研究報告は見当たりません。
そこで本研究では、生活習慣病予防を目的とした食品の開発への応用を目的として、最初に、天然ゼオライトの安全性について検討し(急性経口毒性試験)、次に、高脂肪飼料摂取に伴う肥満・2型糖尿病に対する天然ゼオライトの有効性について検討しました(長期摂取試験)。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202111243834-O5-dFjWXzh4】 【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202111243834-O6-o21e8W17】
表1. ゼオライト溶液の急性経口毒性試験における体重変化
【表:https://kyodonewsprwire.jp/prwfile/release/M106389/202111243834/_prw_PT1fl_S698Gf0a.png】
平均値 ± 標準誤差 (各群5匹). 対照:生理食塩水
【研究成果】
久保和弘 教授は、美健産業株式会社(愛知県名古屋市)との共同研究を実施し、富山県八尾層群の火成岩由来のゼオライト(平均粒径約100µm)が、肥満モデルマウスの高血糖・高脂血症・肥満を改善することを発見しました。急性経口毒性試験において、ゼオライト2,000mg/20mL/kg体重(比較する対照群へは生理食塩水20mL/kg体重)の投与量を単回経口投与し、14日間の観察、および、観察終了後に全ての動物の剖検を実施した結果、使用された動物のいずれも異常および死亡が観察されず、ゼオライト摂取群と対照群の体重にも差が認められませんでした(表1)。高脂肪飼料(30kcal%脂肪)を用いた長期摂取試験(18週間)において、飼料摂取量(図1)、摂取エネルギー量、飲水量および初体重には差がないにも関わらず、体重増加量はゼオライト摂取量依存的に抑制され、ゼオライト0%群に比べてゼオライト10%群で有意に抑制されました(変曲点は10週目)(図2)。このとき、肝臓、精巣上体脂肪(内臓脂肪)および腎周囲脂肪(内臓脂肪)の重量は、ゼオライト摂取量依存的に低下し、前二者はゼオライト0%群に比べてゼオライト10%群で有意に低下しました(表2)。長期摂取試験の12週目に実施した経口ブドウ糖負荷試験において、空腹時の血糖値(図3、(0分)とインスリン濃度(図4、0分)、および、ブドウ糖投与後の食後血糖ピーク(図3)とインスリン分泌量(図4)が、ゼオライト摂取量依存的に抑制され、ゼオライト10%群はゼオライト0%群に比較して、すべての測定点で有意に低下しました。血漿の中性脂質と総コレステロール、および、非HDLコレステロール/HDLコレステロール比もゼオライト摂取量依存的に低下しました(表2)。以上より、ゼオライトの高い安全性および有効性が確認されました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202111243834-O13-bu5zHlT2】
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202111243834-O12-hSH3kAt6】
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202111243834-O14-FK3Ygr7j】
【今後の展開】
ゼオライトの有効性は、食物繊維がもつ消化管吸収の調節作用に似ていると考えられます。今後、高脂肪食に伴う高血糖・高脂血症・肥満を予防することを目的とした機能性食品への応用が期待されます。
【論文情報】
雑誌名:Journal of Nutritional Science and Vitaminology
タイトル:Zeolite Improves High-Fat Diet-Induced Hyperglycemia, Hyperlipidemia and Obesity in Mice
著者:Kazuhiro KUBO, Yasuyuki KAWAI
DOI番号:10.3177/jnsv.67.283
論文公開URL:https://doi.org/10.3177/jnsv.67.283
【用語解説】
(注1)中性脂質:脂質異常症の診断指標の一つ。動脈硬化と関連。
(注2)非HDLコレステロール/HDLコレステロール比:脂質異常症の診断指標の一つ。動脈硬化と関連。
(注3)経口ブドウ糖負荷試験:糖尿病の診断方法の一つ。とくに早期の糖尿病を検出するための検査。
(注4)インスリン:血糖値の上昇に伴い膵臓から分泌され、血糖値を下げる働きをもつ唯一のホルモン。
【研究支援】
本研究は、美健産業株式会社(愛知県名古屋市)の共同研究費による支援を受けました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202111243834-O10-7uZ3nNzc】 【研究者プロフィール】
久保 和弘(くぼ かずひろ)
岐阜大学教育学部 教授
<略歴>
1993年3月 東京農業大学大学院農学研究科博士前期課程 修了
1993年4月 東京農業大学農学部農芸化学科 副手
1999年4月 社団法人日本食品衛生協会 リサーチレジデント
2000年1月 博士(農芸化学)(東京農業大学)
2000年1月 科学技術振興事業団(JST)科学技術特別研究員
2002年11月 独立行政法人国立健康・栄養研究所 研究員
2005年4月 奈良学園奈良文化女子短期大学衛生看護学科 助教授
2010年4月 岐阜大学教育学部 准教授
2017年4月 岐阜大学教育学部 教授
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202111243834-O11-30olYl70】 【研究者プロフィール】
河合 康之(かわい やすゆき)
美健産業株式会社 会長(愛知県名古屋市)
<略歴>
1960年3月 日本大学理工学部物質応用化学科 卒業
1960年4月 岩井産業株式会社 化学品部有機課
1964年9月 建材化工株式会社 設立
1991年3月 中川式気功 気科学療法士 取得
1991年10月 コスモ気治療院 開設
2008年2月 美健産業株式会社 設立
2013年2 月 美健産業株式会社 会長